09-03 鳥狩の成果と休息

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本文

ダンジョンから戻ってきたら、そこは静かだった。

現在の時刻は朝9時少し前… 彼らは深夜に戻ったはずなので、きっと寝ているのだろう。

そして、俺自身だが、さすがに13時間の連続戦闘で疲労を感じていた。戦えないわけではないが、今すぐに休むべきだろう。

ということで、スモークテントを展開し、ログアウトした。

「ログアウト… できたか。頭が痛いな。」

現実に戻って来た。確かな布団の感触がしているので間違いない。だが、疲れた感じがする。

どうやら、VRで長時間戦闘した影響もあって、現実でも疲労している感覚が残っているようだ。今も、鳥のピーチクパーチクという鳴き声が脳内再生されていて、ちょっと気分が悪い。

とりあえず、少し休憩したらログインして、街へ戻るとしよう。リアルで半日くらいは休みを取りたいので、街中でちゃんとログアウトしたい。ゲーム内のテントは24時間経過すると、中に人がいても関係なく消えてしまうからだ。

その後、リアルで1時間ほど休憩と体操をこなしてからログインした。なお、「体操」とは、ラジオ体操のことだ。自室、職場のオフィスも含め、狭い空間で手軽に前進を解せるので、5年ほど前から週刊にしている。

「ユー様、こんにちわ。」

ゲーム内時刻は13時を少し過ぎていた。

「おぅ、ユーさん。おはようだ!」

「すまない。待たせたな。」

「いんや、かまわないさ。おかげで、俺たちも大儲けできたぜ。」

「それにしても、ダンジョンが消えるまで生還とは、格の差ってやつを感じたよな!」

戻ってきたら、スピリットフォースの面々に労ってもらえた。時間も経ったし、突発クエストも終了していたので、置いてかれても不思議ではなかったんだが…

「ユーさんも戻って来たんだ。街へ帰ろうぜ!」

「おぅよ。もうここじゃレベルも上がらないみたいだしな。」

確かにそうだろう。第3マップのフィールドで上げられる最大レベルは18、ダンジョンで20だ。レベル12のブレイオが18に上がっているのだから、それよりレベルが高かった彼らは上限まで達しているに違いない。

なお、「狩場」に分類されるダンジョンでは、最大レベルが 19 までしか上がらない。レベル20が欲しかったら、ちゃんとしたダンジョンでしっかり探索して狩れ、ということなのだろう。

その後、俺たちはノンノリアへと戻った。

「ユーさん、今回は助かったぜ!」

「こちらこそ、たっぷり稼げた。とはいえ、一気に放出したら買いたたかれそうな量だけどな。」

「違いねぇ。だが、羽や肉は需要があるから、どこでも売れるもんだぜ。」

鳥系モンスターの素材の多くは、縫製や錬金、料理に使うことができる。

そして、ここはゲーム世界。各種生産技能には、同じ品質のアイテムを一気に作成する大量生産系の技も揃っているので、素材を使い切ること自体は簡単でもある。

ただし、「楽してレベルは上がらない」システムなので、これらの技に頼っていると生産技能が育たない。よって、生産職がこれに頼る時というのは、依頼を受けて大量生産が必要な場合や、手元資金が欲しい場合などに限られる。

「ユーさんは、この後どうするんだ?」

「そうだな。俺は、宿で休む予定だ。さすがに疲れた。」

「そうか。また会うことがあれば、腕っぷしを見せてくれや!」

「腕っぷしって、また腕相撲するのか?」

「それもいいが、一緒に訓練場で鍛えたりもしたいぜ。」

NPCの拳士たちとのスパか。言われてみれば、最後に拳士とやり合ったのは、S2のダナンドさんだった。

彼らは、レベル的には格下ではあるが、技能の方は中級技能が生えそうでもある。あるいは、俺とやり合う過程で生えてくれるかもしれない。中級技能持ちの相手とやり合えるなら、こっちの技能育成にもなるだろう。

「訓練場か。そうだな、少し先になる。あし… いや、4日後ならどうだ?」

「4日後か。良いぜ。こっちこそ、格上に挑めるんだ!文句は無いぜ!」

危うく、「明日」と言いそうになった。ゲーム内時間は4倍速なので、リアルで一日休むということは、ゲーム内で4日間休むということだ。

その後、俺はログアウトしたのだった。なお、ブレイオのステータスは以下のようになっていた。

名前: ブレイオ

種族: 雷の若鬼精

レベル: 18

体力: 22

魔力: 45

筋力: 33

防御: 22

精神: 48

知性: 22

敏捷: 20

器用: 28

技能:

適性: 槌術20, 体術12, 魔法(雷21)

技術: 念話6, 魔力制御2, 魔棍生成16, 浮遊15, 投擲5, 受け身15, 危険感知18, 疾駆2, 跳躍15, 安定動作2, 観察11, 電磁感応6

支援: 言語(人類), 世界知識, 視力強化(魔)

耐性: 吸収(雷)

特質: 精霊(雷), 半実半霊, 執着者, 若体

槌術:

下級: 強撃, 受槌, 振払, 連撃, 回転, 粉砕

体術:

下級: 強撃, 足払, 投落, 連撃, 反撃, 掴撃

雷:

下級: 雷球, 通電, 雷槍, 電縛, 雷波, 雷柱

中級: 雷刃, 広雷2

雷魔法、魔力操作が中級技能に突入した。

そして、槌術だが、以下の進化ルートが提示されていたのだが、今はブレイオが戦闘不能なため判断を保留にしている。

  1. 中級槌術: 汎用ルート。当初の想定ではコレにする予定だった。
  2. 大槌巧術: 大槌や長槌に特化したルート。攻撃力は高いが受けの適性が低下する。ブレイオにとって槌とは、魔法が効かない相手への対処や受けが主なので論外。
  3. 小槌巧術: 棍や短槌に特化したルート。大槌術よりは増しだが、伸縮棍を扱うのでやっぱり無し。
  4. 棍巧術: 棍棒特価。伸縮棍がOKなら中級槌術より優位だが、未確認なので要調査。
  5. 鬼棍術: 種族固有ルートと思われる。「棍巧術」との違いは不明。こちらも要調査。

なお、生産もやりたい人向けの「鍛冶槌術」や、伸縮棍特化の手品師ルート「妙槌術」については、ブレイオの「器用」が不足していたため提示されなかった。提示されても選ぶ予定は無かったが。

当然、ログアウトした俺が休憩しながらやったのは、まとめウィキの調査だった。そして、棍巧術、鬼棍術を含め、直近で必要な情報を得ることができた。

ゲーム内で2日と少しした昼頃、俺はログインした。外でたっぷり休んだことで、心も体も復活した。

そして、まずやったことは素材の売却だった。

「良いドリ緑だね。鶏肉と卵は全部買い取れるよ。あと、骨も20個ずつ良いかな?出しに使えるんだ。」

「骨も行けるか。かまわないぞ。売れなければギルドに流す予定だったからな。」

「だろうね。それで、希望の金額はあるかな?」

「そうだな。ナビーによるギルド査定だと、10万を超えた所だ。」

「う~ん、確かにそんな感じっぽいか。なら、切り良く13万出そう。同じものをギルドから仕入れると16万、依頼すれば20万近く飛ぶから、こっちとしても得だしね。」

「助かる。それと、携帯食の在庫が尽きてきたから、補充良いか?」

「かまわないよ。ありもので良いかい?」

「内容しだいだな。餃子饅さんの腕は信用しているが、食べ物は選びたい。」

「アハハ、確かにそうだね。それじゃ、今日売れる物を教えるから選んでよ。」

まず、声をかけたのは、ソルットにてお世話になっている料理プレイヤー、餃子饅だった。約300個の鶏肉と、100個ほどの卵、それから骨の一部が一気に捌けた。

「久しぶりね、ユーさん。」

「久しぶりだな、セラさん。ゴーレムは活躍しているか?」

「えぇ。おかげで、伸び悩んでいた錬金が育っているわ。」

「そうか。あの時のダンジョン突入が活きているようで何よりだ。」

続いては、錬金術師のセラさんだ。餃子饅と同じ街だから、手早く捌けるだろう、という判断だ。

「それで、今日は何か欲しいものがあるの?」

「今日は素材の売却交渉だな。狩場で出た鳥素材だ。羽が400と骨が50、魔石が50ほどある。」

「錬金で使えるわね。でも、ギルドに卸したが良いんじゃないの?」

「断られたらその予定だったな。」

「それじゃ~、私が見てあげよう。要は、高く売れるならって話だよね~?」

「あら、リーネちゃん、見回り?」

「まぁそんな所だよ。ちょうどユーさんにも用事あったしね~。」

残りの素材を売却しようとしたら、なぜかリーネさんが付いてきた。俺としては、手間が省けるので問題無いが、平然と現れるなこの人。

結局、合計で8万ほどの金額になった。羽や骨は肉より単価が安いので、金額が目減りするのは仕方ないことだ。

なお、素材については、半分はセラさん、もう半分はギルドでの買取りとなった。ギルドで買い取った素材は、ローブやアクセサリーなどの素材として、専門店に流すのだそうだ。

何はともあれ、狩場で得た素材たちは20万pを超える現金になった。そして、せっかくソルットにいるのだから、明日は一日浜辺で鍛えよう。

「あ、ちょっと待ってよ、ユーさん。用事があるんだよ。」

「用事?」

と、後ろから腕を掴まれた。

「そう。プライベートビーチで鍛練する予定なら、私も連れて行って欲しいんだ。」

「確かに、明日、ビーチで鍛練はする予定だったな。だが、それなら、他の異人に依頼すれば良いだろう?」

「う~ん。私の見立てでは、ユーさんが一番安全そうなんだよ。滝の時も平和だったし。」

まさかの「ビーチへお誘い(鍛練)」だった。一応、男なんだけどな…

俺が直観や索敵系の技能を持っていないことも影響している… ということにしておこう。「海の心」の技能獲得のためには、周囲に気を取られないことが必要なので、間違ってはいない。あと俺が暴走しても速攻でボコれる… とでも言いたいのだろうか?

なお、プライベートビーチが指定されていたのは、ゲームシステム上「NPC単独では入れない」からだ。プライベートビーチは、プレイヤー側の事情を考慮して設計されたシステムだ。そして、この人のように、役職、イベントその他に関連する重要NPCが勝手に入って行方不明になる事故を防ぐ目的もあるのだ。

「クエスト 海の心修行 が発生しました。」

海の心修行:

種別: 突発クエスト、指名依頼クエスト

依頼者: リーネ(冒険者ギルド職員)

内容: リーネをプライベートビーチに招き入れ、一定時間滞在する。その後、ギルドへ送り届ける。

報酬: 冒険者ギルドからの好感度上昇

注意: プライベートビーチ滞在中、死亡、または、NPCへ過剰に干渉すると好感度低下、またはクエスト失敗の可能性あり。

そして、クエストにもなった。「報酬」がギルド扱いでいいのか疑問だが、別に損をするわけではないので良いだろう。

正直、本命の報酬は、技能「冒険者指導」を持っているリーネさんが同伴していることに伴い、俺たちの技能育成にブーストがかかることだ。