09-09 N3 盲人とモールドワーフの共演

改定:

本文

「S3 キトル山 北部に入りました。」

翌日の早朝、俺はノンノリアの北出口から外に出た。ダンジョン発見器を使うためには、対応するマップに入る必要があるからだ。

そして、さっそくダンジョン発見器を起動。 ブオン という音がちゃんとした。単なる起動音だと思うけれど。

「ナビー。ダンジョン発見器は発光しているか?」

「青色に発光している光が2つあります。それぞれの光の指す方向にダンジョンがあります。先導可能です。」

トマで聞いた説明によると、「狩場や闘技場ではないランダムダンジョンが出現していると、青色に光る」ということだった。つまり、今回の目的の第1関門はクリアしていると言える。あとは、ちゃんと中で戦えるダンジョンであることを期待したい。

あとは、ダンジョンの入口に近づいて触鑑定をしなければならない。ではさっそく向かうとしよう。

「よぅ、盲人の旅人さん。昨日の武具屋ぶりだ。」

と考えていたら、昨日出会ったモールドワーフの男… と思われる声がして、肩をたたかれた。

「ん?俺か?」

「おぅさ。お前さん、街の外へ向かっていたようだが、山を越えるのかい?」

「いや、今日は山内のダンジョンを調べて、可能なら潜る予定だ。」

「そうかい。それならちょうど良い。オイラも山で素材集めを予定しているんだ。良かったら、道中だけでも一緒に行かせてくれや。」

まさかの同行のお誘いだった。だが、それなら確認するべきことはある。

「俺に護衛をしろと言うのか?悪いが、それは無理だぞ。」

「あぁ、そいつは不要さ。この辺りのモンスターとは一人で戦える。だから、オイラのことは気にしなくて良い。」

「なるほど。戦いになった時には干渉しない、死に戻っても恨みっこなし、で良いなら、俺はかまわないぞ。」

「それで頼むさ。ちなみに、オイラの名はザッポってんだ。」

「俺の名はユー。あと、召喚モンスターとゴーレムも呼び出す予定だな。」

ということで、モールドワーフの男ザッポさんがパーティに加わることになった。なお、まだクエストにはなっていなかった。

名前: ザッポ

種族: モールドワーフ

職業: 鍛冶師

性別: 男

称号: [中級鍛冶師]

レベル: 20

体力: 45

魔力: 48

筋力: 36

防御: 42

精神: 51

知性: 33

敏捷: 15

器用: 66

技能:

適性: 中級鍛冶2, 裁縫17, 皮革19, 木工14, 生産槌術3, 刀剣術15, 斧術17, 槍術13, 杖術11, 体術15, 弓術11, 魔法(土35, 水10, 炎20, 付与15), 最終15

技術: 魔力制御5, 安定動作3, 運搬16, 登攀14, 危険感知16, 直感18, 精神統一2, 鋼切, 投擲16

支援: 武器術13, 大地の加護, 山の心, 炎の心, 触覚強化, 握力強化, 反応強化, 世界知識, 繊細

耐性: 頑強, 毒耐性, 身体抵抗, 精神抵抗, 燃焼抵抗

特質: 土竜人, 巧人

パーティ入りするということで、触鑑定もさせてもらった。結果、「戦闘もする生産職」といった評価ではあるが、「大地の加護」が彼の評価を引き上げていた。しかも「魔法(土)」のレベルが高いため、この山のモンスターなら、マッドフォッグのように土属性に抵抗のあるモンスターでさえ強行突破できるだろう。

なお、「いろいろな武器に親しんでおく」という鍛冶屋からの指示があったため、刀剣や槍など、だいたいの武器は「初心者ではない」程度に育てているらしい。魔法があるのに弓まで使っているのはこのためだろう。結果、5種類以上の武器技能の獲得で生える「武器術」が育っている。

「主人。この人は?」

「この人はザッポさんだ。方向が同じだから同行するのだそうだ。」

「わかった。よろしく。」

「ふむ~。ユーさんは召喚モンスターやゴーレムも連れているのか。」

「そうだ。こいつらには、俺にできないことを任せている。連携は期待できないけどな。」

というわけで、おくたんやブレイオも召喚して移動開始。

行先については、ナビーの先導に従い、ダンジョンへの最短距離を進むことにした。

「主人。虫が3匹来ている。狩ってくる。」

「行って来い。危なくなったら戻って来いよ。」

「ブレイオだったか、けっこう離れた所にいるのに感知できるんだな。」

「そうか。まぁ、たぶんあんたの探知の方が範囲は広いと思うけどな。」

「地上に関しては自信はあるさ。おっと、アースモンキーか。オイラに任せてくんな。」

発見したモンスターは、ブレイオとザッポさんが勝手に狩っていた。おかげで、俺はただ道を進むだけで済んでいる。

「ダンジョンに到着しました。入口の壁はこっちです。」

1時間ほど進むと最初のダンジョンに到着した。そして、俺はダンジョンの入口を触鑑定した。

獣と水生の回廊:

種別: ランダムダンジョン

階層数: 7

残り時間: 60:01:47

「回廊」とは、通路と部屋とが混在している迷路のようなダンジョンだ。モンスターが部屋内に滞留する傾向がある。

また、「水生」の表記はあるのだが、たぶん、今回出現するモンスターは影響を受けないだろう。「S4 ナザ島の地下迷宮」に水生系モンスターが出現するのだが、ダンジョン内に水場があるわけではないからだ。

「獣と水生の回廊か。これは良さそうだな。」

「獣と水生?それは、どういうことだい?」

俺は、ダンジョンの概要や予想されるモンスターなどを説明した。

「そいつは面白そうだ。オイラも探索したいが、さてはて…」

「同行はかまわないが、2日くらいはかかると思うぞ。店は大丈夫か?」

「あぁ、そっちは大丈夫。山での採取は数日かけることも多いから、準備はしてある。ただ、オイラは素材収集が目的だから、できればモンスターをたくさん狩りたいんだ。」

「それはこっちも同じだぞ。ダンジョンのモンスターをたくさん狩る必要があると考えていた所でな。300匹くらいになるんじゃないかと思う。」

「それだけ狩るなら十分だ。なら、同行させてくれや。」

この人、まだついてくるらしい。まぁ、邪魔にならないならそれでも良いか。

「言っておくが、条件は道中と同じな。復活薬は持ち合わせが無いから、死に戻りしても迎えに行けないぞ。それと、ダンジョン内で入手した物の譲渡はなしな。」

「かまわない。手に負えなければ、一人で帰るさ。ただ素材については、金を出せば売ってくれるか?」

「全てを売るかどうかはわからないぞ。だが、ギルドに卸すことになる素材であれば売れると思う。」

「それで良いさ。」

「クエスト 土竜鍛冶師と素材収穫 が発生しました。」

土竜鍛冶師と素材収穫:

種別: 突発クエスト

依頼主: ザッポ(ノンノリア武具屋)

内容: 依頼主と共闘し、 N3D 獣と水生の回廊 にて、モンスター素材をできるだけ多く集める。目標素材数100個。

報酬: モンスタードロップ率増加(小)

納期: 約2.5日 (59:59:20)

注意: 状況しだいではクエストが途中消滅する可能性あり。ダンジョン内で入手したアイテム、素材の依頼主への売却は任意。

こうして、条件を詰めた影響か、ちゃんとしたクエストになった。

報酬についても、先日の拳士軍団「スピリットフォース」との共闘と同じだった。今回は、 55% から 65% への増加なので、実感できないだろうけれど…

「ダンジョン 獣と水生の回廊 に入りました。現在1層です。」

話もまとまったので突入。それまで山の中という、それなりに解放感のあった空間から、狭い石の道という感じの空間になった。

「ここが回廊か~。ダンジョンって久しぶりに来たが、不思議なもんだよな~。」

「前にダンジョンに潜ったことがあるのか?」

「たまたま見つけたやつさ。あの時は、塔のようにどこまでも上に伸びていくダンジョンだった。」

ザッポさんは、山での素材採集はそれなりにこなしているが、その過程でダンジョンを見つけることもあるようだ。ただ、あくまでも「山での必要素材の収集」を目的としているため、あえて入ることはほとんど無いらしい。

その判断は正しいだろう。ランダムダンジョンは、入った瞬間に脱出もかなわずに死ぬような空間もあるからだ。おまけに「素材採集」を目的に活動している人のインベントリーは素材でいっぱいなことも多いため、死に戻りによるアイテムロストの影響が大きい。

「ところで、ザッポさん。土探知で、道案内できるか?もちろん、モンスターが群れている場所を通りつつ、奥へ向かいたい。」

「確かに回廊だもんな。任せてくれや。」

「土探知」は、地表、地中の状態を探査する魔法だ。土竜人種は、この魔法の適性が高いため、広範囲の索敵ができ、しかも息をするような手軽さで連発できる。このため、彼らはまとめウィキにあるマップの作成に貢献したらしい。

「ふむ~。この先の部屋は3匹だが、次の部屋に10匹いる。感じたことのないモンスターもいそうだ。」

そして、さっそくモンスターを見つけてきたようだ。水生系のモンスターと言っても、カエルのように陸上で不通に活動できるものもいるし、低空を泳ぐように移動する魚もいる。土探知だと、後者はともかく、前者の反応はわかるはずだ。

では、ダンジョン探索を進めるとしよう。