10-07 技能の検証と質疑応答

改定:

本文

ここからは、技能「裁定」についてだ。

「真理の枷1 と、 裁定の枷 ね。聞いたこと無いよ。」

「だろうな。それで、性能を把握するために協力して欲しいんだが、可能か? 真理の枷 をトリガーにしているようだから、能動的に使用できる感じではないと思うんだ。」

「オッケー。じゃ、あたしと決闘して、その中で確かめようよ。その後、モンスターのいる所で残りだね。あ、遠距離攻撃してくれるヤツがいいんだっけ?」

「あぁ。それが一番確実だな。」

その後、俺とカナミーはギルドの地下訓練所へ移動し、決闘モードに突入した。

「真理の枷」の有無や、スタック値の貯まり方、「裁定の枷」の射程やクールタイム、デメリットなどを、調べていった。その結果、以下のことがわかった。

  1. 「裁定の枷」事態にクールタイムは無い。ただし、相手の「真理の枷」のスタック値が増減するまでの間は、再度「裁定の枷」を発動することはできない。
  2. 「裁定の枷」の射程は、少なくとも30メートル以上ある。使用すると、枷が実体化し、締め付けられてダメージを受けるのだそうで。なお、実体化した枷は、俺にも触れることができたが、1秒ほどで消えるため、拘束の効果は期待しずらい。
  3. 「裁定の枷」の威力は使用者の精神依存、属性は無属性の物理と魔法の複合。防御や知性で軽減でき、防具の装着も有効だが、完全に無効化するには、今の所実現不可能と言われている「物理無効」と「魔法無効」の両立が必要。
  4. 威力は、「裁定」のレベルと、「真理の枷」のスタック値に応じて増える。ただし、現時点では、限界の +20 まで積んで、防具なし状態のカナミーのHPを 6% 程度しか削れなかった。なお、 真理の枷+10 以下だとカナミーにはノーダメージ。
  5. 「裁定の枷」が効果を発揮すると、「真理の枷」のスタック値は、最低 5 または、スタック値の 50% 失われる。当然、「真理の枷」が持つデバフが弱まることを意味するので、使う相手と使いどころは選ぶ必要がありそうだ。
  6. もう一つの技「真理の枷1」の効果は、「真理の枷」が初めて付いた時に、 +1 多くスタック値が増える。なお、以降は従来通り、 +1 ずつのスタック値増加になる。レベルが上がると、さらに増えるかもしれない。
  7. 俺がカナミーに無許可の詳細鑑定を行なうと、俺自身に「真理の枷+2」が付与される。そこで「裁定の枷」を使うと、俺自身に効果が及んだ。裁定の枷のエフェクトを確認できたのはこのためだったりする。

その後は、村の外でモンスター相手に検証を行なった。結果、追加で以下のことがわかった。

  1. 「真理の枷」の付いた相手が複数いる場合、全ての対象に効果が発動する。なお、対象となった相手に応じてMPを消費する。また、MPが足りない場合には、「真理の枷」のスタック値の高い相手から優先的に発動できる分だけ発動する。
  2. 50メートルくらいの位置から魔法攻撃してきたマッドフォッグでも、「真理の枷」及び「裁定の枷」の対象にできた。ただし、俺には名称や居場所は通知されないため、「裁定の枷」を使うと、どこかにいるモンスターが勝手にダメージを受けるという不思議な状態になった。代わりに見ていたカナミー経由で確認ができた。
  3. レベル5の「トレント」(防御5、知性15)相手にダメージテストした結果、スタック値 +1 と +10 で17倍、 +1 と +20 では51倍ほどの差があることが判明。なお、 +20 まで積もると、トレントのHPが70%ほど溶ける。
  4. ダメージが少ない原因として「正々堂々」を疑ったが、違った。カナミーいわく、「裁定の枷」を使うと、相手には攻撃エフェクトも、使い手である俺から技エフェクトが出るのもはっきり見えるらしい。
  5. 状態異常を与えて、「真理の枷」が付いている相手から、俺が認識できないようにした上で「裁定の枷」を使うと、その相手は除外された。
  6. 関連して、オプション設定に、「真理の枷が付与された相手を通知」という項目が増えていた。ただし、相手を鑑定などしていない状態だと、「真理の枷+2 A」、「真理の枷+2 B」のような通知になったため、かえって混乱する原因になると思う。あと、真理による抵抗の条件を考えると、有効にしたら俺は通知の波に埋もれると思う。

最終的なダメージ式は、以下の通りだろう、という予測だ。

((使用者の魔法攻撃力 + 心理スタック値による補正) - (対象者の防御 + 対象者の魔法防御)) * 裁定のレベル補正

「うん。満足満足。でもこれ、凄い技能だね。」

「裁定の鎖が強くなるならな。ただ、不意打ちや幻術なんかを受ける前提だから、受け側に相応の耐久力が無いと使い物にならないと思うけどな。」

「言われてみると確かに。その辺りは、真理持ちの人と検証を進めるよ。」

「俺としても、挙動がいろいろわかって助かった。」

「こちらこそありがとね。でも、まとめウィキに載るのはもう少し先かな?今だ載せると、該当者が一人しかいないから、騒ぎになっちゃいそう。」

「確かに。PVPには興味は無いが、群れられても困るだろうしな。」

ということで、ひとまず検証結果を控えつつ、時が来たら公開する、というスタンスで合意して、今回の検証は終わりにすることにした。

「こんばんわ、ユー様。アドベントファンタジア 運営の者です。」

と、そのタイミングで第3者の声がした。というか運営だった。

「え?運営?」

「はい。ユー様より質問のあった、ログ項目についての回答のためにまいりました。カナミー様も同席されていたようですので、この場を借りて説明させてもらえればと思いまして。」

ギルドの地下訓練場で検証する前に、俺は運営に問い合わせをしていた。それについて、回答をしてくれるようだ。

「あぁ、裁定者の格だっけ?」

「その通りです。まず結論ですが、ユー様は、設定された要件をクリアしたため、二次職を取得することができました。なお、詳細な条件や数値を明かすことは出来かねますが、条件を満たさなかった場合、二次職の取得が途中でキャンセルされることになります。」

「つまり、職業を取得する途中の演出にも、俺を試す何かがあったという理解で良いか?」

「その通り、と言えばそうですが、違う、とも言えます。ログ項目の通り、過去の行動を評価しているため、あの場で行なう行動に意味は無いからです。」

「なるほどな。それと、あの時、俺には通知メッセージは無かったと記憶しているのだが、俺が聞きそびれただけなのか?」

「はい。そちらについては申し訳ございません。弊社側の処理ミスにより、通知が正常に行なえていませんでした。今後は、同一の処理が存在する二次職を習得する際に、表示、あるいは、音声などでの通知がユーザーのオプション設定に従って教示されるように修正致しました。なお、従来の演出を邪魔しない形を採用しております。」

どうやら、通知が無かったのは単にバグだったようだ。まぁ、水晶の演出なども考えると「通知があると煩わしい」と思う人もいるかもしれない。今回はたまたま報告に至っただけで、カナミーの指摘が無かったら俺は放置しただろう。

「私からも質問いいですか?今、同一の処理が存在する職業と言いましたが、裁定者以外にも、格の審査が行われる職業はあるのですか?」

「ございます。該当職に就いているプレイヤーも確認できております。なお、ユーザー保護のため、職業名や、アクティビティなどの回答は控えさせて頂きます。」

「ですよね~。」

可能性がありそうなのは、支配者的な立場の職業、あるいは、「特質」に分類される技能に関わる職業だと思う。

あと、結局選ばなかったわけだが、「指導者」とかも該当するかもしれない。例えば「指導者」のトリガーが「冒険者指導Lv10以上」だとして、「100人の冒険者を育てた」のか、「1人の冒険者を一流に育てた」のかで、同じ評価になるとは思えないからだ。たぶん、職業名が分かれそうだけどな。

ともあれ、「裁定者」については、このまま運用して良さそうだ。とりあえず、これからレベル上げに取り組むと使用。

「以上で回答を終了とします。なお、不具合発見のお礼として、ユー様のインベントリーへギフトボックスを送付しております。それでは、アドベントファンタジアをお楽しみください。」

その後、転移ゲートの移動音が正面から聞こえてきた。きっと、運営の人が転移したのだろう。

「あ、もう行っちゃった。まぁでも、聞きたいことが聞けたから良かったかな?」

「二次職の獲得時の審査か。たぶん、指導者とか群れの長っぽいヤツにもあるのかもな。」

「そんな気はするね。でも、過去ログから引っ張り出すのはちょっと無しかな。今後は、メッセも出るみたいだし、該当者がいたら聞く、でやってみるよ。ユーさんが動画撮ってくれてれば早かったんだけどね。」

「昔ならまだしも、今時二次職の選択で動画を取る人なんているのか?」

「ユーさんも、今プレイしているということはそういう筋だと思うけど、リリースから様子見て参入してくる人や、同時期に出ていた他ゲーを遊び終えて、こっちに流れてくる人って、けっこういるんだよ。」

「あぁ、なるほど。思い出とか共有とかか。」

「だが、このゲームは、動画には残さなくていいな。」

「それは、面倒だから?」

「そうだな。撮影を失敗したくない、という考えに悩まされるのが億劫だ。あと、垂れ流すにしても、その後見返す気がしない。よって、一期一会として楽しんで、何かの機会に思い出せればそれでいいと思ってるぞ。」

「考え方がおっさんっぽいよ!」

「このアバターで言うと様になると思わないか?」

「あ、うん。おっさんだった。」

なお、俺はカナミーに、リアルの情報は渡していない。検証において、年齢が関係する要素は、オプション設定のいくつかと、酒のようなアイテムの使用判定のみだからだ。

「ところで、ギフトボックスの中身は何だったの?」

「そうだったな。初めて入手したが、選択すれば中身が解放されるんだったか。」

ドライフルーツ X 20 (アップル、ピーチ、オレンジ、パインが5個ずつ)

ブレンド茶ば X 20 (5種類のフレイバーが4つずつ。なお、いずれも味は未確認)

剛耐の技能書 X 1 (防御のベース+3)

「なんか、1つだけ場違いなのが入ってるよ。」

「そうだな。このギフトボックスも、過去の行動とやらに基づいているのだろうか?」

「考えてもみたら、ドライフルーツと茶葉というのも奇妙だね。ポーションセットとか、経験値チケットなんかが多いらしいよ?」

「そういえば、ブレイオの好物探しがまだだったな。」

「ムム!明日、検証、しよっか?」

「悪いが、明日以降は予定があるから、自前で何とかしてくれ。ちなみに、イエローハニーの茶葉が好きな部類らしい、という状態だな。」

「残念。でも、ヒントはありがとう。」

カナミーと別れた後は、ヒマランへ戻り夕食、そしてログアウトした。

明日は、ヒマランで装備のアップグレードをしよう。