09-06 今度こそノンノリア観光

改定:

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スピリットフォースとのスパを終えた後は、当初予定していたノンノリア観光をすることにした。資金も貯まったからな。

なお、今回ブレイオはお休みだ。スパで消耗した体力回復が必要なのと、たまには一人でゆっくり観光したいと思ったからだ。

「ナビー。露天を巡りながら、武具屋、雑貨屋、錬金術店、調薬所に行きたい。店の順番はナビーに任せる。先導してくれ。」

「了解しました。それでは、現在地から近い順に先導します。まずは雑貨屋に向かいます。こっちです。」

ナビー先導の元、ギルドを出て、街中を歩く。

街の中は、昼間ということもあり賑やかだった。山を登って来た人たちが寛げる場所なので、「レジャータウン」に近いだろうか。

「露天を見つけました。アクセサリーが展示されています。」

「なるほど。立ち寄ってみよう。」

俺は露店に先導してもらった。

「フヒヒ。ここは、山で取れた鉱物を使ったアクセサリーを扱っているよ。」

「俺は冒険者のユーだ。旅で使うようなアクセサリーは扱っているか?」

「おや、度胸あるじゃないかい。フヒヒ。こいつなんてどうだい?」

店の人は、ややしゃくれた声の男だった。一般的には「怪しそうな人」かもしれない。

ただ、アクセサリー自体はいくつか触鑑定もさせてもらえた。

輝く石の腕輪:

種別: 防具・アクセサリー

説明: 光を吸収し、暗い所で発光する性質のある腕輪。

性能: 光線耐性(微), 照明効果(微)

品質: 5/10

価格: 8000p

土結晶の指輪:

種別: 防具・アクセサリー

説明: 魔力を含んだ土の結晶体を用いた指輪。土の力を増幅する。

性能: 土属性増幅(小), 土属性消費削減(微)

品質: 6/10

価格: 10000p

魔樹の指輪:

種別: 防具・アクセサリー

説明: トレント種の木材を加工して製作された指輪。木、風の力を強めるが、燃えやすくもある。

識別: 木属性増幅(小), 風属性増幅(微), 燃焼耐性低下(微)

性能: 木属性魔法増幅(小)、風属性増幅(微)

品質: 5/10

価格: 10000p

「なるほど。輝く石の腕輪と、魔樹の指輪は購入したいな。」

「フヒヒ。まいどあり。」

「輝く石の腕輪」は、S5を攻略する際に役立つアイテムだ。現時点だと効果は弱いが、強化してもらえば良い。

また、夜に発光する特性は、S3に滞在していた時のように、モンスターを釣り狩りする際に役立つぞ。

「魔樹の指輪」については、「緑石の指輪」から置き換える予定だ。上位互換だからな。

「燃焼」とは、魔法系に分類されるステータス異常だ。炎属性の攻撃を受けた際に体が発火するなどして発生し、スリップダメージを受けるものだ。ただ、「耐性低下(微)」なら、燃焼を受けやすくなるだけで、ダメージが増したりはしなかったはずだ。

その後は、再び雑貨屋へ向けて進んだが、途中でまた露店に遭遇。今回は「茸焼きだよ~」と、露店の人が宣伝していたので、簡単にわかった。

扱っていたのは、茸の串焼きだった。塩や、レモンの風味のするタレが付けられていた。

1本ずつ食べて、塩の方が食べやすかったので30本購入し、インベントリーに格納した。タレの方は、茸がタレを吸って柔らかくなるためか、途中で串の下の方へ偏る印象があった。

「雑貨屋に到着しました。入口は開いています。こっちです。」

3件目… の露店の前に雑貨屋に到着した。先導に従って直進すると、杖が木に引っかかった。根っこ… いや、角っとしているので、入り口が階段になっているようだ。

結局、木の階段が2段ほどあり、木製の床の上に立った。砂が入らない工夫だろうか?

「いらっしゃい。おや、盲人の客かい?」

「あんたがここの店主で良いか?」

「そうだぜ。山超えの旅人って所か?」

奥の方から、同年代くらいの男性の声がした。店主のようだ。

「南から登って来た。今はまだもう少し街に滞在する予定だが、その後は山を降りてホムクに行く予定だな。」

「そうか。悪いんだが、一つ頼まれちゃくれないかい?」

「内容しだいだな。用件を教えてくれるか?」

買い物を… と思ったら、依頼発生の様子。たぶん、素材の採集だろう。

「南側に、兎や狼が沸いていると聞いたんだ。そこで、毛皮の採集ができるなら集めて欲しいのさ。」

「山の中には兎はいなかったと思うぞ。その先の草原ならいるけどな。」

「そういうダンジョンがあるらしいんだ。何人かに声をかけているんだが、どいつも帰って来ないんだ。」

兎や狼が出るダンジョン… というと、獣系統だろう。「出る」ということがわかっているなら、入った瞬間に死ぬようなヤバい場所でもない。

ただ、「帰ってこない」というのは、変だな。

「帰って来ないという冒険者に依頼をしたのはいつだ?」

「2日前だぜ。2人ほど依頼したんだがよ。」

「それぞれに依頼したということは、量が必要なのか?」

「そうだぜ。できるだけ早く持ってきて欲しかった、というのもあるし。」

「その、早く持ってきて欲しいということは伝えていなかったのか?」

「特には。だいたいダンジョンに行ったヤツは、日帰りしているから、問題無いと思っていたんだ。」

この確認を通して、原因が徐々に絞り込めてきた。

「それは、まだダンジョンの中にいるか、山の中を探しているんじゃないか?」

「そうなのか?」

「詳しくは現地を確認しなければわからないが、たぶん、冒険者たちが狩場と呼んでいるダンジョンじゃなくて、階層型のダンジョンだぞ。その場合、往復を含めて数日はかけるものだ。」

「そういうのあるのか?」

「あるぞ。あと、ダンジョンは時間が経つと消えて、別のダンジョンになる。たぶん、もう今は別のダンジョンになっているだろうから、今から向かっても間に合わないな。」

冒険者が2日経っても帰ってこない原因として考えられることの一つは、「そこに階層型のランダムダンジョンが出現している」ケースだ。この場合、素材集めを狙うなら、数層、場合によっては最下層まで潜る可能性はある。

そして、そんなダンジョンの存在が街に伝わる頃には、該当のダンジョンは消えているか、残り時間があっても僅かであることが多い。十分に早く戻っても、街に戻り報告、次陣が出向いてダンジョン突入するまでのタイムラグもあるからだ。

「というわけで、残念ながらダンジョンでの素材最終依頼は受けられない。送り出した人に結果を聞いてくれ。」

「わかったぜ。そうなると、悪いことをしちまったかもな。」

「それは本人の話を聞いてから決めれば良い。逃げ出したのでなければ、数日待てば戻ってくるだろうからな。」

「そうか。情報ありがとな。」

俺は、ダンジョン探索依頼を却下した。失敗する可能性の高いクエスト発生のフラグを折った… という方が正しいかもしれないが。

「ところで、欲しいのは狼や兎の皮か?そして、急ぎか?」

「そうだ。欲しいのはその辺りの皮だ。できれば、今日中に欲しかった所だぜ。」

「それなら、冒険者ギルドから取り寄せるのはどうだ?買い取るより金はかかるが、その日使う分だけにすれば、傷は浅いぞ。」

「言われてみればそうだな。後で行ってみるぜ。」

とりあえず、リカバリーの方法を紹介しておいた。レア素材ならともかく、狼や兎の皮なら、どの街の冒険者ギルドにも在庫があるはずだ。

なお、プレイヤーによっては「転移を使って始まりの草原で狩る」選択肢もあるかもしれない。だが、今からやるのは時刻が良くない。あと1時間で夕方になり、プチラビットなどがポップしなくなるからだ。

「ところで、山を下るに当たって、物資の購入をしたいんだが、良いか?」

「いいぜ。ただ、ポーション類は調薬の方に行ってくれ。」

その後、俺は当初予定していたアイテムを買って店を出た。なお、こんな掘り出し物を紹介してくれたが、俺には不要なので買わなかった。

茸栽培キット:

種別: 生産用具

説明: 特殊な加工のされた原木。時間経過で低品質の食用茸が栽培できる。水を与えると茸の品質が向上する。

品質: 4/10

価格: 10000p

山用テント:

種別: スポットアイテム

説明: 敵対モンスターがいない時、野外で休息するスポットを作ることができる。設置から一日経過で消滅する。悪路でも安定して設置することができる。

品質: 4/10

価格: 1000p

「茸栽培キット」は、錬金、調薬、調理などの生産を行なう者向けのアイテムだ。小さなスペースで茸を増やすことが可能だからだ。

一方で、戦闘職が使うには不向きだ。栽培キットをインベントリーに入れてしまうと時間が停止するためだ。

なお、過去に、狩場ダンジョンにて、「広場の隅に茸栽培キットを大量配置し、周囲をバリケードで囲った上で、半日ほど狩に勤しむ」という検証が行なわれた。結果、ちゃんと茸は増えていた。これを受けて、まとめウィキでは「茸好きなパーティが待ち狩の隙間時間で使うなら在りかもしれない?不通に山で採取したり、農家に栽培してもらったりした方が良いけれども…」という結論になっている。

そして、「山用テント」は、俺から言うなら、NPC向けのアイテム、あるいは、気分を楽しむためだけの贅沢品だ。なぜならば、俺がテントに入る主な目的は「ログアウトできる空間を作る」ことだからだ。

このテントがあったため、サービス開始当初には、「悪環境で普通のテントを使うと壊れるのでは?」という仮説が挙げられた。しかし、その後の検証を通して、「テントは時間制限か、使用者が破棄しない限り消えないので、ログイン、ログアウトのスポットとしての利用なら、初期のテントでもOK」なことが判明している。

なお、パーティプレイをしている時には、皆で同じテントに入って雑談したりするために、このテントが役立つケースはあるだろう。そして、思い返してみると、これまでパーティを組んだ人とは、同じテントには入らなかったな。雑談は安全地帯など開けた場所でしていたように記憶している。

「続いて、武具屋へ向かいます。こっちです。」

そんなことを思い浮かべながら、俺は観光を再開したのだった。