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「N4 試練の門村 ホムク に入りました。」
「ナビー。冒険者ギルドへ向かうから、先導してくれ。」
「了解しました。冒険者ギルドはこっちです。」
試練洞窟2層の奥にいた「ブルーレッサーデーモン」をブレイオが倒した後、俺たちは洞窟から脱出した。ただし、来た道を戻りながら、モンスターを狩ってきた形だ。
おかげで、道中でおくたんが採集したものも含め、素材の総数は200個を超えた。詳しい価格は不明だが、60000pくらいの稼ぎにはなるはずだ。
それにしても、「闘気の腕輪」の効果がヤバい。たぶん、俺が歩く時に振っている杖が、MP回復の対象になっているようなのだ。おかげで、MPポーションを節約できた。
「あ、ユーさん!こっち来てたんだ!」
と、正面から女性の声がした。
「えっと、アヤさん… でいいか?」
「合ってるよ。久しぶり~。」
「そうか。ナザ島での滝修行以来だな。」
「そういえばそうだったね。アレ?後ろの鬼は、パーティメンバー?」
「あぁ、こいつか。例の召喚石から出てきた鬼が、2回ほど進化した姿だな。」
「あぁ、あの小鬼の。動画はもらってたけど、進化すると、こんなに変わるんだ~!」
アヤと最後に会ったのは、E4の攻略中に拾った召喚石について、ナザ島で調査してもらった時だった。
「おっと。俺はギルドへ素材換金に行く予定だから、話をするならそこでどうだ?この街は、立ち話をするには少々冷えるからな。」
「それもそうだね。いいよ。私も話したいことがあるし、ギルドでご飯食べないとだから。」
その後、俺たちはギルドへ入り、食堂に向かった。素材の換金は後からでもできるからな。
「へぇ~。ブレイオか~。妖精っぽさを感じるね。」
「ゴブリンは、物語によっては妖精種としても扱われるから、間違ってないかもな。」
「そういえば、妖精と精霊って、この世界だとどう違うのかな?」
「確か、自然にある物質やエネルギー減少なんかが実態を持つのが精霊の始祖だったはずだな。そして、ブレイオも含め、俺たちが遭遇しているもののほとんどが、精霊の始祖から生まれた眷属、または化身ではないか、という考察を読んだ記憶はある。あと妖精は、現地の生物が、エネルギーを取り込みやすいように進化した… だったか。」
「そうなんだ。ブレイオちゃんは、精霊の因子みたいなのが入ってる別の体って感じかな?」
「そうかもな。」
「ふ~ん。あれ、そういう本ってあったっけ?」
「あぁ、精霊の件は外での話な。ただ、考察の参考文献は、街の図書らしいから、掲示板なんかで行われた議論よりは的を得ているかもしれない。」
実際、ブレイオの種族には「精霊」は付いているが、特質の「精霊(雷)」には「雷属性の化身」と表記されている。このため、精霊の因子は持っているが、本体ではないことは確かだろう。
「あ、そうだ。ユーさんに相談したいことがあったんだ。」
「相談したいこと?それは何だ?」
「私、もうすぐ二次職になれるよって言われたんだ。」
「二次職か。」
「うん。それで、二次職って、何に就いたらいいんだろう?って思ってるんだ。」
「やりたいこと、伸ばしたいことで選べば良いぞ。単に、職業2つ分の補正が乗るとか、職業に応じた適性技能が増えるだけだからな。」
「そうなんだ。じゃ、戦闘以外の職業を選んでも大丈夫かな?」
とうとう、アヤはガチな画家になってしまうのだろうか?
「職業については自由だ。例えば 鍛冶師 を選んだらお店を開かないといけない、なんて縛りは無いぞ。」
「そうなの?じゃ、なんで鍛冶師を選ぶの?」
「自分や仲の良い友達に使わせる武具を自分で作りたい、と思ったら、それができる技能が必要になる。そこで候補になるのが鍛冶師ということだな。」
「あぁ、自分のためってのでもいいんだね~。」
「あと、二次職になる時には、これまでの行ないに応じた候補も出てくるから、そこから選ぶのが無難と言われてるぞ。」
「あ、そうなんだ。良かった~。職業って、いっぱいあるから、うまく選ぶ自信が無かったんだよ。」
「参考になるかはわからんが、俺に開示された候補職を見るか?」
「あ、見る見る。」
俺は、アヤに開示された職業を表示した。もちろん、「裁定者」も含めてだ。そこだけ消すと変だしな。
「へぇ~。やっぱり拳士っぽいのが多いね。あと治療するのも多いかな?魔法使いもだ。」
「武僧だから、拳士と僧侶に近いものは多いぞ。あと、魔法使いも、属性魔法を手広く持っているからだろうな。」
「他にも不思議なのがあるね。指導者とか薬草学者とか。」
「そうだ。それを選んだからと言って、ふさわしい仕事をする必要は無いぞ。俺は相変わらず拳士として旅しているからな。」
アヤは、「裁定者」については特に気にしなかったようだ。外の情報に捕らわれずに純粋にこのゲームを楽しんでいる証だろう。
「ありがとう。参考になったよ。」
「それは良かった。おっと、そうだ。俺も、アヤさんに相談したいことがあったんだ。」
「ん?私に?」
俺は、ノンノリアで購入した「輝く石の腕輪」と、ホムクで購入した「凍った種 1」を取り出した。
「何これ?腕輪と、何かの種?」
「そうだ。まず種の方だが、凍っていてな。中身を取り出すために、彫刻の技能が必要なのだそうだ。取り出してもらうことはできるか?」
「彫刻ね。うん、やってみるよ。あ、システムアシスト出た。」
アヤによると、凍った種の表面に描かれている印を、アシストに従って削り取っていくことが必要らしい。そして、アヤは問題なくそれを達成した。
「こっちをこうして… できた。あ、氷溶けていくよ。」
「どれどれ。あ、溶けるというか小さくなっていくな。」
「あ、そうかも。水滴とか出てないもんね。」
印を削り取ると、種を覆っていた氷が消えて行った。これで、「魔力の種」ゲットだ。
「へぇ~、こういうのもあるんだ。初めてだったけど、楽しかったよ。」
「助かった。まさか、彫刻しないと中身が出てこないなんてしかけがあるとは思わなかったけどな。」
「そうだよね。あ、今描いたのが印術になってる。」
アヤが獲得したのは、「印消」という技だった。いわゆるスタン技に分類されており、印などの描画触媒を用いる術に、彫刻刀などを差し込むことで打ち消すようだ。本来は、固有のギミックを停止させたり、発動時間が長く魔法陣が巨大な大規模魔法に使うものと思われる。が、アヤの場合、通常の魔法陣や呪術にすら差し込みをできそうだ。
「印術で印術を制するか。まぁ、描画触媒を用いるものの定めだろうな。」
「危ない魔法陣を止められるんだ。今度練習してみるよ。それで、こっちの腕輪はどうするの?」
「こっちは、光線耐性を強化したいんだ。店で聞いた所、強化印みたいなものを彫り込むと良いそうだ。」
「腕輪に印を刻んで、効果を強めるんだね。私、できるよ。」
「できるのか。あ、ただ、今は資金が無くてな。」
「ん?いいよ。ユーさんにはお世話になってるし、すぐ終わるから。」
ということで、腕輪も強化してもらうことができた。彫刻の技能で、装備品の効果を強める技が使えるそうだ。ただし、代償として素材の攻撃力や防御力が大きく低下するため、アクセサリーなど、本体の防御力を期待しない装備にしか使えないとのこと。
「えぇと、これをこうして… あ、こっちもこうして… 回して… うん、いいね!」
程なくして、腕輪は戻ってきた。1分くらいしかかからなかったが、そんなすぐに終わるものなのだろうか?
輝く石の腕輪:
種別: 防具・アクセサリー
説明: 光を吸収し、暗い所で発光する性質のある腕輪。
識別: 光線属性耐性(微)、暗所での視認阻害を軽減(微)
輝印石の腕輪:
種別: 防具・アクセサリー
説明: 光を吸収し、暗い所で発光する性質のある腕輪。丁寧に磨かれると共に、効果を増幅する印が彫り込まれている。
識別: 光線属性耐性(大)、魔力を注ぐことで点灯(中)
デメリット: 光線属性攻撃の出力が低下(大)
「助かったんだが、強化を通り越して別物になったな。」
「あぁ、そうかも。魔印板ってあったでしょう?アレの印と、光線をとにかく吸い取れるように、っていう印をたくさん付けたんだ。あ、でも、明るくなる効果って要らなかったかな?でも、一緒に増幅しないとダメだったんだよ。」
「ダメではないぞ。それに、光線の出力低下も、俺が付けるなら問題ないな。」
「よかった~。役に立ちそうなら、私もほっとするよ。」
その後、アヤはログアウトしていった。同じ試練洞窟通いなのだが、明日はログインしないそうなので、一緒に行動というのは無しになった。俺としても、さすがに試練洞窟が終わってしまうと思う。
なお、ログアウト前にお互いにステータスを見せ合ったのだが、彼女の鑑定結果はこんなことになっていた。
名前: アヤ
種族: ヒューマン
職業: 印術師
性別: 女
称号: [上級画家], 中級印術師, 中級魔法使い, 中級観察者, 異界の旅人, 第4マップ突破者, ダンジョン踏破者, 写し取る者
レベル: 27
体力: 40
魔力: 70
筋力: 29
防御: 29
精神: 74
知性: 62
敏捷: 48
器用: 129
技能:
適性: 双小刀術3, 中級印術7, 上級描画3, 上級彫刻2, 中級測定13, 魔法(土31, 水33, 風29, 炎30, 光24, 闇28, 木30, 氷26), 中級採集2
技術: 鑑定28, 魔力制御15, 危険感知28, 潜伏24, 精神統一6, 直感15, 中級並列思考5, 索敵魔法20, 疾駆2, 水中活動3
支援: 世界知識, 視力強化(色,延,魔), 繊細, 絵心, 識別, 思考加速, 海の心, 滝の心
耐性: 毒抵抗, マヒ抵抗, 眠り抵抗, 精神異常抵抗, 混乱耐性, 魔抵抗, 我慢
印術師が中級になっていた。しかし、画家技能はそれをはるかに飛び越していた。
そりゃ、腕輪がとんでもなく強化されるわけである。しかも、彼女は自覚していないが、これ、店に売ったら6桁くらい行きそうな性能している。もちろん、売らずに使うぞ。