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「古き塔の都 トマに入りました。」
食後、俺たちはトマの塔に転移した。
「懐かしいなぁ。相変わらず、冒険者でにぎわってるね。」
「そういえば、一緒にここに来たのは、マッシブマッシュを倒してここに来た時以来だったな。」
「うん。その後、私はずっと南にいたんだ。ナザ島から戻ってきて、その後は北にしたんだよ。海底洞窟って聞いたから、私だと溺れて死んじゃうかなって。」
おっと。「水晶の洞窟」をダンジョンと勘違いしていたようだ。
「ソルットから行ける第5マップは、正確には水晶の洞窟な。海底を通るけれど空気はあるから、溺れたり水圧で潰れたりしないぞ。」
「え?そうだったの?」
「まぁ、あそこはレーザーを連射してくるゴーレムがいるから、対策装備が無いと防具を壊されて死ぬんだけどな。」
「あ!光線耐性とか、防具破壊とかの注意がいっぱい出てたんだ。そういうことだったのか~。」
「たぶん会っているぞ。」
「あ、このローブ、光線耐性付いてるよ。あと、煙とかを出せば大丈夫かな?」
「煙か。確かに、光には有効だと聞くな。魔法の光線にどこまで効果があるのかはわからないけれど。」
「トマの冒険者ぎるどに到着しました。」
「おやおや?ユーさんにアヤさんだ。もしかして、救援に来たのかな?」
「え?」
なぜか、ギルドの近くから、リーネさんの声がした。ここソルットじゃないはずなんだが…
「ん?なんで、ここにあんたがいるんだ?」
「あぁ、もしかして何も知らずに来た感じかな?じゃ、私から説明しよう。」
そして、説明をしてくれたのだが、厄介なことになっていた。
現在、隣、ヒマラン大草原では防衛戦が行われている。戦況としては、とりあえず悪くはないらしい。
しかし、防衛側のプレイヤーや地元の傭兵を襲っている者たちが混じっている。そのせいで、前線が不安定であるらしい。
そこで、E4と、E6の両方から挟撃を仕掛ける形で救援をしよう、ということになっており、現在、人を集めている所。各地のギルドからも人を出していて、リーネさんもその一人。
俺は、フレンドであるカナミー、ルーウェンに状況を報告し、情報の提供を求めた。結果…
カナミーは、現在、ヒマランにて後方支援中。プレイヤーや住民を襲っているのは、犯罪者集団や、それに加担しているPKであるらしい。襲っている目的は今の所不明。
ルーウェンも、この事態を認識し、E6の側から挟撃する部隊に参戦。これも一種のイベントの一形態と考えつつも、PKはしっかり狩ると宣言。
「なるほどな。なら、俺も参戦しよう。ヒマランに戻って、防衛戦が続いているなら戦う予定ではあったしな。」
「おぉ、ユーさんも乗っちゃうか~。どうやら二次職も習得したみたいだし、能力も十分だね。あれ?なんで鑑定できたんだろう?」
「リーネさんなら鑑定するだろう、と思って準備していたからだな。というか、能力を知っているなら、注意して欲しいぞ。」
「あぁ、そうだった!ユーさんのカウンター、ヤバいからね~。しかも、なんか3倍くらいに増えてない?コレ。」
「増えてるな。まぁほっとけば引っ込むけれど、俺にも治し方わからないからな。」
俺の「裁定」技能は、すくすくと育っている。それに伴い、技も増えた。
裁定12
裁定:
真理の枷2, 裁定の枷, 真理の守り1, 枷の報い
真理の守り1: パーティメンバーに、一時的に「虚偽看破」、「偽装看破」、「鑑定時干渉の無効」、「不意打ち効果無効」、「幻影無効」、「精神異常無効」、「真理抵抗」のいずれかを指定して付与する。ただし、効果継続中、能力を付与されたメンバーは、真理に反する能力を使用できなくなる。
枷の報い: 有効にしている間、「真理の枷」のスタック値が指定値に達した時、自動的に「裁定の枷」が適応される。ただし、指定可能な裁定値は10。
「真理の守り」は、「真理」で受けられるメリットの内1つを付与する技だ。無効系のバフが選べるのがヤバい。ただし、「真理」のデメリットは全て負うことになるので、人を選ぶだろう。
なお、「真理」に伴う「不意打ち効果無効」は、「不意打ち」判定時に発揮される追加効果を無効にするものであり、ヒットした攻撃がもともと持っていた効果は無くならない。これに対し「正々堂々」は、「認識していない物体による干渉の削減」なので、不意打ちよりも範囲が広いことになる。
「枷の報い」は、いわゆるオートカウンター系の技だ。どうやら、本当に遠距離からチクチクと攻撃を続けていたら弾け飛ぶようになってしまったらしい。ただし、クールタイムは無いがMP消費はあるため、凄い勢いでMPが溶けないかが心配だ。あと、「真理の枷」のスタック値が減ることを意味するので、デバフが必要な時にはOffにしておくべき技だろう。
そして、早くも「真理の枷1」が「真理の枷2」になった。もちろん、「初期スタック値+3」である。
「あの、私はダメですか?」
「あぁ、アヤさんね。レベル的には大丈夫じゃないかなぁ?」
「相手は選ぶべきだろうけどな。モンスターなら何とかはなるだろうが…」
「う~ん。とりあえずやってみるよ。」
ということで、俺とアヤはこのお祭りに参加することにした。なお、以下のクエストが発生したぞ。
ヒマラン守都防衛戦 西部 救援作戦:
種別: 緊急クエスト
依頼主: 草原の守都 ヒマラン 冒険者ギルド
内容: 「E5 ヒマラン大草原」のモンスターと、モンスター側に加担した犯罪者集団が守都を襲撃。草原の西部より挟撃し、これを敲け。
報酬: 防衛の成否、並びに討伐対象により決定
期間: ゲーム内8時間 (準備1時間、戦闘6時間、終了1時間)
注意1: 戦闘フェーズ中に死亡した場合、始まりの街にリスポーンします。クエストが終了するまで、 E4, E5, E6 のマップへ移動することはできません。
注意2: 戦闘フェーズ中にログイン制限時間を迎えた場合、死亡と判定されます。連続ログイン時時間の更新は、準備フェーズの内に行なって下さい。
「挟撃部隊の皆さん!そろそろ出撃します!東出口へ集合してください!」
それから40分くらい後、お呼びがかかった。どうやら、作戦欠航が近いようだ。
俺たちは、東出口から、ヒマラン大草原へと向かった。
なお、今回は緊急事態であるため、「第4マップ突破者」称号を持つ者であれば、トマの塔は未攻略でも参加可能ということになっていた。故に、アヤはOKらしい。
「皆さん。ここより東に、モンスターの群れがいます。また、犯罪者も加担しているとのことです。お気を付けください!突撃します!」
「ウオオオォォォー!」
そして、大草原の西側から、救援部隊はなだれ込んだ。
「行っちゃったね。」
「よし。俺たちも向かうぞ。」
「まさか、最後まで待ってから向かうなんて思わなかったよ。まぁユーさんの敏捷じゃ、一緒に出ても変わらないかもしれないけどね。」
「敏捷が足りない以前に、音が聞こえないのではどうにもならなくてな。それで言うと、アヤさんとリーネさんは、俺に合わせなくても良かったと思うぞ?」
「あの集団はちょっと怖かったんだ。だから、こっちの方がいいや、って思っちゃった。」
「それは良いが、特にアヤさん、少人数でいるとカモられるから注意な。とりあえず、俺たちも前進しよう。モンスターなんかを探して、狩って行けばいいんだったか。」
「そうだね。近くにはいないから、もっと東へ行かないとだね。」
ということで、出遅れたわけだが気にせず出陣。俺は、ナビーの先導に従い、まっすぐヒマランの方へと向かって行った。
なお、アヤと、リーネさんとはパーティを組んでいる。パーティチャットが使えた方が便利だからだ。
「あ、モンスター発見。アヤさん、私と行こうか。ユーさんは、ほっといても死ななさそうだし。」
「え?あ、はい。えっと、ユーさん、気をつけて?」
その後、結局、二人は別れてどこかへ行ってしまった。まぁ、俺と一緒にいる意味が無いだろうし、こっちも一人の方が楽だ。
しばらく歩いていると、遠くの方で何かガッキンガッキンとした音が聞こえてきた。誰かが戦っているようだ。
「ギーッ!」
おっと。溢れたクリプトンがこっちに来たようだ。捕まえたので、強撃、爆拳、振討だ!。
「クリプトンシーフを倒した。経験値を168獲得しました。」
そういえば、このイベント中は、レベル30までのモンスターが湧くんだったな。さすがに35は厳しいかもしれないが、どんどん狩って、経験値を集めたい。PKも、格上なら経験値くれるらしいからな。
「主人。空から鳥の群れが来てる。上に何か乗ってる。」
どうやら、空からもモンスターが来ているようだ。
あれ?確か、この辺りには空のモンスターはいなかったはずだな。リーフオストリは飛べないし。となると、誰かのテイムモンスターだろうか?
と考えていたら、アヤからチャットが来た。ちょうど、その空のモンスターについてだった。
「ユーさん。空に鳥モンスターを大量に引き連れた犯罪者プレイヤーが飛んでるみたい。何とかできないかな?」
「了解。空には味方は飛んでいないのかが知りたい。ブレイオにドカンとやってもらうが、味方も巻き込みかねないから。」
「リーネさんに聞いたよ。空を飛ぶ味方はいないみたい。」
「了解。とりあえずやってみる。もし、落ちてきたのがいれば、てきとうに処理してくれ。」
「ブレイオ。確認したら、アレは全部敵で良いらしい。広雷で行けるか?」
「心得た。」
「なら、熱縛で精神積んでおくな。存分に落としてしまえ!」