10-05 Cランク昇格と2次職

改定:

本文

「ナビー。冒険者ギルドへ向かう。先導してくれ。」

「了解しました。冒険者ギルドはこっちです。」

ルーウェンと別れた後、俺は冒険者ギルドへと向かうことにした。今回はギルドでこなすべき用事が盛りだくさんだ。

、街中の音に耳を傾けながら歩く。

地面はタイル状に敷かれた石の床だった。たまに継ぎ目部分に杖が引っかかるが、概ね平らな道と言えよう。

周囲は、人が会話しているような音は聞こえるが、少し物々しい印象もある。動画で聞いたことのあるものだが、ここは防衛ラインでもあるため、戦う住民が多いらしい。

それと、左右の圧迫感が気になったので触れてみたら、石を積んだような壁だった。右も、左も同じだったし、数か所で同じ手触りだったので、街全体で統一しているのかもしれない。

「ブレイオは、この街の印象について思うことはあるか?」

「頑丈な建物が多い。この街、周りが壁に囲まれていた。」

「モンスターに攻め込まれた程度で簡単に崩れないようになっているのかもな。」

「石や壁が多いから、少し冷たい。草花が少ない。」

「草花が少ないのはそうだろうが、冷たいのは、たぶん違うものだと思うぞ。戦いが近くて、緊張している街も、あんがい寒気を感じるものだ。」

「戦いを楽しみにはしていない。だが、悲しいものでもない。」

「喜怒哀楽には当てはまらないかもな。緊張、あるいは、不安といった所だろう。まぁ、ギルドの中は違うかもしれないけどな。」

「冒険者ギルドに到着しました。入口は開いています。こっちです。」

様子を確かめたり、ブレイオと会話したりしながら歩いて10分ほど… 冒険者ギルドに到着した。ナビーの声がする方からは、人の声がしているので、確かに扉が開いているようだ。

そのまま入口に近づくと、杖が木枠などに引っかかりつつも中に入ることができた。地面は木床だった。

冒険者ギルドの中は、やはり温かい、いや、少し熱いくらいだった。戦闘に飢えている者たちの熱気かもしれないし、あるいは、温かい料理がたくさん出回っている影響かもしれない。

「いらっしゃいませ。ここは、ヒマラン冒険者ギルド支部です。ご依頼ですか?」

ナビーの先導に従いカウンターに近づくと、正面から男性の声がした。職員だろう。

「俺は冒険者のユーだ。これ、冒険者証な。用件だが、5つほどある。」

「あぁ、盲人の冒険者でしたか。それで、用件とは?」

「Cランクへのランクアップ手続き、図書室の利用、素材の売却、二次職の取得、それから、草原のモンスター増加についての見解を知りたい。」

「なるほどなるほど。では、条件を満たしているようですので、まずはランクアップ手続きを行ないますね。草原のモンスターの件は、掲示板に掲載していますので、お待ちの間にご覧… えっと、別の者に説明させますね。」

「ご覧ください」とはならなかった。ナビーに聞けばいいんだけどな。まぁ教えてくれるなら、それで良いか。

「えぇと、ユーだったな。お前が、草原の状況説明と、二次職を受けたい人でいいか?俺が説明するぜ。」

少し待っていたら、ややだみ声の男性が出てきた。俺と同い年くらいだろうか?

その後、最初に草原の状態について説明してくれた。まとめると以下の通りだった。

  1. モンスター増加の兆候があるのは確か。これまでと状況が似ているため、いずれ、この街に殺到する可能性が高い。
  2. 予想されているモンスターは、クリプトン種やリーフオストリーなど、突撃力のある物。隣の森からもモンスターが来る可能性はあるが、植物やスライムは来ない見込み。あっちは大集団なので、その手のモンスターは踏みつぶされることを恐れて隠れてしまう。
  3. 現時点では未確認だが、例年、ボス級のモンスターが数匹は混じっている。とはいえ、モンスターが街に入らないようにするべきなので、突撃してくるとかでなければ優先度は低い。
  4. 予想される防衛戦の日時は未定。外の様子からは、あと4日以上は猶予がある見込み。
  5. 冒険者ギルドとしては、総力を挙げて防衛に臨む。なお、俺は戦闘職であるため、参加する場合は全線に出て欲しいとのこと。
  6. 防衛戦で予想される戦闘時間は、6時間前後。例年、それくらいかけるとモンスターの駆逐が終わる。

戦闘の条件としては、悪くは無いだろう。特に「植物やスライムに脅かされることが無い」というのが良い。

これまでに経験した狩場ダンジョンと比較してみよう。壁に背を向けることができないので囲まれるリスクと、レベル差の暴力が効きにくいための戦闘激化のリスクはあるだろう。一方で、周囲には俺以外にも戦闘職がたくさんいるので、現実には集団対集団の正面衝突が主であり、その手の心配は杞憂かもしれない。

「なるほどな。感謝する。」

「お、ちょうど更新も終わったみたいだぜ。こいつだ。」

冒険者証と思われる物体が戻ってきた。触鑑定… うん、間違ってないようだ。

「ユーの冒険者ランクが C に上がりました。」

「おめでとう。この調子でギルドに貢献してくれ。もちろん、上のランクを目指してくれよな。」

「そうだな。ランクアップは目指すぞ。それで、二次職も取得したいんだが、良いか?」

「おう。連れて行くぜ。」

では、この街に来た目的の一つ…「二次職」を取得しよう。

とはいえ、手続きはわりと簡単だ。冒険者ギルドで申し込みすると、個室に連れて行かれる。そこで水晶に触れると、二次職の一覧が開示され、選択したものがセットされるのである。

なおプレイヤーは、種族的になれないものや、特定の条件が必要なものを除き、全ての職業から二次職を選ぶことが可能だ。例えば、「錬金術師」と「斧戦士」を両立するみたいな、極端な選択が可能である。

それはそれとして、プレイヤーが今までに行なってきた行動や、育成している技能から、二次職の候補を受け取り、それに就くことも可能である。基本的には、明確に就きたい職業が無いなら、この候補から選択することが鉄板とされている。職業リストから選んでいたら、かつて、アヤが「画家」に気づかなかった!ような事故が起こるからだ。

「着いた。ここに椅子があるから座ってくれ。」

ギルド内の個室に入った。畳4枚分だろうか?とても狭いと感じる部屋だった。

そのまま、ポンポンと示された椅子に座る。

「さて。正面に水晶が置いてある。触れて確かめてみるといい。両手で包み込んだら、儀式が始まるぞ。」

俺は、手をゆっくりと伸ばしていった。

「あ、そっちじゃねぇ。こっちだ。」

途中で手の方向を修正してくれたおかげで、無事に触れることができた。触鑑定してみよう。

職神の水晶:

種別: その他

説明: 職業をつかさどる神によってもたらされたと言われる遺物の一つ。職の力を受けた者へ、新たな力と可能性を授ける。

真理: この水晶は、東の地に存在した神殿に祭られていたものである。しかし、強大な敵により陥落した際、半期を目論む人々により持ち出され、その意思を受け継ぐ形で現在の都市に奉納された。以降、東の地へ向かい、抗う者へ力を与え続けている。

真理によってもたらされたのは、なんでここに水晶があるのか?というバックボーンだった。そして、東のマップには、神殿があるという情報だった。ただ、どの程度東なのかわからないんだよな。いや、そもそも今となっては遺跡の類かもしれないし、強大な敵とやらによって、更地にされた後かもしれない。

それはそれとして、いよいよ職業の取得だ。俺は、両手で包み込んでみた。

旅する者よ、世界を切り開く者よ。

その身に宿る力を使いこなし、この地に到達したことを祝福しよう。

そして、今ここで、新たな力を授けよう。

そんな声がした後、候補職業の一覧が通知された。そして、やっぱりというか何というか、変な職業も出てきた。

  1. 自然術師: 自然に愛され、極限を貫く者。土、木属性魔法を中心とした自然に纏わる魔法を補正
  2. 指導者: 自ら、及び、仲間を導き、目的を成す者。使役、指導、並びに全線での活動に補正。
  3. 植物師: 薬草、果実など、あらゆる植物を使いこなす者。薬草や果実を含めた植物に対する干渉に補正。
  4. 裁定者: 真理に反する者を裁き、打ち破る者。真理に影響する活動に補正。

上3つはわかる。大地の祝福や薬草学、それから冒険者指導だろう。ウィキにも情報があるからな。まぁ、名称が何であれ、どれも相応のメリットがあることはわかる。

一方、「裁定者」については初めてだ。「真理」の影響なのはわかるが、裁判官の真似事でもすれば良いのだろうか?

ただ、「裁定者」の補正を識別した所、けっこうすごいものだった。

  1. 「真理の枷」自体を活用した攻撃技能が生えるらしい。
  2. 真理による抵抗時に、「正々堂々」と同じく鑑賞効果を減少する効果が追加。文面から、ダメージや状態異常強度が減るらしい。これ以上硬くなってどうする?という疑問もあるが…
  3. 味方に、一時的に「真理」の劣化版を付与できる。不意打ちや精神異常の軽減、真理の枷追加など。
  4. 「真理」によるテキストが付いている所有物の力を引き出せるらしい。文面通りなら、ブレイオもこれに該当する。

結果、俺は新しい選択肢「裁定者」を選ぶことにした。

「真理」技能が強力なことはよく理解している。その真理がさらに強くなるなら、俺の旅行はより楽になるのは間違いない。

また、「真理」に関する力を引き出せるなら、ブレイオの強化にもなるはずだ。なぜなら、彼にはこんなテキストが付いているからだ。

ブレイオ:

真理: ある夜、世界を夢見て地上へ登った鬼は、雷に打たれて絶命した。しかし、残された執念は雷を食らい、形を取り戻した。しかし、それは歪んだ形であり、最後には過ぎたる力によって再び地に眠った。正しき探求者により花開くことを夢見て。

今でも、上のテキストは変わっていない。続編みたいなのが出てくるだけかもしれないが、とりあえずテキストで記されている以上、何か秘められていると確信を持って良いのだろう。

「裁定者 が選択されました。この選択を取り消すことはできません。宜しいですか?」

「かまわない。」

そう発した直後、水晶の辺りから、何かが流れるような音がした。手に流れ込んでいるのかは知らないが、とりあえず水晶は握ったままにしておいた。

その内、音は空中に登って行った。水晶は今も握っていて机上にあるので、宙に浮いている音は、何かの演出なのだろう。

さらに待っていると、握っていた水晶は熱を帯びた。けっこう発熱しているようだが、ホッカイロ程度なので、握っている分には問題無い。

「二次職 裁定者 を取得しました。」

「称号 低位裁定者 を獲得しました。」

「技能 裁定 を獲得しました。」

「条件を満たしたため、技能 真理 が成長しました。」