09-13 E4 凶器の提案とボス戦準備

改定:

本文

「宝箱を発見しました。こっちです。」

塔の2階を進んでいたら、ナビーが宝箱を見つけた。ということで、近づいて触鑑定をしてみたのだが…

ミミックボックス:

種別: モンスター・魔法生物

レベル: 20

HP: 100%

状態: 敵対, 待機, 真理の枷+1

説明: 宝箱に擬態したモンスター。不用意に開けた物を襲い、食いちぎる。

識別:

体力: 100

魔力: 20

筋力: 50

防御: 40

精神: 50

知性: 40

敏捷: 20

器用: 20

属性: 無

ミミックだった。幸い、レベルはそこら辺のモンスターと変わらないが…

「ブレイオ。こいつはミミックのようだ。せっかくだから、例の技を打ち込んでくれ。」

「ミミック?宝箱のモンスター。わかった!」

というわけで、開けるまで動かないのを利用して、最大火力を打ち込むことにした。もちろん、使用するのは「纏雷衝撃」だ。

ブレイオの辺りから、聞きなれたバチバチとした音が聞こえてきた。その後、音源はブレイオの頭の上に移動して、そして、ズッドーンという音を立てて爆発した。

「ミミックを倒した。ブレイオは、経験値396を獲得しました。」

まさかのミミックが一撃だった。魔法生物だから衝撃が弱点なこともあるだろうが、それを差し引いても強い。さすが、上級の技だ。

一方、こちらはルーウェン…

今回、「トマの塔の隠し要素の調査」の護衛として検証班から呼ばれた。

レベル帯だけで言えば、自分は明らかにオーバースペックだろう。いくら強い隠しボスがいたとしても、せいぜいレベル30程度のダンジョンだからだ。

ただ、最近は全線に張り付いてレベル上げばかりをしていた。なので、休憩を兼ねるという意味では悪くないと思った。誰かを護衛することが楽しい、というのもある。

そして、今回来てみると、出会ったのは盲人のプレイヤーと、彼に付き従うモンスターだった。この中ではレベルも20代と低かった。

最初は、彼らの護衛か、はたまた道案内かと思った。だが、実際の護衛対象は、今回の依頼主で検証班のカナミーと、その知り合いという生産職の男だった。

その疑問の答えは、塔の中でわかった。

まず、盲人の彼だが、特殊な耐性技能を備えているようで、崩れる気配を感じなかった。彼自信が、このダンジョンの適正レベルを超える防御力を有していたこともあるだろう。だが、それだけでなく、モンスターの攻撃が、不思議な力場によって弾かれてもいたのだ。

続いて、付き添っているモンスターだが、そんな主人を慕っており、被弾もしていたが、うまく戦ってもいた。ポーションも自分で使用している辺り、ゴブリン種やオーガ種よりも賢いようだ。少なくとも、この塔の低層であれば護衛は必要無いと思えた。

「トレインしてきたよ~。これで、ブレイオ君のレベルも上がるね。」

今では、カナミーがモンスターをトレインして、彼らに戦わせているほどだった。召喚モンスターのレベル上げも兼ねていたらしい。

なお、トレインを担当するのは、この中で最速の敏捷を持つ彼女だ。そして、自分は生産職の男、アステリアを護衛している。考えてもみれば、「ダンジョンに入る生産職の護衛」はいつものことだった。

あと、盲人のプレイヤーは、挑発系の技能を持っていないそうだ。そうなると、後方から来たモンスターや、彼らの横を通り抜けたモンスターが、こちらに来る場合がある。そんな時に、自分の護衛が必要だった。

なお、3層に行くと、未知のエクストラボスとの戦闘ができるそうだ。正直、格下だとは思うが、未知の相手と相まみえること自体は楽しみだ。いや… 以前手に入れた報酬、使い所かもしれない…

「トマの塔 3層に続く階段に到着しました。」

俺たちは、順調に歩を進め、今回のメインディッシュの一つ、トマの塔3層の手前までやってきた。

道中の戦闘のおかげで、ブレイオはレベル24を超えた。途中で、カナミーにトレインをしてもらうことで、遠くにいたモンスターも引き寄せてもらったのだ。

なお、悪戯妖精系モンスターのおかげで、ブレイオが何度も状態異常を受けた。結果として、今は「睡眠抵抗」、「恐怖抵抗」、「混乱抵抗」が生えている。「妖精の広場」を思い出す賑やかさだった。

「この先が、例のエクストラボスのエリアなんだね。」

「そうだ。霧に包まれたエリアは幻による効果と出ていたな。」

「なるほどなるほど。しっかり記録しないとだね。道中は普通のダンジョンだったし。」

「皆さん。私から一つ提案をさせて欲しいのです。このアイテム 接戦の宝玉 を使用したいのです。」

今後のことを話していたら、ルーウェンから提案があった。それは、「出現するモンスターのレベルを引き上げる特殊アイテムの使用」だった。

接戦の宝玉:

種別: スポットアイテム

説明: 強き者への戦いを望む者を導くとされる宝玉。出現するモンスターのレベルを、使用者のレベルまで引き上げる。ただし、使用者よりレベルの高いモンスターには効果が及ばない。また、獲得経験値は増加しない。効果は30分間持続する。

「ルーウェンさん。確か、イベント限定報酬だったと記憶している。そんな貴重な物を使う提案をする理由と、基準にするレベルを聞かせてくれ。」

「まず、使用者は私。つまり、レベル73のエクストラボスとの戦闘を希望します。提案する理由は3つ。1つめは興味、2つめは有料アイテムのドロップ、そして、3つめは、私の見立てでは、十分に戦えると判断しているからです。」

要は、強いボスと戦いたいのだろう。確かに、俺がソロで倒せるボスでは、暇を持て余すに違いない。加えて、高レベルになると、ドロップ数が増えるなど、苦労に見合うだけの報酬は期待できる。

一方で、挑む場合のリスクも考えてみる。

まず、単純に攻撃力が高過ぎて全滅があり得ることだ。おそらく、タンク特化のルーウェンの能力と、正々堂々を生かせる俺で、受け切れるという算段なのだろう。

次に、レベル相応にHPや防御も増えているため、攻撃が通るのか?問題だ。これについては、雷霊鬼が自動回復系の技能を獲得していないことを祈るしかない。霊体系だから、自動回復はMPの方だと思うが、レベル70超のボスにその常識が通じるのかはわからない。

あとは、相手が霊体なので、デスペナルティーに何か付いてくる可能性や、回復不能な何かを負わされてしまうリスクだろうか… これらについては未知数か…

「ルーウェンさん。霊体系のエクストラボスだ。デスペナルティーなどで、危険なものを負わされるかもしれないが、その時はどうする?」

「最前線で活動している司教を紹介しましょう。特級の解呪技能を備えているので、おそらく対処できるはずです。また、技能を負わされた場合の治療が必要となった場合は、私の責任において請け負います。」

そこまでしてでも挑みたいか。そして、リスクもちゃんと理解し、対応できる準備さえ語ってくれた。それなら、彼を信じられる。

「ユーさん。そのボスって、全体攻撃は持っていたんだっけ?」

「頂上のトマと同じ、マップ全体の雷はあった。おそらく、レベル70超なら特級の雷はあるだろう。」

「広雷と… 雷人形… 辺りは要警戒だね。あとは、小範囲や直線だから、タゲられずに離れていれば何とか… かな?」

「だな。物理は、おそらく金棒による技が中心なはずだ。土が弱点だから地震は無いと思うけどな…」

「だよね~。それやられると、僕は死ぬしか無いかな?」

「あたしは、どうかな~?雷って速いというか、必中系もあるんだよね。金棒は、避けられるかな~?」

この中で、一番危険なのはアステリアさんだろう。物理は受けたら即死間違いなしだ。それどころか、HPも低いため、広雷を軽減して受けても溶けるんじゃないだろうか?

なお、「雷人形」とは、ゴーレムのような自立して動くアバターを生成し、突撃や盾に使う魔法だ。モンスターのAIだと、基本的に盾に使うか、パーティ全体にばらまいてくるだろう。なお、挑発での引き寄せは可能だ。

「わかったよ。まぁ、死ぬと思うけど、最前線のボスというのは拝んでみたいね。」

「挑むというなら、俺もかまわないぞ。今後の目標にもなるし、以前と先方が変わらないのであれば、勝算もあるからな。」

「あたしも問題ないよ。でも、ルーウェンさん、ちゃんと守ってね。」

「ありがとうございます。護衛を務める者が、皆さんを危険に晒すことを提案しているのは異常であると承知しています。だからこそ、全力で、皆さんをお守りすると誓います。どうぞよろしくお願いします。」

「ルーウェンさん。そこは、勝利に向けて、全力を投じる、と言って欲しかったな。守るのは手段であって目的じゃないから。」

「ふむ。そうですね。提案をしたのに、消極的なことを言って申し訳ありませんでした。では皆さん。全力で抗い、そして、勝利を目指しましょう。」

その後、俺は、過去に戦ったボスの情報を語って共有した。そして、その過程で、リーネさんやカイムさんの話をしたら、カナミーにいろいろ突っ込まれた。検証班だもんな。

「ソルットのサブマスに、ナザ島のギルマスって… ユーさん、どうなってるの?その人脈。しかも、古式召喚でできたのがそのブレイオ君でしょ?久しぶりにヤバい情報拾っちゃったよ。」

「そうだな。申し訳ないが、公開する情報としては、トマの塔3層の話に絞って欲しい。俺の所にプレイヤーが押し寄せられても困るからな。」

「それは問題無いよ。古式召喚についてはいいよね?」

「それはかまわない。まとめウィキにはある情報だからな。」

「あとは、真理だっけ?凄い技能というのはわかったけれど、才能がいる感じだよね?」

「デメリットが強烈だからな。真理については広めて良いぞ。というより、知識なしで獲得したら危険だから、むしろ載せて欲しい。」

「OKだよ。でもたぶん、どこかの未開放マップでナチュラルに習得できる気はするんだよ。いくら何でも、転移イベント限定は正規ルートじゃない気がするんだ。」

その後、俺たちはボス戦の準備を整えた。そして、ルーウェンが接戦の宝玉を使用… そして、3層へと昇っていった。