09-07 武具屋で遭遇、モールドワーフの祝福

改定:

本文

「露店を発見しました。正式出展の露店であり、茶葉を販売しています。」

「茶葉か。先導してくれ。」

武具屋へ向かう道中、さらに露店を見つけた。おそらく、山で取れた草類を用いて作成した茶葉なのだろう。

この世界での「茶葉」は、水に混ぜて飲むことで効果の得られるアイテムだ。ただし、使用した葉っぱは水に溶けるように消えてしまうため、「葉っぱの形をした錠剤」と言った方が適切かもしれない。実際、茶葉を直接口にしても飲用効果は発揮されるのだ。

「えっと、こんにちわ。盲人… でしょうか?」

「あぁ、旅の者だ。ここで茶葉を売っていると聞いてな。」

「あ、はい。ここでは、ブレンドした茶葉を売っています。一つずつ説明しますね。」

店員は若い女性だった。最初は驚いていたが、その後は普通に茶葉の説明をしてくれた。

売られていた茶葉は、いずれもフレイバーを楽しむだけのものだった。ギルドでの卸値が10p~20pくらいの草類をブレンドして、専用の技能で茶葉にしているのだから、その手間を考えると安価だとは思う。まぁ、一度配合を決めてしまえば、あとは技能がやってくれるんだけどな。

とりあえず、売られていた10種類のフレイバーを4個ずつ購入することにした。あとで、ブレイオと飲み比べてみるとしよう。

「武具屋に到着しました。入口は閉まっています。こっちです。」

そして、ついに武具屋に到着した。

正直、雑貨屋が長かったので、少しおなかいっぱい気味でもある。だが、俺には武具屋でやるべきことが一つあるのだ。

入口に近づくと、雑貨屋と同じように、杖が段差に引っかかった。こちらは「階段」とはっきりわかるような石段だった。

それを2段登ると、杖が扉と思われる木に触れた。手で探ると、右側に取っ手があった。触れた時に、扉が少し動いたことで、引き戸と判明。そのまま引いて中へ…

「いらっしゃい。と言いたいが、今は師匠が留守なんだ。それでも良ければ、すぐに戻るだろうから、てきとうに見ていってくれや。」

わりと音の響く店内だった。少し離れた右側から店員と思われる男の声がしたが、そこそこに響いていたのだ。

そして、話の感じから、その声をかけてきた男は、あまり接客などは専門にしていないのかもしれない。もしくは、師匠とやらがこの街では有名人なのかもしれない。

「留守か。主な用件は武具の修復なんだが、頼めるか?」

「修復か。確認するから、こっちに来てくれや。」

「わかった。」

俺がこの店でやりたかったこと… それは、武具の耐久度の修復だ。午前中のスパでそれなりに消耗しただろうからな。

なお、先日の「鳥の広場」の際の消耗は、ソルットでやってもらっていた。ソルットで換金をしたので、その足で修復してもらった形だ。

「おや?その杖の音は… お前さん、盲人か?」

「そうだな。それにしても、最初に 音 と言ったか。」

「そうだ。ちなみにオイラはモールドワーフだ。知っているか?」

「聞いたことはある。会うのは初めてだがな。」

モールドワーフとは、土竜人とドワーフの混血主だ。盲目の種族である。

しかし、盲目であるが、俺とは状況が違う。彼らは、大地に働きかけて、地表や地中、さらに、そこに触れている物体の些細な変化を感じ取ることができる。このため、まるで見えているように、俺が立っている位置や動きなどを正確に把握することが可能だ。

そのまま、彼の声がする方へ近づいて行くと、杖は柔らかい何かにぶつかった。というか、店員ご本人だった。

「おっと、すまん。カウンターは無かったんだな。」

「かまわない。それで修復なんだが、お前さんの体に触れてみて良いか?代替はわかっているが、より正確にわかる。」

「良いぞ。」

彼は、俺の足元から頭までを触って確認した。

彼が触って確認しているのは、武具の耐久度を知るための技能だろう。視覚を使う鍛冶師なら見れば良いが、彼の場合は触れる必要があるのだ。俺が鑑定をするために「触鑑定」を使うのと同じ原理である。

「ふむ~。確かに、消耗はしている。だが、2割程度でもあるぞ。修復が必要か?」

「必要だ。直近でハデに使う予定は立ってないが、未来のことはわからないからな。」

「わかった。台に案内するから、そこに装備を置いてくれや。」

その後、彼がたたいて示してくれた台に近づき、装備を置いた。なお、俺はプレイヤーなので、「台の上に置く」のはシステムがやってくれる。外した装備が台の上にポンポンと現れる感じだ。

「良い装備だ。ここで売っている武具だと、お前さんに勧められるものは無いな。」

「そうかもな。俺はトマの塔を攻略したから、そこまでで手に入る最高の装備を揃えてきたつもりだ。」

「トマの塔… というと、ヒマランの手前だったっけか?」

「合っている。まだヒマランには行ってないんだがな。」

トマの塔を攻略した俺は、東の第5マップ「ヒマラン大草原」に入ることは可能だ。

ただ、今はブレイオの育成中だ。このため、いきなり高レベル帯に突っ込むのは「技能の育成が遅れる」という損失の原因になるだろう。

おまけに、あそこには相性の悪いモンスターが群生している。だからこそ、今は他のマップを周りながら、修行を続けているとも言える。

「そうか。お前さん、強いんだな。正直、この辺りのモンスターじゃ物足りないんじゃないか?」

「まぁな。先日、鳥の広場で半日ほど戦っていた。」

「鳥の広場で半日?そりゃたまげた。最近、大量にギルドに素材が入荷されていたが、お前さんもその一味だったか。」

「間違ってないぞ。尤も、俺は南のソルットに飛んで卸したが。」

「そっちにも行ったことがあるのか。ずいぶんフラフラしているじゃねぇか。」

「俺が冒険者しているのは、いろいろな地に出向くためだ。ここに来たのも、山登りと、雪を拝むためだな。」

「試練洞窟を超えるってか。いや、お前さんならできるかもな。いいな。」

どうやら、ディーンたちのパーティ「スピリットフォース」は、鳥素材を捌けたようだ。いくらになったのかは知らないが、一人当たりのドロップ数は俺と同じなので、5人パーティなら、買いたたかれても60万は超えているだろう。

「っと、終わったぞいっと。装備は回収してくれて良いぜ。」

話をしている間に終わったようだ。まぁ、耐久度の回復は、専用の薬剤と技能があれば、簡単に終わるものだからな。

俺は、回収した武具を装備した。

「条件を満たしたため、技能 大地の祝福 を習得しました。」

「条件を満たしたため、技能 薬草知識 が 薬草学 に進化しました。」

「ん?大地の祝福?あんた、何かしたか?」

「そいつはサービスだ。受け取ってくれや。まぁ、修復代金はもらうが。」

「装備を通して流れ込んだのか。感謝する。」

どうやら、盲目の好というヤツだろう。そのわりに、ヤバい技能をもらってしまったぞ。しかも、特殊条件の真価が起こった。

大地の祝福:

説明: 大地に親しんだことで授かった祝福の一種。土属性増幅(中)、土属性耐性(中)、石化耐性上昇(中)、防御上昇(小)、知性上昇(微)。

薬草学:

説明: 薬草に対する深い知識。薬草に対する理解が深まり、さらに効果的に扱える。同伴者に、技能の効果の一部が還元される。

識別: 薬草効果増幅(中)、薬草デメリット緩和(中)、薬草の鑑定精度向上、入手可能薬草の範囲拡大、植物系モンスターへの優位(中)、技能効果を一部還元、体力、魔力上昇(微)

「大地の祝福」は、ルーカスが持っていた技能「大地の心」の上位技能だ。通常の習得条件は、「大地の心」を習得した状態で、特定のイベントをこなす必要があったはずだ。

なお、土竜人種は、「大地の祝福」が初期技能に入っている。今回、その力を還元してもらった形になるだろう。

そして、もっとヤバいのは「薬草学」が生えたことだ。俺が、「薬草知識」を習得してなお、薬草の仕分け依頼をこなしていた理由でもある。

この技能は、以下の3つの理由から、ずっと欲しかったのだ。

  1. 対植物系モンスターに対し有利に立ち回れるようになること。今後出てくるであろう、寄生系や組付系の植物、あるいは、根元など特定部位を攻撃しないと倒せない植物と俺とは相性が悪い。ブレイオも雷しか使えないため、現状だと通りが良くない。
  2. 「種」の効果が倍加すること。「種」自体は、ダンジョンの最奥部などでしか入手できないため、数を集めるのは難しい。まぁ +1 が +2 になった程度だと些細なことだが、無いよりはうれしい。
  3. 技能効果が、同伴者に及ぶこと。おくたんの採集や、ブレイオの対植物モンスターにもブーストがかかる。またパーティを組んでいれば、パーティメンバーにも還元される。

なお、俺には関係ないことだが、「特級農家になるためには、この2つの技能は必須」と言われている。高品質の農作物を作るために、この2つの技能が少なくない貢献をするからだ。

「助かった。あっと、そうだ。 輝く石の腕輪 という腕輪を手に入れたんだが、強化することはできるか?もしくは、師匠とやらに聞けば良いか?」

「その名前だと、彫金か錬金に持って行くのが妥当だと思う。とりあえず台に置いてくれや。」

俺は、先ほど露店で購入した 輝く石の腕輪 を台に置いた。

「ふむ~。魔法のアクセサリーか。どんな風に強化したいんだ?」

「光線への耐性を強化したい。あと強いて言えば、壊れにくくなるとうれしい… といった所だな。」

「そうか。悪いが、オイラには無理だ。師匠も、たぶんやってくれないさ。」

やはり、武具屋での強化ではないようだ。だが彫金か。言われるまで意識から抜け落ちていた。

いずれにしても、この店での用事は終わった。師匠とやらはまだ戻ってきていないようだが、次へ行くとしよう。

「感謝する。それじゃ、俺はもう行くな。」

「こちらこそ、お前さんと出会えてよかった。オイラは修行の身だから、まだ当分はここにいるはずだ。機会があれば、また来てくれや。」