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「浜辺に到着しました。」
「浜辺に入りました。プライベートモードに変更しますか?」
(プライベートにしてくれ。)
翌朝、俺はソルットのプライベートビーチにやってきた。
今日からは、身体系技能の育成も始める。ラフィもそうだが、俺やブレイオも技能育成に力を注がなければならないからだ。
それと、ラフィと同系統のモンスターの育成について、まとめウィキでしっかり情報収集をした。初期技能の違いはあったが「剣舞の幼魂」のデータも揃っていたのだ。まとめると、以下の通りだ。
- 進化レベルは、 10, 20, 40, 60 まで確認されている。
- 進化先や属性の方向性は、育成した技能の影響を受ける。
- 共通の魔法適性は、「月」と「風」がある。ただし、「土」系統に覚醒すると「風」が、「木」系統に覚醒すると「月」の適性を失う。よって、ラフィは「月」の適性を残している可能性が高い。
- 「舞剣術」ルートは、「敏捷」と「器用」が攻撃力に乗るので、火力のあるアタッカーや舞踊との併用を想定する場合には有効。
- 氷属性系統は、クリティカル補正や対空、回復妨害、敏捷デバフなどの適性が高く、総じて「逃さず狩る」能力に優れる。一方で、回避や加速系統の適性がやや劣るので、ソロ狩りをさせる場合には風や月属性による補助の取得が望ましい。
- 「薬品」や「治療」に分類されるアイテム、魔法を無効化するため、ポーションや治療魔法で回復できない。自然回復力を高める手段やドレインでの回復は可能。また、飲食は可能で、食べ物に付いた回復、バフ等は受けられる。
- 生気吸収やドレインタッチ、デスタッチ等が欲しい場合、「霊術」の習得が必要。なお、ゴーストを狩っていれば勝手に生える。
- 浄化に触れると、本来の効果とは別にHPとレベルに応じた割合ダメージを受ける。
では、ここでブレイオとラフィを召喚だ。
「む。ここは、浜辺か。」
「浜辺?」
「そうだ。今日は、ここで遊びながら強くなるぞ。まぁ運動だな。」
「ん。アレ?服が…」
「着ているのは水着だ。砂が付いたり濡れたりするからな。」
もちろん、普段着だと海に入った時に動きにくくなるので、水着も用意した。昨日の読書中に、カナミーに買ってきてもらった「子供用水着(女性用)」だ。一応、「潜水補助」が付いている。
その後、俺たちは浜辺で技能育成に励んだ。と言いつつ、半分くらいは遊んでいた。例えばこんな感じだ。
「掘って掘って。もう一つ掘って…」
「穴、大きい。」
「よし。天然の砂風呂だ。ラフィ、入ってみるか?」
「ん。入る。」
「土を戻すぞ。」
「ん?あ、土、ふわふわ。温かい。」
「そうやって温まるのも楽しいぞ。お日様も見えるだろう?」
「見える。でも、眩しい。」
「おっと、ずっとは見なくて良いからな。」
「主人、我も挑んで良いか?」
「お?ブレイオも入ってみるか。なら、掘るぞ。掘って掘って…」
「棍で吹き飛ばしてはダメか?」
「土を戻すのが大変だから無しだな。よし、できたぞ。入ってみてくれ。」
「うむ。主人、入った。」
「では、戻すな。どうだ?調子は?」
「んぐ。土が、体を侵食するか。だが、まだ耐えられるぞ。」
「あぁ、さすがに砂でも埋まるとダメか。土の魔力で満ちているからな。苦しければ出て良いぞ。」
「そうしよう。我は海に向かうぞ。」
「では、代わりに俺が入るかな。」
砂を掘って埋まってみた。
なお、これは「大地の心」や「魔法(土)」を得るために有効な方法だ。また、浜辺なので「海の心」の経験値にもなる。
それと、ブレイオが砂に埋まるのがNGなのは、種族特性の影響だ。土属性が特効なので、これはどうにもならない。
「ブレイオ。行くぞ!」
「問題無い。」
「ほ、っと、さすが柔らかいな。スライムほどではないが、しっかり弾くの名。」
「うむ。柔身だからな。だが、全身にはかけられん。」
「まぁそうだろうな。訓練すれば、いずれは全身柔らかくなるかもしれないけどな。」
「ブレイオ、柔らかい。こっち、硬い。」
「ラフィにも柔らかい所はあるぞ。訓練すれば、もっと柔らかくなるかもな。」
「ん。本当。柔らかい。でも、硬い所ある。」
ブレイオの柔体術をネタにして遊んだ。
なお、ブレイオもラフィも、実態部分には人のように骨のような硬い所と、筋肉や脂肪のような弾力のある部位が存在している。これらは「霊骨」とか「霊肉」という、魔力でできた部位であるらしい。まぁ、そういう設定でないと、ブレイオが霊体化した時に、「骨どこ行ったの?」ってなるからな。
「よし、捕まったか。手を離すと落ちるから注意な。」
「ん。」
「敏捷上昇、速度上昇、で走るぞ!」
「ユー、早い。風、吹いてきた!」
「風はずっと吹いていたぞ。俺が走っているから、風を感じやすくなったんだ。」
「でも、変。ユーの背中、揺れない。ブレイオ、揺れた。」
「それは鍛えたからだな。ブレイオも、今揺れないように走る訓練をしているぞ。」
「揺れない、走り方?」
「ラフィは、揺れた方が楽しいか?」
「どっちも楽しい。不思議。」
ラフィを背負って走った。
なお、俺が揺れないのは、「定駆」と「心身安定」の効果だ。ペースが変わらず、悪路でも姿勢が乱れなくなっている。
「これ、温かい。」
「あぁ、そうか。ラフィ、冷却で冷やしてみるか?」
「ん。冷たくする。」
「おっと。こっちも温かくなってるな。俺も冷却しよう。」
「ユーの手、凄く冷たい。」
「魔法を育てているからな。ラフィも、その内もっと冷たくできるようになるぞ。」
「ん。でも、私の、まだ温かい。」
「お、ラフィの手だな。こうやって、手に握っているものに集中するんだぞ。冷たくなるように。」
「冷たく… なる…」
「冷たくなる。冷たくなる。その調子だ。」
「冷たく… なった!」
「そうか。良い冷えっぷりだな。飲むか。」
「ブレイオ、ジュース、冷たくない。」
「そうだな。やってみるか?」
「ん。」
ジュースを「冷却」で冷やして、飲んだ。なお、MPの回復促進の付いたジュースなので、ラフィにもちょっとくらいは有効だ。最大MPが低いから、普段の自然回復で足りているだろうけれど。
そうして海で過ごした後は、ソルットの温泉でくつろいだ。
仕様や配置は、ヒッツの温泉と同じだった。が、露天風呂が、浜辺の砂に、お湯が流れ込むという砂風呂だった。
「ユー。泡いっぱい。」
「そうだな。ふっくらしてるだろう?」
「ふっくら。柔らかい。手に付いた。」
「ラフィも、泡付けてみるか?」
「ユー、泡付けて。」
「俺がか?」
「ん。ユー、温かいから。」
「わかった。あちこち触るぞ。くすぐったいかもしれないが、我慢な。」
ラフィに、ハンドタオルと接見で泡を付けていった。結局、言われるがままに全身を泡だらけにしてしまった。
結果として、髪は肩に触れるくらいまでに揃えられていたことや、身体は、「小さい」というより「細い」ことがわかった。なお、体を擦ったわけだが、「痛い」とか「くすぐったい」とは言われずに済んだ。
続いて、この機会に、ブレイオの全身にも触れつつ、体を洗ってみた。
結果、ブレイオは、前進が鱗か、出っ張った筋肉で覆われていて、すぐに泡立った。筋肉は引き締まっているが、体は太く腕はわりと細いことや、しっかり2本の角があることなどもわかった。
「ユー、ブレイオ、背中大きい。」
「まぁ大人だからな。ラフィも大きくなれば、これくらいになるぞ。」
「前も、洗う。」
「そうか。まぁ、良いぞ。って、ん?」
「胸、小さい。引っ張ったら、伸びる?」
「それは伸びないな。こういうからだだと思ってくれ。」
「体、毛が少しある。邪魔?」
「いや、邪魔じゃないぞ。引っ張らなくて良いからな。」
俺も洗われることになった。「胸が小さいなら引っ張れば伸びる」なんて発想になる辺り、子供らしいと言うべきか、常人とは違うと言うべきか…
「湯か。人は、このようなものに浸かって何をするのだ?」
「体の中にしみ込んだ悪い物を洗い流すことだな。人の体には、小さな穴がたくさん空いていて、そこからも吸い込んだり吐き出したりしているんだ。それで、たまに良くないものが詰まることがあってな。」
「難儀な体だ。塞げば良いのではないか?」
「植物や動物も同じだ。これが無いと、生きるために必要な力を外から取り込むことができなくてな。」」
「やはり難儀だな。魔力を取り込んで生きていけば良いであろう。」
「魔力が無い場所でも生きていけるための進化だからな。数を増やし種を残すためには、少々の不便を受け入れてでも、使えるものを広く使うものだ。」
「ふむ。それも一つの道理か。魔力が不足すれば、我は生きられぬ。そうなった時、我らも形が変わるのか…」
「真実かどうかはわからないが、人と子供を作った精霊の眷属がいたらしいな。可能性はあるだろうな。」
そんな話をしつつ、ブレイオも温泉を気に入ったようだった。ちなみにラフィは、身に着けた水泳技能を使って、お湯の中を泳いだり、俺やブレイオの上に登ってきたりしていた。