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「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日は、キトル山南部にあるダンジョンを覗いてみるぞ。もし、お目当てのダンジョンが無かったら、迷いの森へ行くとしよう。いつも通り、先導を頼むな。」
「了解しました。ノンノリアの南出口から N2 キトル山へ向かいます。こっちです。」
昨日、ノンノリアに到着したので、食料などを補充した。そして、ラフィは レベル12 まで上昇した。
今日は、 N2 のダンジョンが未踏破だったので、良いものがあれば踏破をしてみよう、と考えている。とはいえ、優先度が高いものでもないので、良いダンジョンが無いなら、「迷いの森」でレベル上げを予定している。昨日、俺とブレイオに「山の心」が生えたからだ。
山の心:
説明: 山に親しんだことで授かった祝福の一種。身体以上耐性上昇(微)、体力上昇(微)、防御上昇(微)
本当は、始まりの街から西側のマップの開拓を進めたい、と考えていた。だが、本日から公式イベントとやらが始まったため、現在の始まりの街は混雑が激しいようなのだ。
イベント名は、「新たな始まりを告げる塔の謎」。「突如出現した塔の中を調査し、原因を解決せよ」というものだ。
塔の中は、ダンジョンのような特殊空間となっており、小さな街や森などがあるそうだ。中に入ったプレイヤーは200人くらいのグループに振り分けられ、そこで探索や生産などの活動をしてポイントを稼ぐらしい。
そんな状態なので、現在、始まりの街は混雑していることだろう。イベントでもらえるポイントは魅力的かもしれないが、「楽しそう」よりも「面倒そう」というのが個人的な意見なのだ。
とりあえず、イベントはゲーム内で12日間、リアル3日間ほど続くのと、途中の入退場も可能だそうだ。なので、検証班からの情報を待つとしよう。その結果、俺たちの育成において重要な何かが得られるなら、狙ってみよう、と考えている。
なお、それとは別に、このイベント期間中にログインすると、特典がもらえるようだ。「イベントコイン」というアイテムを5枚獲得した、という通知があった。公式からの通知によって、現在、以下の4点がわかっている。
- 奪われたり死に戻りで失ったりしない。売却も譲渡もできない。
- リアル一日につき1回もらえる。
- イベント後に景品と交換できる。
- イベント会場で何かをすると、もっともらえるかも?
「N2 キトル山 に入りました。」
「ユーさん、踏破できるダンジョンがあるか探すんだよね?」
「そうだ。ダンジョン発見機を使うぞ。」
リーネさんと合流し、ノンノリアからキトル山に入った。なので、さっそくダンジョン発見機を使用する。
「お、青色の光が出ているね。階層型ダンジョンだったっけ?」
「そのはずだな。では、近くへ行ってみよう。」
「ランダムダンジョンの前に到着しました。入口の壁はこっちです。」
2時間ほど進むと、目的のダンジョンの前に到着した。では、入口に触れてみよう。
粘体の宮殿:
種別: ランダムダンジョン
階層数: 7
残り時間: 37:22:13
「粘体の宮殿か。」
「宮殿」系統のダンジョンは、通路といくつかの小部屋で構成された宝探しタイプのダンジョンだ。特定の小部屋にある宝箱から鍵を入手した上で、通路の最奥にある扉を開錠しなければならない。当然、階層ごとに、鍵付き扉と宝箱が登場する。
そういう性質のダンジョンなので、宝箱と罠の数が多いことでも知られている。そして、ほとんどの罠は、宝箱を開けた時に作動する。
「ユーさん、どうする?挑むかな?」
「そうだな。せっかくだし挑んでみるか。」
「ダンジョン 粘体の宮殿 に入りました。現在1層です。」
「うわぁ~!わかってたけど、スライムいっぱい!」
「まぁそうだろうな。とはいえ、狩りながら進むしかないか。スライムは動きが遅いから、釣り出すにしても手間がかかるだろう。」
「残念ながらそうだよね~。でも、一度ラフィちゃんに歌ってもらう方が早いとは思うよ。」
「隅々まで狩るならそうだな。ラフィ、奪熱の歌でスライムたちを攻撃だ。できるか?」
「ん。スライム、倒す。」
「ブレイオは殲滅を頼む。」
「心得た。沼地以来のスライム狩りか。」
その後、スライムの殲滅が始まった。
ブレイオとは、以前キトル山を登っていた時に、「粘体の沼地」でスライム狩りをした。あの時は、ブレイオも「雷の若鬼霊」だったので、火力が足りなかったな。今なら、むしろオーバーキルになりそうだ。
「ユー。安全な箱見つけた。」
「主人。こっちは罠だ。」
「あぁ、これも大丈夫なやつか。こうして見ると、宮殿はお宝が多いんだね~。」
スライム殲滅の後は、小部屋探しだ。ただし、事前に「真理の守り」で「偽装看破」を付けてみた。
その結果、ブレイオとリーネさんは、罠のある宝箱が鑑定で判別できるようになったそうだ。またラフィの場合は、宝箱に触れると、安全な宝箱かどうかがわかるようになったそうだ。
トマの塔での状況から予想はしていたが、やはり「真理」が、量産型宝箱トラップを許すことは無かった。小部屋の扉を触鑑定したら、こんなことになっていた。
惑わしの小部屋の扉:
種別: オブジェクト
説明: ダンジョン「粘体の宮殿」内に存在する小部屋の一つに通じている扉。この扉の先は、正しい鍵が奉納された部屋に類似しているが、それは旅人を惑わすためのものである。
そんな偽装工作に溢れた宮殿であったため、俺たちは、鍵とお宝をどんどん回収しながら進んで行くことができた。まぁ、入手したお宝は、第2マップのダンジョンらしく、微妙なものばかりだったけれど、売りさばいたら軽く6桁を超えそうだ。
なお、ラフィには、宝箱を見つけたら誰かに知らせるように指示している。これは、宝箱自体が安全でも、そこから出てくるアイテムが安全とは限らない、つまり、呪われていることがあるからだ。
ブレイオとリーネさんは「鑑定」技能を持っているので、アイテムが呪われているかどうかを安全に知ることが可能だ。しかし、ラフィは、まだそれができない。まぁ、「観察」は現在育成中なので、その内「鑑定」に進化するだろう。
結局、探索開始から半日も経たずに、最下層まで到着した。スライムも500匹くらい殲滅したので、素材もたっぷりだ。そんな俺たちの前に現れたのは…
「あぁ、スライムキングと取り巻きたちだね。レベル9だけど。」
「スライムで宮殿だもんな。」
リーネさんいわく「スライムキング」とのこと。それなら、俺もまとめウィキで読んだので知っている。
「キング」と名の付くモンスターの多くは、自身より格の低い同種の仲間モンスターの能力値を、常時2割増しくらいに強化する技能「王の権能」を持っている。また、一定時間、さらに能力値を4割増しにする技「王の鼓舞」も持っている。この2つを組み合わせると、能力が通常時の75%増しくらいになるため、適正レベルのプレイヤーが遭遇したら詰んでしまうそうだ。
これが、第5マップのダンジョンなら、俺たちでも危険だっただろう。しかし、ここは第2マップのため、権能をフル活用しても、俺が「港町に続く野道」で狩っていたグリーンスライムと同程度にしかならない。よって、「ゴロゴロゴロ、ドッカーン!」という広雷の音がして…
「ダンジョンボス スライムキング の討伐に成功しました。」
「ダンジョン 粘体の宮殿 の攻略に成功しました。報酬を選択して下さい。」
という通知が聞こえてきたのだった。一応、キングは広雷を耐えていたらしいけれど、俺が近づく前に終わったので、どう処理されたのかは知らない。
報酬だが、「魔法(治療)の技能書」、「スライムベッド」、「スライムリング」、「王冠」が出た。
一方、リーネさんに出たものは、「ゴーレムコア」、「スライムリング」、「王冠」、「魔法(水)の技能書」だった。
「魔法(治療)」は、まだ俺が持っていなかった回復魔法系の技能だ。病院や教会でしかるべき手順を踏めば習得でき、武僧の職業補正も受けられる。なのだが、俺のプレイスタイルだと、他者を回復するって難しいんだよな。自己回復なら気留術で足りているし。
「スライムベッド」は、スライム素材でできた低反発ベッドだ。家具としては寝心地が良く人気であるらしい。ただ、野営か宿屋かログアウトがメインな俺には、トランポリンにするしか使い道が無いだろうし、そもそもコレ、錬金で作れるんだよな。
「スライムリング」は、装備することで打撃への耐性が上昇する指輪だ。効果は悪くないが、これも彫金系の生産職に作ってもらうことができる。
最後の「王冠」は、換金アイテムとして知られているものだ。「キング」と名の付くモンスターがたまにドロップする。1個100,000pくらいで売れる。
「うん。どれも微妙だね。強いて言えば王冠は入手するのが難しいけれど、ダンジョンで換金アイテムって味気ないと思うんだ。」
「そうだな。そもそも、換金できそうなアイテムなら道中で大量に拾っているぞ。」
「宝箱、あんなに開けたらね~。」
「うん、そうだな。リーネさん、治療魔法かベッドは使うか?使うなら、ゴーレムコアをもらって交換して欲しい。」
「おや?何か考えがあるのかな?」
「アヤさんに、警備用ゴーレムとして提供するか、もしくは俺自身が回復特化ゴーレムに使えればと思ってな。」
「あぁ、なるほど。確かに彼女、隙だらけだもんね~。それはわかるよ。でも、ユーさんに回復なんて必要なのかな?」
「正確には、ブレイオやラフィの回復担当だな。」
「あぁ、うん。今は装備やレベルで戦えているけれど、モンスターが強くなったら厳しいのか。」
「それで話を戻すんだが、リーネさんは協力してもらえるか?」
「いいよ。それじゃ、ベッドにしちゃおうかな。回復魔法は、あっても使えないと思うんだよね。」
ということで、俺はゴーレムコアを手に入れたのだった。