本文
「助かった。あと、聖銀の剣にしてくれてありがとう!」
「聖銀になったのは偶然だぞ。あと、ギルドから相応の支払いを求められているはずだからな。」
「あ、そうだった。」
アヤと別れた後、俺は浄化依頼に対応していた。ちょうど混雑が始まっていて、即戦力が求められていたようだ。
「こいつを頼む。宝箱じゃねぇが、モンスターに呪われちまってよ。」
「これは… 鎧か。確かに呪われているな。」
「そいつは浄気だな。ちょっと足りないんじゃないか?」
「そうだな。こっちからも出してみよう。お、行けてるな。」
「片手で足りなきゃ両手でってか。」
「解呪完了だ。一応説明しておくと、着用中MP消費が増える呪いだったな。もしかして、雪原か?」
「いや、魂の塔があってな。せっかくの目の保養を横から邪魔された。」
「雪原にあった魂の塔か。それは無対策で見とれてるあんたが悪いな。眺めるなら露払いを置いとくか、駄賃と割り切るべきだ。」
「なんだ、お前もおっさんじゃねぇか。だが露払いは必要だな。ゴーレムでも用意するとしよう。」
「魂の塔」とは、霊系統が出現する塔型のダンジョンだ。そして、この男は、装備に呪いをかけてくるカースゴーストにやられたんだろう。「目の保養」というのが何かは知らないが、おっさん発言から思い当たるヤツが一種いた。
それは、第6マップに出現する踊り子型の霊体系モンスター「フラミーン」だ。ただ、呪いで済んでいる辺り、カースゴーストからの恩情だと思う。何しろ、チャームソングやバインドソング、デスタッチなど、危険な技を持っていたはずだからな。
そういえば、N6に行くなら、アレが集団で出てくるから、俺も備えが必要か。近接戦闘をする以上、デスタッチの被弾は覚悟しなければならないからな。なお人類は、「即死耐性」を自力で習得できないので、不死系、または霊体系のダンジョンで引き当てることをお祈りするしかない。
「ありがとうございました。素材の査定が終わっています。査定結果は66400pです。浄化の報酬10000pと合わせると、76400pですが、宜しいですか?」
「問題無い。それにしても、けっこう出たな。やはり武具か?」
「その通りです。呪いも解呪していただいているようで、とても助かります。」
「自分で浄化した方が得だからな。ところで、採集に使う武具は、この街で作ってるか?」
「あぁ、それですか。ダンジョン関連具として、このギルド内で扱っておりますよ。担当の者を呼んできますね。」
どうやら、試練洞窟のモンスタードロップは、「自分で浄化できる」という注釈が付けば、けっこうな額になるようだ。これなら、4日くらいかけて洞窟で狩りまくることも一考の余地があるな。
それはそれとして、見送りになった採集具のアップデートを進めよう。グレードだけ考えるならヒマランなのだが、今欲しいのは発掘系。ヒマラン大草原に発掘ポイントは無いので、売ってない可能性が高いんだ。
「こんばんわ。採集具を求めているというのは君かな?」
「あんたが採集具の鍛冶師ということで良いか?」
「そうなるね~。」
やってきた担当というのは緩そうな感じの人だった。たぶん男だろう。
「最優先で欲しいのは、コレに装備させるつるはしだな。試練洞窟での採掘に使う。」
「な~るほど~。今持っているものを借りて良いかな?同じもので、性能をアップグレードするのが良いかな?」
「そんな感じだな。あと、鎮静の鈴なんかがあれば埋め込んで欲しいくらいだ。」
「音が鳴るヤツね~。ゴーレムがレベル30だから、主素材は聖銀、代金は…・ 40000p でどうかな?」
オーダーメイドで40000pか。安くはないが、悪くは無いだろう。
「強度に問題が無いならかまわないぞ。」
「少なくとも、この鉄よりはずっと良くなるよ~。それに、魔力を含む聖銀なら、採集物も良くなるからさ~。」
「なるほどな。素材の品質が上がる方向で頼む。」
「わかった~。明日の朝には渡すよ~。」
どうやら、これから作ってくれるらしい。明日からすぐ使えるのはありがたい。
「ところで~、他のはどうする~?」
「最終的には全て新調するが、今は金が足りない。」
「洞窟で稼ぐんでしょ~?なら、作っとくよ~。」
「もし、払えなかったらどうするんだ?」
「他に~、買う人はいっぱいいるよ~。問題な~い。」
職人なのに緩いな、この人。まぁ、そうなったらそうなったで問題は無いか。
「わかった。それで良い。スコップは採取品質、草刈り窯と伐採斧は処理能力優先が良いと思うんだが、可能か?」
「う~ん、鎌はいいけど~、斧は木材の品質も大事だよ~。鎌は魔鉄、斧とスコップは魔銀でどうかな~?代金は、110000pくらい?」
「わかった。それにしてもあんた、査定早いな。」
「並列思考だから~。」
「どっちかというと高速演算の領分だと思うけどな。まぁいい。頼むよ。」
「高速演算、忘れてた~。あ、名前、ノンター。プレイヤーだよ~。」
「プレイヤーだったか。俺もプレイヤーだな。」
どうやら、このノンターという人、街を拠点に、生産をしながら生活している上級鍛冶師らしい。
何はともあれ、おくたんの採集具アップグレードも進むようだ。しかも、第5~第6マップグレードに仕上げてくれそうである。
そこから3日…
俺とブレイオは、洞窟での狩りと技能育成に励んだ。
結局、依頼していた採集具を全て買い取った上で、残金が210000pを超えるまで戻すことができた。
一つは、おくたんの採集具アップデートの恩恵だ。採集にかかる時間が短縮されたり、より高く売れるアイテムが発掘できるようになったりした。
もう一つは、「輝印石の腕輪」だ。これが発光するのでモンスターが寄ってくる、そして、俺は常時シザーグローブになったことで火力増強、ついでに松明不要!という状態になったのだ。アヤには感謝である。
なお、各層の最奥にいるデーモンは、一日経つと復活するため、何度も狩られることになった。
洞窟の2層には「ブルーレッサーデーモン」、3層には「グレーレッサーデーモン」、そして、4層には「スカイレッサーデーモン」がいた。それぞれ、水、土、風属性を持っていた。
基本的に、各属性のブレスを使う以外には、直接攻撃にたまに属性が乗る程度のことしかしてこない。故に、戦い方はレッドレッサーデーモンと同じだった。
むしろ、3層と4層では、見つめていると凍結を与えてくる目玉生物「アイススパイ」や、音波で索敵し、小型のコウモリを集めて集団突撃してくる「レーダーバット」などもいて、そっちの方が面倒だった。もちろん、アイススパイは、普通に正面まで来て、触って確認できちゃったわけだけどな。
なお、N4のエクストラボスについては判明しているのだが、俺たちには難しい条件だった。というのは、「一日でデーモン4匹を倒す」必要があるからだ。
もちろん、デーモンを倒すのが難しいのではない。4層分を駆け抜けること、そして、エクストラボスまで倒す、というのを、ログイン制限時間内で達成するのが難しいのだ。
通常、これを達成するためには、パーティを2つに割った上で、4層と1層からスタートし、2層の出口で合流するプレイングが推奨されている。もちろん、4層に残る側のプレイヤーたちは、2日ほど洞窟の中で寝て過ごす必要もあるぞ。
そんな苦労をして戦えるエクストラボスは、「戒めの氷帝」と呼ばれる人型のモンスター。デーモン(守りて)をなぎ倒した者を、この地を踏み荒らす悪と見なして襲ってくる。最奥にいるボス「氷像の悪魔」を氷漬けにして封印したのでは?という考察がされていた。
当然、こいつと戦うためには、凍結への対策が必須だ。このゲームでは、完全石化や完全凍結から打撃や衝撃属性の攻撃を受けると粉砕されて死ぬからだ。なお、扱いとしては「全部位の欠損」という判定になるため、俺のように「効果変換(欠損)」を持っていると身体は残るのだが、内部的には欠損しているため、やっぱり死ぬ。死に戻りするとキレイに治るんだけどな。
そうそう。途中で、このゲームにログインして、初めてのワールドアナウンスが通知された。なのだが、その内容は…
「ワールドアナウンス!プレイヤーによって、エクストラ職業 裁定者 が初取得されました。」
というものだった。けっこう高い確率で、俺のことではないだろうか?
なお、「エクストラ職業」については、「勇者」などが該当しており、基本的に習得してから数日経過後、ランダムに配信されるらしい。配信の日付が不定なのは、該当者を特定する行為を防ぐためだそうだ。実際、ヒマランでの取得直後にアナウンスされていたら、俺はギルド内で缶詰に会っていたに違いない。