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「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日からは、キトル山を超えて、ホムクへ向かうぞ。」
「ノンノリアを北上し、キトル山を降りるのですね。了解しました。」
いろいろ寄り道をしていたが、ついにキトル山を超える時が来た。
今回は、ブレイオが習得した各種魔法のレベル上げを目的にする予定だ。俺自身も技能のレベル上げは進めようと思う。
山超えに必要なアイテム類は、昨日の時点で調達済だ。草原超えもできるよう、アステリアからいろいろ買い取っていたからな。
では出発。ナビーの先導に従い、ノンノリアを進んでいった。
「N3 キトル山 北部に入りました。」
山に入ったら、ここからはおくたんとブレイオも召喚して移動開始だ。
とはいえ、今回は交通路をまっすぐ降りていく予定だ。レベルも上げた、ダンジョンも踏破した… となると、林に入る目的は、そこで得られる素材しかない。が、今の所、得られる素材は不要なのだ。それに…
「主人。狼が2匹だ。猿も1匹近い。離れた所に狐が隠れているぞ。」
こんな風に、交通路でさえ、当たり前のように複数匹が索敵範囲に入る。林に入ると、この数が3倍か4倍に膨れ上がるらしい。
「全部、水が効くぞ。」
「本で読んだからわかる。主人は戦うか?」
「こっちに来たら戦うぞ。ブレイオが全部倒すなら、それでも良い。」
「心得た。行ってくる。」
いつも通り、ブレイオには自由に戦ってもらう。この山のモンスターはレベル12前後なので、たぶん俺の出番は来ないだろう。
「ガーー!」
と思ったら、後ろから熊が唸りながら近づいてきた。ブレイオが反応しなかった辺り、近くにポップして、すぐこっちに来たのかもしれない。
とりあえず、攻撃を受け止めた後、腕を掴んだ上で投落!現在の筋力なら、キトルベアだって持ち上がるのだ。
そんな、レベル差の暴力でモンスターを蹴散らしながら、順調に山道を降りて行った。
と、ある程度進んでいくと、滝の音が聞こえてきた。それは、プレイヤーが「修行の滝」と呼んでいるスポットの一つだった。
かつて、キトル山に滝があることに触れたはずだ。その滝だが、N2にもN3にも1つずつ存在している。N2の方は、林の中に入らなければ到達できないのだが、N3では交通路の途中に滝が存在している。
どちらの滝も、「魔法(水)」や、「滝の心」習得のために活用されている。ただし、モンスターの出現する場所でもあるため、つゆ払いが必要だ。
「主人。滝に、6人いる。」
「なるほど。たぶん、滝修行をしているんだろうから、俺たちは黙って通り過ぎような。」
「だが、近くにモンスターがいる。20匹ほどだ。」
「なるほど。それだと、ハデに戦闘をすると目立ちそうだな。ブレイオ、いったん帰還してくれ。落ち着いたら再召喚する。」
「主人に従う。」
どうやら、周辺にモンスターが集まってしまっているようだ。そして、下手に戦闘をすると、滝修行の妨げになってしまうだろう。
なら、ここは戦闘を回避しつつ通り抜けるようにしよう。
俺は、「虫避け薬」を使用。匂いが確認出来たら、それを持ったまま、道なりに進み始めた。
一方、こちらは滝修行をしていたパーティメンバー…
現在、「滝の心」習得のため、ここを陣取っている。
本当は、 N2 の方で修行をしたかったのだが、不運なことに、現在、滝の近くに狩場タイプのダンジョンが出現している。このため、冒険者の出入りが活発になっており、関連してモンスターも集まっているのだ。
ということで、仕方なく陣取っているわけだが、困ったことに、また通行人がやってきた。モンスターとゴーレムが追走しているようなので、現地の冒険者ではなくプレイヤーだろう。
プレイヤーなら、この状況を察して、林を通って欲しい所だ。ただ、現在、この周辺はモンスターでいっぱい。下手に刺激して、猿辺りにギャーギャー鳴かれたら困る状況でもある。
そう思っていたら、そのプレイヤーはモンスターを送還した。そして、こっちへと近づいてきた。林に入るつもりは無いのだろう。
追い出したい… だが、声をかけるのも攻撃するのもNGだ。とりあえず、モンスターが動き出すまでは様子を見よう。今はそれが最善だろう。
そう思っていたら、プレイヤーはこちらを通り過ぎ、山を下って行った。どうやら、ただ通りたかっただけのようだ。
しかし、モンスターが近づいてくる気配が無かった。索敵でわかる限り、モンスターはそのプレイヤーに気づいているようだが、近づこうとしていなかった。
そう思っていたら、地面に何かが落ちていた。どうやら、先ほどのプレイヤーの落とし物、いや、置物らしい。
その薬を鑑定して、ようやく合点がいった。それは「虫避け薬」であり、モンスターの侵入を妨げる効果があるようだ。つまり、この状況を察した上で、エンカウントを避ける手段を用意してくれたようだ。
あと、モンスターの内の何匹かが、そのプレイヤーを追いかけていくように離れていった。彼がそのモンスターを殲滅できるかはわからないが、こちらとしては助かる話だ。
「虫避け薬」を用いてモンスターのエンカウントを回避した上で、滝エリアを通り抜けた。これが、まとめウィキに掲載されている「滝エリアを通過する際の推奨事項」だ。
ただし、この方法を用いると、周辺のモンスターを数匹トレインしてしまう場合がある。きっと、虫避け薬を処分すると、襲ってくるだろう。
とりあえず、滝の音が聞き取れなくなるくらいまで進んだら、ブレイオを呼び出して、処理するとしよう。それくらい離れれば、滝修行の邪魔にはならないに違いない。
せっかく、モンスターに襲われずに道を歩いているので、周囲の音に耳を傾けてみる。
その音だが、鳥の声や風で揺れる木の葉の音などが多くを占めていた。モンスターの鳴き声も聞こえるような気がする。あとは、滝や川の音だ。
そうして歩くこと10分… すっかり滝の音は聞こえなくなった所で、ブレイオを再召喚した。
「主人。モンスター、増えてる。30匹ほどだ。煙を恐れている。」
「だろうな。ここで殲滅するぞ。行けるか?」
「殲滅、心得た。」
では、ブレイオもやる気に満ちたようなので、虫避け薬を終了。程なくして、周囲が騒がしくなり、戦闘が始まった。
「主人。あっちに狐いる。我は近づけぬ。」
「アイツは近づくと逃げ… なかったな。なら、俺が行こう。」
だいたいのモンスターは殲滅できたが、マッドフォッグが残って、こっちを狙っているらしい。こいつらは、近づいても逃げないタイプだったはずなので、俺が対処する。ブレイオは土属性が特効だからな。
ブレイオの示した方向に近づいていくと、地面に何かが落ちるようになってきた。土球などを飛ばしているのだろう。もちろん、直撃しているのだが、きっちりと無効化している。
「ギューン!」
すると、前方から鳴き声が近づいてきた。たぶん、マッドフォッグだろう。魔法使いが近づいてくる理由は知らない。
そのまま、ぽふぽふなりつつ接近、水や氷が弱点なので、魔法を駆使してなぎ倒していった。レベル11とか12とかの狐相手にはオーバーキルなんだけどな。
「モンスターの群れを倒した。」
ようやくモンスターはいなくなったらしい。通知が出た。
やはり、ブレイオには雷以外の魔法の育成も進めて欲しい所だ。狐は近づいてくるから対処できるが、土属性で遠距離から魔法を連射してくるモンスターは面倒だ。
そんな戦いをしつつ山を下ること半日… 俺たちは、山の北端の手前までやってきた。
今日はここで一泊。明日はフィールドボスを軽くひねって、N3攻略を終えるとしよう。