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昨日に続き、今日も浜辺で鍛錬だ。ただし、今日からは戦闘技能も育てる。
ということで、今回はリーネさんにも同行してもらっている。
「う~ん、ここなら広いし、他人に邪魔されなくていいね。」
「ん?リーネ?」
「お、ラフィちゃんだね。そっか、もう言葉話せるようになったんだ。」
「今日からは、モンスターに立ち向かう力も育てていくぞ。そのために、リーネさんに協力をお願いした。」
「リーネ、強い?」
「強いぞ。そうだな。リーネさん、この子を背負って走ってみてくれるか?できれば縮地で。」
「縮地?いいけど。それじゃ、ラフィちゃんを背負って… 行くよ!」
「ん?わっ!」
こうして、ラフィはどこかへ行ってしまったのだった。
「リーネ、早い。それに、力、強い。」
「そうだ。それに、剣の扱いがうまいぞ。俺は剣は専門ではなくてな。しばらくは、彼女に教わりたいと思っているんだ。」
「ん。剣、使えるようになる。」
「オッケーだよ。じゃ、私に任せて、ユーさんたちはてきとうに修行していてよ。」
「そうだな。リーネさんに任せる感じになって悪いが、俺とブレイオは離れてるな。」
ということで、俺たちは修行の続きに取り組んだのだった。
こちらは、ラフィ…
私は、主人によってラフィと名付けられた。
儀式というもので呼び出されたらしい。呼び出される前に、何をしていたのかは、覚えていない。
ただ、思うことがいくつかある。モンスターが怖い。動く草木を見ていると憎い。なんだか寂しい。
だから、最初にユーに当たった。なぜだかわからないけれど、私は知っている。最初に当たった時に、心が弱い者には従わない。私より弱いのに、一緒にいたら、私はもっと寂しくなるから。
でも、ユーの心はとても強かった。それに、柔らかくて暖かかった。私が当たっても許してくれたし、手も握ってくれた。
そんな私に、ユーは教えてくれた。これからは、ずっと一緒にいてくれること。怖いモンスターに打ち勝って、あちこち連れていってくれること。楽しいと思うことをやっていいこと。
ユーの手は温かいし、握ったら握り返してくれる。手だけじゃなくて、体も温かい。そうして握っていると、安心できる気がした。
その後は、いろんなことをした。
たくさん、本を読んだ。ユーと話をする方法がわかった。話ができるようになって、もっと安心できた。
海でも遊んだ。砂で遊んだり、お水で遊んだりした。ユーは、魔法の使い方も教えてくれた。
お風呂でも遊んだ。泡だらけになって、面白かった。人の体は、いろいろな不思議があることもわかった。
そして、今日からは、モンスターに立ち向かう力を育てることになった。
モンスターは怖い。けれど、遠くへ出かけるためには、モンスターをやっつけないといけない。
ユーたちは、モンスターをやっつけて、あっちこっち出かけている。私にも、それができると教えてくれた。
そして、教えてくれるリーネと練習をしている。リーネの剣、早過ぎて見えない。でも、がんばって覚えよう。
「ユーさ~ん、聞こえるかな~?」
ちょうど、海から顔を出していた時にリーネさんの声が聞こえてきた。さっきお昼を食べたはずだが、腹でも壊したのだろうか?
とりあえず、砂浜まで戻って話を聞くことにした。
「外に出る用事でもできたか?もしくは、トイレか?」
「違う違う。ユーさん、私と決闘しようよ?」
「唐突だな。急にどうした?」
「ラフィちゃんが、本気の私を見たいって言うんだ。ユーさんも、だいぶレベル上がったみたいだし、一度全力でどうかな?って思ってさ。」
「ラフィがか?」
「ん。リーネ、見せてくれるって言った。」
リーネさんとの決闘か。
正直、選択した技で勝負が決まる、一種の詰め将棋になるだろう。しかも、俺のフィニッシュパターンは決まっているので、それが引ける行動を彼女が取ってくれなければ詰むのはこっちだ。
先日、溢気法を習得した。リーネさんの能力や戦闘スタイルが以前と変わっていないなら、決着まで行けるかもしれない秘密兵器になる。
だが、敏捷が低い者による短期間の強化バフなんて、リーネさんにとってはカモだ。離れていれば良いのだから。
それならそれで、リーネさんの強さを見せることができるし、俺も知ることができる。強いて言えば、俺が死に戻ったら、召喚モンスターは送還されるので、元に戻すのが大変な所だろうか。
「わかった。場所は、ここか?それとも、ギルドの訓練場に行くか?」
「ここでいいよ。でも、装備はちゃんとしてね。水着ってわけにはいかないでしょ?」
そして、装備をパージして、決闘が始まった。
こちらは、リーネ…
「行くよ!連双突破!」
まずは、前回、ユーを倒した私の必殺4連攻撃で切り込む。
ユーの恐ろしい所は、不意打ちとなる攻撃を無効化する能力だ。しかも、どこから、どんな技が、どの辺りを狙うのかまではっきり示さないといけない。
ということで、正面から宣言して技を打ち込むしかないなら、対策してもどうにもならないほどの大技を打ち込む。それに、「正々堂々」の特性を考えると、少なくとも2撃目以降が通る連撃系の技を使うのが正解だ。
それに対して、ユーがしてきたことは、魔法の壁を張ることだった。土壁、氷壁まで見えた。でも、ユーは魔法使いではないので、壁の強度はたいしたこと無さそうだ。
案の定、壁は簡単に破壊できた。のだけれど、土壁と氷壁は2枚ずつあったせいで、4連撃を受け止められてしまった。しかも、木の壁まで張っていた。
だが、物理攻撃を受け止められる壁はこれでおしまい。私が知る限り、他の属性魔法では、物理攻撃は止められない。つまり、次に取るべきは…
「もう!壁出し過ぎだよ!でも、切り返し、からの三連閃!」
切り返しで2枚の木壁を破壊すると、ユーが見えた。ユーは魔力拳を習得しているため、壁は正面にしか出すことができない。つまり、もう今の彼を守るものは無い。
そして、ここで三連閃。高速の斬撃がユーに届いた。このまま、もう一つの上級双剣技で倒す!
「終わりだよ!胸に向かって連縦横斬!」
しかし、振るった剣は、全てユーに弾き飛ばされた。そして、彼の手が私の体を掴んだ。
「え?」
意味がわからなかった。最初の一撃目は無効化したかもしれないが、三連閃も連縦横斬も連続攻撃なので、2撃目以降は間違いなく認識できる、故に、ユーに届くはずだった。そもそも、私を掴んだ時のタイミングと、連縦横斬が届いたのがほとんど同じタイミングだったはず…
いや、考えるのは後だ。ユーは私の体を掴んでいて、凄い闘気を感じている。つまり、何かの技が来るはず。直感が警報を鳴らす中、ユーの手を振りほどこうとしたのだが…
「修羅拳!」
そんな言葉が聞こえた気がした次の瞬間、私は全身に連打を受けた。そして、その後のことはよくわからないまま、ソルットの広場に立っていた。
5分後… 俺たちはリーネさんを拾って浜辺に戻ってきた。というか、5分で転移ゲートから浜辺まで戻ってきていた。虚弱付いてるのに速いなこの人。
「はい。まいりました。アレ、上級技だよね?ユーさん、いつの間に上級になってたのかな?」
「昨日だな。」
昨日は浜辺で訓練をしたのだが、そこで行なったあるトレーニングによって、俺の技能が上級に至った。
実は、レベル自体は、ホムクの試練洞窟で氷帝を倒した時に届いていた。のだが、足りない条件があったため、進化できずにいた。
上位近接体術:
説明: 拳や足を用いた武術を扱う上級技能。特に、相手に隣接した状態からの戦闘を得意とする。一部の技が変化。
上級気留術:
説明: 気(身体エネルギー)を操作して、自身の回復や強化、防御を行なう上級技能。特に、体内、体表、触れているもの等に気を留めることに優れる。
修羅拳: 捕まえた相手を無数の拳が打ち据える。威力が高く、捕獲からの拳を避けることは適わないが、使用後一定時間、被ダメージが倍化する。
連気拳: 体内の気を拳のように押し出して連撃を放つ。5回攻撃。攻撃が命中する都度威力が増加する。
俺は、幸運にもリーネさんを捕まえることに成功したため、そこで決着を付けるべく、「溢気法」からの「修羅拳」を選択。この技は、掴んでいる相手に必中の連撃を与える効果があるため、捕まえている限り、「超反応」や「縮地」を持つ彼女でも逃げられない。その後、同じ姿勢から繋げられる「連気拳」、さらに「振討」を放った。結果、倒し切ることに成功した。
「必中の拳技だったか~。それと、パンチ力、凄く増してないかな?ユーさんのために、打撃耐性の強い防具を用意したんだよ?」
「掴んだ時、柔らかそうだったのはそれか。それは、 己の武器は体 が生えたからだろうな。」
己の武器は体:
説明: 体術のみを武器として使用し続けたことで、己の肉体が特化を始めた。体術系統技能の効果、及び成長を増幅(中)、それ以外の武器技能の効果、成長が減退(中)。
「己の武器は体」は、「己の武器は○○系統」の体術版技能だ。特質技能の一つであり、戦闘において、対応する武器に関連する適性のみを育てて、上級に至った辺りで生えてくる。なお、今後、他の武器種の適性を獲得すると、この技能は消滅してしまう。
多くの場合、生産職や拳士がこの技能を持っていることが多い。というのは、他の武器を使用していると、補助的に「体術」などを習得するケースが多く、その過程で条件を満たさなくなるからだ。
それと、特定の武器に依存しない技能、例えば、「採集」、「投擲」、魔法各種はこの判定に影響しない。これは、「属性剣」や「魔力拳」、あるいは投げナイフのように、組み合わせが必要な武器技能も存在しているからだ。
「あぁ、拳士定番のヤバいやつ、ついにユーさんも得ちゃったのか~。あと、なんで、私の技が無効化されちゃったのかな?アレが一番意味わからないんだけど。」
「それは、最初に連双突破なんていう激しい技で壁を壊しまくったせいだな。」
「え?いや、壁を壊すのと、不意打ちは違うでしょ?私、技名を宣言して正面から打ち込んだんだよ?」
「リーネさんは叫んだかもしれない。だが、正面でドッカンドッカン壁が壊れていたから、耳をやられたようでな。」
「え?それって、まさか!」
「俺が認識できない攻撃の無効化だからな。俺が聴取できる状態でなければ、それもまた同じということだろう。」
「うわぁぁ~!そうだった~!」
なお、ある種では俺がリーネさんを欺いた形にもなるだろう。だが、俺としては、音を聞くことができない状態で未知の攻撃に晒された形となった。実際、修羅拳の時に認識したリーネさんには、「真理の枷+9」が付いていた。
「うん。私、しばらくユーさんのお手伝いしようかな。」
「なんだ?唐突だな。」
「実は私、サブマスターを退任することにしたんだ。いずれは、この地を離れようと思っているんだよ。」
「退任… まさか、悪いことをしたのがばれたのか?」
「いやいや!してないからね。任期が終わって、後任に引き継いだだけだよ。」
どうやら、俺が過去に感じてきた「リーネさんの性格軽過ぎ?ギルド的に大丈夫?」な数々の事象は、全てセーフらしい。
「そうか。悪かったな。それで、この地を離れるというのは?」
「さっきも感じたことだけれど、もっと強くなるために、各地を回ろう、って思っているんだ。ユーさんにも負けちゃったしね。」
「つまり、私、サブマスターを卒業して、冒険者に戻ります!ってやつか。」
「お、そのフレーズいいね。使おうかな。」
「勝手に使うのはかまわないが、異人に使うと変な誤解される場合もあるから注意な。」
リーネさんのファンがいるのか否かは知らないが、彼女が旅に出るのだとすると、ソルットは寂しくなるのだろうか?
いや、むしろ、違う街で見かける機会が増えるので、喜ぶ人の方が多いかもしれない。この前はトマに出現したし。
「これからラフィちゃんの育成をするために、ユーさんはあちこち回る予定なんでしょ?それなら、いろいろ教えてあげられるし、私にも理があるんだよ。」
「あちこちか。」
「本当は、ユーさんをボッコボコにして、仕方ないからお姉さんが面倒見てあげよう!って言う予定だったんだけどね~。」
どうやら、何が本音かはわからないが、リーネさんは俺と一緒にあちこち回りたいらしい。
だが、方向が同じである分には好都合とも言えるだろう。ラフィを実践で育てる時に助力が得られるのなら助かるからな。
「わかった。だが、長期間一緒にいる場合、ちょっと注意もあるな。俺は異人だから。」
「あぁ。えっと、夜は一緒に寝られないとか、数日間いなくなることがあるとか、そんなんだよね?かまわないよ。」
「その通りだ。だから、ダンジョンなど必要な時以外は、パーティは組まずに行動しよう。そうすれば、お互いに束縛が少なくて済む。それと、夜は、野営中以外は自宅に戻るか、村や街の宿で寝てくれ。」
「ユーさん、そういう所しっかりしてるよね~。問題無いよ。」
「あと、できるなら、冒険者時代の見た目みたいなものにはなれるか?ナザ島のギルドで職員が震えていたみたいだからな。」
「あぁ、アレね。たぶん大丈夫になるはずだよ。そもそも、職員関係者は専用の印を身に着けるルールになっているし、服も変わるのが普通だから。」
ということで、ラフィの育成計画に、師匠(リーネさん)が付くことになった。正直、リーネさんと一緒なら、第6マップを突破できると思う。だが、結局第7マップで足止めされるだろうから、育成を先に回す方が効率的だな。