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「君たちのおかげで、この都を守り抜くことができた。感謝する。」
「ウオオオォォォー!」
「今日は、街を挙げての祭りとする。ぜひ、楽しんで行って欲しい!」
「ウオオオォォォー!」
現在地は守都ヒマランの入口から街中に入った所だ。そして、都長なる人が出てきて、今まで祝辞を述べていた。内容はあっさりしたものだったけれど。
なお、祝辞でも触れられていた通り、今回は「防衛成功」であるようだ。「防衛失敗」のシナリオも気になる所だが、救援舞台に参加した俺としては、こっちの方が良い結果になるはずだ。少なくとも、実入りの点では…
「クエスト ヒマラン守都防衛戦 西部 救援作戦 が終了しました。報酬が授与されます。」
「成功」ではなく「終了」となっている。きっと、PKとして参加した者にも、何かしら報酬が出たのだろう。
そして、俺に与えられた報酬は以下の通りだった。
陣営勝利報酬: 冒険者ギルド、 ヒマランNPC好感度上昇, 記念称号「守都の救援者」
モンスター討伐報酬: 51000p (1000p X 51匹分)
特殊モンスター討伐報酬: なし
犯罪者討伐報酬: 90000p (10000p X 9名)
敵対プレイヤー討伐報酬: 不思議な種 X 3
戦闘生還報酬: 技能経験値チケット X 3
どうやら、今度開催される公式イベントの余興も兼ねていたのかもしれない。「不思議な種」や「技能経験値チケット」は、通常プレイでは絶対に出てこないアイテムだ。
不思議な種:
種別: 薬草・その他
説明: ダンジョンなどで発見される希少な種。その種が芽吹くことは無いが、飲用することで、対象者が望む能力の成長を促進する。
技能経験値チケット:
種別: チケット
説明: 異界の旅人に送られた魔法のアイテムの一種。使用後からゲーム内2時間、使用者の技能の成長速度が上昇する。 (譲渡不可)
「お、ユーさん発見。お疲れ様~。」
「あぁ、ユーさん、お疲れ様~。」
アヤとリーネさんもやってきたようだ。
「お疲れ様だ。二人ともここにいるということは、生還できたんだな。」
「え?あぁ、そっか。そうだよ。死にそうだったんだよ~。」
「アレはギリギリだったね。アヤちゃんの判断が間違っていたら串刺しだったんだ。」
話によると、上級印術師なPKと遭遇し、印消で抵抗を続けていたらしい。しかし、相手の方が上手のようで、包槍を発動されたとのこと。が、幸い、アヤは影身をうまく使って回避、リーネさんと反撃をして撃退したそうだ。
「包槍か。さすが上級。火力のあるものを選ぶな。」
「うん、よくわからないのだけれど、刺さったら凄く痛そうな槍だったんだよ。影身が間に合って良かった。」
「包槍は上級の攻撃印術だからな。俺でも直撃したらHP全損まであるぞ。」
「えっ!ユーさんが死んじゃうって、びっくりだよ。」
「それだけ上位の相手が混じっていたということだな。」
今回は相性が良かったから助かったが、俺が対峙したプレイヤーも、場違いなレベル帯だった。幻術師に至ってはレベル72だったからな。
「あっと、そうだ。リーネさんには、アヤさんを守ってもらったからな、これでどうだ?」
俺は、不思議な種2つをリーネさんに差し出した。
「え?何これ?」
「その反応だと、やはりもらっていなかったか。異人向けの報酬の一部だな。」
「びっくりな種だね。でも、これ、私がもらってもいいのかな?ユーさんや、仲間のために使うべきだと思うよ?」
「一緒に戦ってくれた仲間だからな。それに、全部とは言ってないぞ。俺も種は取ってある。」
「そっか。じゃ、ありがたく受け取るよ。」
「それと、アヤさんもだが、使うなら今が良いぞ。薬草学の恩恵がある。」
「え?薬草学?」
「あぁ、ユーさんなぜか持ってたよね。そっか。確かに、今飲むべきだね。」
「薬草学は、同行者にも還元されて、種の効果を増やしてくれるぞ。1個で2倍だ。」
「え?そうなの!わかった。使わなきゃ!」
その後、俺たちは3人で街中を散策することにした。
「串焼きの露店だね。馬肉と鶏肉かな?」
「草原に出るのがそんな感じだったか。確かに、他には植物とか虫とか猫とかだったな。」
「おや?ユーさんは、シャドーキャットのお肉は食べたこと無い?けっこう引き締まっていて美味しいらしいよ。」
「無いな。実際、装備で資金が溶けたから、この街の露店巡りは今日が初めてだ。」
「え?猫を、食べちゃうの?」
「あぁ、異人達にはあまり人気が無いんだったね。」
この世界には、普通に猫を食べる文化もある。というより、肉の付いている生物は、だいたい食べられている。さすがにゾンビ系を常食している人はいないだろうけれど…
なお、シャドーキャットを倒した場合に出てくるのは、既に処理がされた毛皮や爪、お肉などである。さすがにお肉は調理しないと食べられないが、すぐに調理できる状態にはなっている。
では、リーネさん他が持っていた「解体」技能はどんな効果なのか?というと、「ドロップの種類、品質、数に補正を与える」という効果だ。便利技能の類なので、ビルドに問題が無ければ習得することが推奨されている。ただし、効果が「器用」「敏捷」に依存しており、その値が低いと逆に悪化するらしい。俺が習得していないのはこのためだ。
それと、もし「モンスターの全てが欲しい」場合には、「解体」の派生技能「完全解体」を習得すれば良い。有効にすると死体が残るようになり、自力で解体できれば全てを素材として入手可能になるそうだ。ただし、倒し方にも注意を払う必要が出る上、通常ドロップ並みの品質の素材を手に入れられるようになるまででも、かなりの訓練が必要らしい。
「。言われてみると、モンスターを倒して出てきたお肉って、既に成型されていたね。でも、猫のお肉は、やっぱり無いかな。」
「NGな食材がある場合はオプションから登録しておくと、料理で出てくるのを防げるぞ。ちなみに、特に記載の無いスープ等で使われているお肉は、鳥か豚か牛らしい。」
「そ そうなんだ。良かった~。知らない内にすごいお肉食べちゃっていたなんて想像したくないよ~。」
「ところで、ユーさんとアヤさんは、どうするのかな?私は買う予定だよ?」
「おっと、失礼。馬肉と鶏肉は一つずつ食ってみようかな。それと、野菜焼きもあるなら欲しい。」
そして、串焼きを食べてみた。どれも香草で味付けがされていて、刺激的だった。
なお野菜焼きについては、普通に葱やピーマンっぽかった。ハンマープラント等の素材ではないらしい。
「盛り上がってるかー!己の腕っぷしに自信のあるやつは上がれ!そして熱くなれ!」
「うおおおおおぉぉ!」
どうやら、PVP形式の見世物も行なわれているようだ。
「ふむふむ。ユーさん、アレ出ちゃえよ。きっと面白いよ?」
「断る。俺が今必要としているのは、あぁいう場所での戦いじゃないからな。」
なお、俺がリングファイトに出る予定は無い。理由は2つある。
- 対人で体術系の技能を育てるには、短期決戦よりも長期間のスパをした方が良い。それは、リングファイトの場にふさわしくない。
- イベントで対峙した相手を考えると、出場しているのは基本的にレベル50~60代のプレイヤー。PKと違い、正面からの打ち合いになるリングファイトでは、どうにもならない差がある。というより、世界が違う。
「ユーさんにしては弱腰だね。上の強さを知っておくって良いと思うんだけどな~。」
「その土俵に上がれるくらい強くなったら考えるさ。具体的には、闘技場のB級が目標だな。今の俺は、Dで生き残れるか怪しいレベルだろう。」
「それだけ客観視できる人なら、お祭りくらいは挑戦しても良いんじゃないかな?というかね、もう申し込んできちゃったよ~。」
「おい?本人じゃなくても申し込みできるなんて、ずいぶん緩いルールだな。それこそ、リーネさんが出たらどうだ?」
「武器の使用禁止なんだよね~。体術じゃ、さすがに私も土俵に上がれないんだよ。だから、私たちの代わりにがんばって。」
結局、対戦することにされてしまった。そして、対峙した相手は…
「俺はユーな。」
「盲人の拳士か。俺はダグラスだ。なかなかの闘気を感じるぞ。」
「なるほどな。ずいぶんアレな挨拶だな。こりゃまいった。」
「ほぉ、レベル的にはトマ上がりって所か。その腕でこいつを耐えられるのはなかなかだと思うぜ。まぁあきらめずに抗って来いよ!」
俺は現在進行形で、特級系の気術「気流支配」を受けている。こっちは中級気留術であるため、出力が足りておらず、外から完全に抑えられている。これが挨拶ということは、試合が始まって出力が一段上がれば、俺は物理的にすりつぶされるだろう。
「行くぞ!リングファイトだ!」
そして試合開始。当然のように出力を上げてきて、身動きが取れない。こっちも出力を増して、耐えているが、HPとMPが秒速10%以上の早さで溶けている。
そして、リングで爆発が起こった。
「ぬお、何が!」
「そう言いながら、しっかり反撃してきたか。その動きは極地柔体術か?」
「なるほど、気送か。おまけに、そこまで見抜くとはな。俺も修行中のようだ。面白かったぜ。」
結局、爆発と、その後の攻撃でHPが消し飛んだ俺は負けた。だが、一発だけは叩き込んでやった。
完璧に抑えていたと思われる気流支配に送気を差し込んだからな。そして、意図しない爆発が起きてひるんだダグラスへ接近、振討を一発打ち込んでやった。
ただ、さすがに反撃をもらってHPが溶けた。もともと、気流支配ですりつぶされて危険域だったからな。勝負にはならなかったが、少しくらいは抗えただろうか?
「ユーさん、大丈夫?」
「死に戻ったからな。虚脱になっている以外は何も問題無いぞ。むしろ、全身バキバキで生きてるよりマシだ。」
「いやぁ、すごい爆発だったね。」
「アレをただの爆発だと思っているなら、リーネさんは修行した方が良いぞ。ヤツは、冗談抜きでプチッと潰せる能力持ちだったからな。」
「え?そんなに凄い人だったんだ?」
「実際の実力は知らないが、S級に片足突っ込んでるくらいはあったな。正直、あの人が敵側だったら俺たちは全滅していてもおかしくないぞ。」
ちなみに、振討を打ち込んだ時に得たダグラスの触鑑定の結果は以下の通りだ。
ダグラス:
種族: 獣人・猫
職業: 拳士、気術師
性別: 男
レベル: 85
HP: 99%
状態: 敵対、真理の枷+3
称号: 超級気術師, 超級拳士
説明: 拳士の男性。
識別はする暇が無かったのでしていない。アレ、念じないといけないから隙ができるんだ。
ただ、わかることは、「最強のNPC」の類であることだ。プレイヤーはまだレベル75が最大だったはずだからな。
その後俺たちは夕食を取り解散した。
アヤは、今度こそトマの塔に登るそうだ。正直相性きついと思うけど、詰んだら何かしら連絡してくるだろう。
俺は、明日はヒマラン大草原で狩りの予定だ。ポップ数が落ち着いたらしいからな。