11-11 S1 いよいよ実践、恐怖を取り払え

改定:

本文

「ユー様、おはようございます。」

「おはよう、ナビー。今日は始まりの草原で狩りをするぞ。とりあえず、リーネさんと合流するから、転移ゲートへ向かう。先導してくれ。」

「了解しました。ソルット 転移ゲートはこっちです。」

今日から、いよいよラフィのモンスター狩りだ。正直、装備が強いし、技能レベルもヤバいくらい育っているので、スムーズに狩りができるんじゃないか?と思っている。

そのまま、ナビーの先導に従い転移ゲートへ向かった。リーネさんとは、そこで待ち合わせしていたからだ。

「お、来たね、ユーさん。」

「あぁ。今日から実践投入だからな。」

「そうだね。ところで、どこから草原に入る?始まりの街は、ちょっと目立ち過ぎるんじゃないかな?って思うんだ。」

「そうか?ラフィは草原で出すから、始まりの街から西に行くイメージだったんだが…」

「ニノンにはまだ行けないんだったよね?」

「そうだな。ちょっと待ってくれるか?良い場所を探す。」

「探す?それなら、私がギルドで聞いてきてもいいよ?」

「あぁ、異人用の手段を使うし、ここからできるはずだから、大丈夫だと思う。」

ということで、ナビーの機能の一つ「アクティブプレイヤーマップ」を使おう。これは、混雑中のマップに転移してもみくちゃになる事故を防ぐためのもので、「どのマップにどれくらいのプレイヤーがいるか?」が確認できるというものだ。

(ナビー。始まりの街と、その四方の村の中で、最もプレイヤーが少ない地域を教えてくれ。なお、農業とお店に従事しているプレイヤーは除いてくれ。)

(アクティブプレイヤーマップからの集計です。該当プレイヤーが尤も少ないのは S2 ミーミの村 です。該当人数は5名です。なお、同様に S1 始まりの草原も該当プレイヤーは少なくなっています。)

「確認できたぞ。ミーミの村が一番少ないらしい。」

「あそこか~。確か、4日ほど前にゴブリンの大量発生が収束したんだったね。良いチョイスだと思うよ。」

「じゃ、ミーミの村へ転移して、北に向かうとしよう。」

「S1 始まりの草原 に入りました。」

ということで、久しぶりの「始まりの草原 南部エリア」だ。俺の記憶がおかしくなければ、この世界で最初に開拓したのがここだった。魔法の習得でもお世話になったな。

「主人。この地には、懐かしさがあるぞ。だが、我が戦っていた所ではないな。」

「ん、ここは?」

「ここは、始まりの草原の南部だ。ブレイオが最初に戦っていた場所は北部だから、街を挟んで反対側ということになるな。」

「それで、このなつかしさか。ム… ゴブリンか?」

「だな。この辺りは、ゴブリンがよく出るぞ。あとはブレイオは見たことのあるヤツらだろう。」

「あの鳥もいたか。主人よ。我も少し狩りたい。」

「かまわないぞ。ただ、ラフィの分は残しておいてくれ。」

初期のブレイオは、「ぷよどり」に倒されている。その後は避けていたので、その時のことを思い出しているのだろう。まぁ、肝心のぷよどりは俺が倒したから、もはや八つ当たりなんだけどな。

「ラフィは、今日からモンスターとの実践だ。俺たちも一緒だから恐れずに挑んでくれ。」

「ん。やる。でも、少し怖い。」

「そうか。深呼吸… はできなかったな。鎮静の歌を自分に向けて歌ってみるといいぞ。」

「え?」

「海で歌っていて、気持ち良くならなかったか?お前の歌には、そういう力があるからな。」

「ん。やってみる。」

「歌唱」は、魔力を歌という媒体に乗せて飛ばすものなので、自分にかけることも可能だ。ただし、精神系の異常を負った状態では歌唱自体がうまくいかないことが多い。故に、本来「精神異常の回復促進」効果のある「鎮静の歌」を自分にかけるシチュエーションは無いだろう。

「どうだ?落ち着いたか?」

「ん。歌、気持ちい。知らなかった。」

「ユーさん、本当に不思議な発想するよね~。それ、自分にかけるシーン無いじゃん。」

「本来はそうだな。だが、ちゃんと意味はあったんだ。良いじゃないか。」

「まぁ、そうだね。それじゃ、ラフィちゃん。一緒に行くよ~。」

「ん。がんばる。」

ラフィとリーネさんを送り出した。リーネさんなら、索敵もばっちりだしうまくやるだろう。というより、俺はモンスターを探してやれないから、当初の予定ではブレイオに任せる予定だったんだけどな。

一方、こちらはリーネ…

「モンスター発見。ゴブリンだね。ラフィちゃん、行ける?」

「ん。どうすればいい?」

「そうだね。まずは私がやるから見ていてよ。」

「ん。見てる。」

私は、この日のために用意していた専用の武器を取り出した。これは「手加減の剣」。その効果は、「この剣による攻撃で、相手のHPが10%以下にならない」というものだ。なお、剣自体の攻撃力は、「銀の剣」程度ある。

まずは飛剣を放ち、ゴブリンの注意を引き付ける。まぁ、今の一撃でゴブリンは吹っ飛んで瀕死になっちゃったんだけどね。

でも、ちゃんと起き上がって、こっちに向かってきた。ゴブリンは、私に向かって棍棒を振り下ろしてきたので、それを剣で弾き返す。ゴブリンのバランスが崩れたので、切り込んで再び弾き飛ばす。もちろん、ゴブリンは吹っ飛んだけど生きている。

「こんな感じに、武器を弾いたり、切り込んだりするんだよ。わかったかな?」

「ん。リーネ、強い。」

「ラフィちゃんもこれくらい強くなれるといいね。おっと、倒しちゃうね。」

話をしていたらゴブリンが突っ込んできたので、もう一本の剣で軽く凪ぐ。こっちは「聖銀の剣」なので、簡単にゴブリンは真っ二つになって消滅した。

「わ!真っ二つ!すごい。あ、切ったモンスター、消えちゃった。」

「やっつけたモンスターは消えちゃうんだよ。でも、時間が経つと、またどこからか出てくるんだ。だから、モンスターはいなくならないんだよね~。」

「モンスター、いなくならない?不思議。」

「そう。でも、悪いことだけじゃないんだよ。モンスターを倒すと、私たちは強くなれるんだ。それに、モンスターはお肉や野菜にもなるし、ラフィちゃんが着ている服や靴にもなるんだよ。」

「え?これ、モンスターの服?」

「そうだよ。私が着ているのもそう。ユーさんたちは、ラフィちゃんのために、強いモンスターと戦ったんだよ。」

正直、鑑定した時に、びっくりした。「霊布」もすごいが「精霊銀」なんてとんでもない希少素材まで含まれていたからだ。ユーさんのことだから、上位精霊とお友達にでもなったのだろう。

あとで聞いたら、レベル70オーバーのボスモンスターの素材を使った、とのことだ。それはそれでおかしいけれど、協力者が、先日同伴していたルーウェンという聖騎士だったので納得はできた。彼を鑑定させてもらったのだけれど、私がソルットで鑑定してきた中で最強だった旅人が全く歯が立たないくらい強かったのだから。

「お、次のゴブリンが来ているよ。ラフィちゃん、やってみよう!」

「ん。」

そして、戦闘開始… したのだけれど、やっぱり武器が強いから何も問題無かった。「飛剣」でHP40%も吹き飛んでいたので、その後の斬撃であっさり倒していた。

とりあえず、初めての戦闘だから、フォローしてあげないと。

「どうかな?モンスターを切った感覚は?」

「わからない。怖いのとは、違う。」

「それは、冒険を始める者がみんな経験することだよ。でも、怖くないなんて、ラフィちゃん、強いね。」

「強いの?」

「そう。武器をちゃんと握れているからね。一番多いのは、手に力が入らなくて、武器を落っことして、慌てて拾うんだよ。」

他にも、息切れして倒れる人なんかもいたし、もっとひどいのも見たことがある。それらに比べたら、彼女は強いと思う。

「剣、とても大事なもの。ユーが、くれた。」

「そっか。その剣に負けないように、ラフィちゃんもがんばらないとね。」

「ん。それに、何か、集まってきた。元気出た。」

「よし。じゃ、今度はあっち行こう。」

「氷銀の剣」は、ホムクの試練洞窟に潜んでいた、雷霊鬼と同じようなクラスの敵を倒して手に入れたものらしい。私は戦ったことは無いけれど、その剣はかなり良い剣であることは確かだ。私が欲しいくらいである。

その後も、ラフィの戦いは順調だった。ぷよどりやビッグアントも含め、問題無く倒すことができていた。夕方には、ゴブリンライダーを一人で倒してもいた。

夜は、ヒッツの村にやってきた。今回は、久しぶりにこっちの温泉だ。

やはりリーネさんからパーティ湯の希望が出たので、一緒に入ることになった。まぁ、ソルットでやっているから今更だろう。

今回、ヒッツの温泉を選んだのには、一つ理由がある。それは、植物に対するラフィの反応を確認することだ。そこで、木に囲まれた露天風呂のあるここをチョイスした。

リーネさんが忘れていただけかもしれないが、ラフィは、「始まりの草原」で、全く採集をしていなかった。もしかしたら、草でさえ、採集することに抵抗があるのかもしれない。

「ユー。これ、大きな木。」

「そうだ。この村は森に囲まれているんだ。だから、周りには木がいっぱいあるぞ。」

「木、ちょっと怖い。」

「怖いか。だが、この木は襲ってこないぞ。一緒に触ってみるか?」

「ん。ユーと一緒なら。触ってみる。」

やはり、恐怖というのはあったようだ。真理のテキストから考えると、「憎悪」なのかもしれないが、どちらにしても、解してやるべきだろう。

「ん。木、温かい。」

「そうか。まぁこの温泉の中にある木だからかもしれないけどな。」

「違う。木が、生きてる。何か流れてる。でも、怖いものじゃない。」

「なるほどな。木が温かいのは、実際に生きているし、自然の力を体の中で循環させているからだな。」

俺は、纏緑を手に纏わせてみた。

「ん?ユー。その、緑の手は?」

「これも、自然の力だな。」

「本当。木に流れているのと同じ。」

「そうだ。草原の草も、似たような感じだったはずだ。」

「草?ちゃんと見ていなかった。」

「そうか。じゃ、明日は、今日行った草原で草を集めたり、草で遊んだりしてみるか。」

「今日の場所?なら、怖くない。」

結果として、ラフィはヒッツの木に対して、わりとあっさり受け入れることができていた。

なお、薬草の採集については、「リーネさんが忘れていた」で合っているようだ。まぁ一気にあれもこれもというのは難しいからな。急いでいるわけではないのだから、明日やれば良いだろう。