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翌日は、始まりの草原の北部エリアで採集体験をしながら、引き続き実践訓練を行なった。
ラフィには、おくたんが昔使っていた鉄の採集具セットを与えて、草刈りや薬草の採集、発掘ポイントでの発掘をしてもらった。おくたんに持たせていた物は、持ち手が短いものが多かったので、ラフィでも持ちやすかったようだ。
その中で分かったことがいくつかあった。
- ラフィ自身にも採集ポイントが見え、採集できる物か否かも判断できる
- 草類を採取する時や伐採する時に、「樹木殺し」の効果が働き、必要な力が少なくなる。たぶん、伐採斧で木を伐採する時が顕著と思われる。
- 入手した草、木材の品質が低い。まだラフィの能力値が低いこともあるが、 品質1 しか出なかった。発掘で 品質3 が出ていたので、「樹木殺し」の影響かもしれない。
- 雑草を対象に氷歌で攻撃すると、草原の雑草が消滅した。雑草刈りの救世主?になるかもしれないが、経験値的には微妙。
- おくたんと草をバッサバッサしたり、採集した草をニギニギして遊んだりした結果、草に対する拒否感の類は感じなくなったとのこと。
「ねぇねぇ。その草の山は何かな?」
「おくたんが採取し続けて貯まった草類だな。最近、ギルドに行ってなかった間に山になってしまったようだ。」
「ふ~ん。それで、どうするのかな?私、こんな感じの山をトマの塔で見た覚えがあるんだよ。」
「これは投げないぞ。ラフィがこれを見た時に、どういう反応をするかな?と思っている。」
「あぁ、うん。草に慣らす感じか~。」
ということで、ラフィがおくたんを追いかけたり、モンスターを狩ったりしている間に、草の山を作ってみた。その結果は…
「ん?草の山?でも、モンスターじゃない?」
「そうだな。草の山だ。」
「草、いっぱい。柔らかい…」
草の山で遊び始めたラフィであった。しかし、ここでアクシデントが…
「わ、草が!」
「おっと。雪崩になったか。ラフィ、大丈夫か?」
「大丈夫。草のお風呂。柔らかい。」
「そうか。すっかり、草に慣れたみたいだな。」
「ん。」
薬草の雪崩事故でさえ、遊びの延長になったようだ。なお、「草の心」という技能はあるのだが、これは植物系種族の限定技能であるため、俺たちが取得することはできない。しかも、取得してもほとんどメリットが無いから、ダンジョンで出ても取得はしないだろう。
午後は、キトル村で雑草刈りや、薬草の仕分けクエストを行なった。
「ラフィ。この畑にある雑草を全部刈るぞ。」
「大きな草、いっぱい。」
「だな。草刈り鎌で切るか、引き抜くか、氷歌で枯らしてくれ。あと、歌う時は、目の前の雑草だけを意識な。」
「ん。歌う。」
どうやら、この畑から雑草は死滅するようだ。歌唱だと、土に浅く埋まっているだけでは逃れられないからな。
「ちょっと待って。歌で雑草を枯らすのは、ダメなんじゃないかな?」
「刈った雑草を納品しないといけないならダメだな。だが、今回は要らないようだから、焼いても消し飛ばしてもOKだろう。」
「そ そりゃ、納品しなくていいって聞いたよ。でもね、歌で枯れた雑草って、あ、うわぁ~!」
どうやら、氷歌が効果を及ぼし始めたようだ。俺が触っていた雑草も、地面に引っ込んでいった。
「主人。雑草が光に消えていくぞ!」
「ねぇ?これ、土に返っていくみたいに見えるんだけど、これじゃ、すぐに復活しちゃうんじゃないかな?」
「雑草のあった所を掘ってみるといいぞ。もし、土に返っただけなら、土が膨らむだろう?」
「言われてみると、土が膨らんでないね。ちょっと掘ってみて… うん。雑草があった気配すらない。」
「雑草にもHPはあるからな。その辺はモンスターと同じということだ。」
うん。ある意味では、ラフィが、秘められた力を振るって畑の雑草を滅ぼしたのか。まぁ、そういう依頼だし、俺たちもバッサバッサと切り刻むだろうから、気にするべきことでは無いな。
「そういうことか~。言われると納得できるけれど、これ、村中で歌い手が増えそうだよ~。」
「豊穣なんかの祭事でしか活躍できない人には新しいお仕事になるかもな。ただし、コレは属性歌による戦闘技能だから、誰でもできることではないぞ。」
「あぁ、なるほど。その点では、ギルドへの依頼としては残りそうだね。」
「リーネさんとしては、どっちが良いとかあるのか?」
「冒険者やギルドとしては、ギルドから常時依頼が消えるのは一大事だね。でも、それが雑用系の依頼となると、人員を効率的に回せるようになるし、街や村がより盤石になるとも言えるんだ。」
「つまり、村としてはうれしいけれど、ギルドの一部の人は嫌がるかも?といった所か。雑草刈りは人気が無いと聞いているから、実害は無いかもしれないか。それと、旅をしている俺には、どうでも良いことだな。」
「あぁ、うん。冒険者になったもんね。雑草刈りができなくても私たちは困らない… その通りか。」
続いては薬草の仕分けだ。草の山で遊んだラフィに問題があるわけは無いと思うが、せっかくなので観察させてみた。
「薬草、違うの、ある」
「そうだな。えっと、これと… これがいいか。ラフィ。違いはわかるか?」
「ん?わからない。」
「そうか。こっちは品質が低いから、ちょっと小さかったり、葉っぱが痛んでいたりするんだ。」
「わかる。でも、どっちも薬草?」
「そうだ。だが、品質が違うと、効能も変わるんだ。だから、こうして、薬草を整理することが必要だ。」
幸い、「樹木殺し」の品質低下は、採取や伐採時に起こるようだ。握った薬草までどうにかなることは無かった。まぁ、ラフィが、敵意を持てばその限りではないだろうけれど。
とはいえ、ラフィは、まだ薬草の違いを判断できるほど識別能力が育っていない。「観察」は生えたので、ブレイオと同様、当分は観察に従事してもらうとしよう。
「ところで主人。リーネ殿はどうした?」
「別の依頼をしているぞ。このギルドの職員を鍛えると言っていたな。」
「鍛えるか。武術の修行か?」
「わからないが、たぶん武術じゃないと思うぞ。訓練場に行くとは言っていなかったし、外に出るとも言っていないからな。」
この場に、リーネさんはいない。ギルドで仕分け依頼の手続きを待っていたら、彼女の元サブマスターとしての血が騒いだらしい。「ユーさん、私、ちょっと、職員を鍛えてくるよ」と言って離れていった。
なお、リーネさんには現在「冒険者ギルド職員OB」と「冒険者ギルドサブマスターOB」という称号があるらしい。職員を卒業したことでシステム的に変更されたようだ。まとめウィキの情報だと、「一般業務なら職員を独断で指導でき、特殊な業務でも助言ができる」とのこと。
「お、ユーさん発見。ここで夕食なんだね。」
「この村で冒険者が飯を食える所はここだけだからな。それに、俺は宿に入る必要が無い。」
そのまま夕方になったので、キトル村のギルドで夕食を取ることにした。
今回は、パン3種類と、茸と兎肉と野菜のソテーだ。
「そうだったね。それにしても、パンが多いのは、ラフィちゃんのためかな?」
「ブレイオとラフィの好物探しも旅の目的だからな。」
「あぁ、なるほど。」
「パン、甘さ、違う。形も、違う。」
「いろいろなパンがあるからな。旅には、こういう楽しみもあるぞ。」
「ん。旅、楽しい。」
今の所、ラフィは甘くて柔らかい物、ブレイオは甘酸っぱい物やお肉が好みであるようだ。今度、餃子饅に「パンケーキ」と「レモンと香草の味付け焼き肉」辺りを作ってもらおうか…
「ところで、ユーさん。明日は、キトル山に向かうのかな?」
「そうだな。明日だが、キースノーズ雪原で雪遊びを考えている。」
「え?また急に、なんで?」
「もうすぐ進化だからな。その前に、一度、雪遊びも体験させたいと思っている。」
ラフィは、現在 レベル8 だ。まとめウィキ通りなら、 レベル10 で最初の進化があり、どのルートを選んでも、それなりに身体が成長するようだ。
なので、その前に雪遊びの体験をさせておきたい、と思った。技能が生えるようなことは無いと思うが、進化先の選択肢が増えるかもしれない。彼女は氷属性が強いからな。
「あぁ、なるほどね。でも、モンスターはどうするのかな?まんがいち襲われたら、ラフィちゃんじゃ耐えられないと思うよ?」
「ホムクで聞いたことだが、雪原には子供が遊ぶためのスペースがあるそうだ。あまり広くはないが、モンスターも入って来られないので、安全らしい。」
「ふ~ん。それなら、ラフィちゃんのために、お姉さんも護衛してあげよう。ユーさんは場所を知っているみたいだけど、道を間違えて遭難しちゃうと大変だからね。」
「遭難しても、死に戻るだけだけどな。ちなみに雪遊びだから、寒さ対策と食料持ち込みは必須だぞ。」
「あぁ、うん。寒さはそうだね。食料は、なんでだっけ?」
「防具で前進モコモコになるのでない限り、倍の速さで腹が減るからだな。そして、モコモコにしたら雪遊びしずらいだろう?」
「雪遊びって、言葉通りなんだね。用意しておくよ。」
なお、この世界では、ホムクの図書室に入ってさえいれば、プレイヤーが雪原で遭難することは無い。だって、ナビーに雪原の地図が入っているので、案内に従って歩けば帰って来られるからだ。
そうだ。アヤも誘ってみよう。雪遊びには興味があるようだし、ラフィにも合わせておいた方が良さそうだ。