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「あ、ユーさん!」
「ん?あぁ、アヤさんか。」
粘体の宮殿を探索した翌日、俺はトマにてアヤと再会した。ゴーレムコアの件についてチャットを送った所、交渉してくれることになった形だ。
その後、俺たちは図書室へ移動した。トマだと、図書室がわりと静かで話しやすいし、それなりに情報も探せる場所だからだ。
なお、ここにはリーネさんは来ていない。また、ギルド職員の教育に目覚めてしまったらしい。
「用件は、このゴーレムコアの扱いについてだな。先日、ダンジョンで見つけたものだ。」
「うん。チャット見たよ。でも、いいの?ユーさん要らないの?」
「使い道が無いではないぞ。ただ、アヤさんの方が有効活用してくれるかな?と思っている。」
「う~ん、そうだね~。私も、ルーカスさんのスパイクなんかを見て、あんな感じで守ってくれる仲間が欲しいって思ったんだ。モンスター、いっぱい来ちゃうし。」
「確か、今は6層だったな。」
「そう。でも、困ってるんだよ。霧がひどくて、前がよく見えないんだ。魔法もうまく飛ばせないんだよ。」
「あぁ、視界か。」
トマの塔6層は、本来は濃い霧に包まれたエリアで、視界を物理的に阻害される。そうなると、彼女が操るゴーレム「マジカルエングレイバー」も満足に扱えないことになる。
「それで、ゴーレムコアのお礼なんだけど、できれば、一緒に塔の頂上まで登ってもらえないかな?ボスを倒したら報酬が出るんだよね?それと交換なら、つり合うと思うんだ。」
「なるほど。だが、第4マップの報酬だぞ。良いのか?」
「いいよ。でも、その代わりに、また、どんなゴーレムにしたら良いか考えるの手伝って欲しいんだ。」
どうやら、塔の攻略報酬と交換してもらえるようだ。ゴーレムコアが第4マップダンジョンの報酬になるなら、悪くはないだろう。もし、微妙なものしか出なかったら、またアクセサリーの強化でもしてもらおう。
その後は、作成するゴーレムの性能について話し合った。結果、以下のレシピとなった。
形状: 人型
職業: 騎士
ベース:
体力: 12
魔力: 6
筋力: 13
防御: 13
精神: 1
知性: 12
敏捷: 12
器用: 11
技能:
魔道人形: 魔道生物としての特性の一つ。呼吸、食事、飲用、睡眠不可。身体系、精神系状態異常無効。MPを動力源として使用し、MPが切れると行動不能。
魔道吸収: 空気中の魔力を吸収してMPを自動回復。ただし、魔法攻撃の出力が低下。
警戒突撃: 行動特性の一つ。指示に従って範囲内を警戒し、接近する敵がいれば突撃し撃退する。
槍術: 槍を用いた戦闘の適性。
盾術: 盾を用いた戦闘の適性。
危険感知: 接近する危機をいち早く知る技術
疾走: 素早く走る技術
跳躍: 高く飛び上がる技術
安定移動: 不安定な場所でも安定して歩く技術。
反応強化: 戦闘行動における判断、及び行動までのタイムラグを短縮。
突撃強化: 対象に突進する時の威力、及び、吹き飛ばし性能を強化。
結論としては、ルーカスの突撃支援ゴーレム「スパイク」を、よりマイルドにした性能だ。話によると、ネックだったのはモンスターの数と処理速度のようだったし、そもそも彼女が使える印術がまだ補助寄りだ。
なので、支援や補助はアヤに任せて、ゴーレムには警戒と前衛を任せる、ということになった。基本的にはアヤの傍で控えさせておいて、危険感知が反応すれば勝手に突撃… アヤがそれに気づいて支援… といったプランだな。やることがわかりやすいと、アヤとしても楽だろう。
なお、実際に依頼した所、キャパに余裕があったので、「水泳」も取らせた。これなら、水中でも戦ってくれるようになるだろう。
そうして、作成&装備を整えたゴーレムは以下の通りだ。
ゴーレム ルナー:
形状: 人型
職業: 騎士
レベル: 30
体力: 52
魔力: 24
筋力: 56
防御: 52
精神: 4
知性: 48
敏捷: 64
器用: 52
技能:
適性: 槍術18, 盾術18
技術: 安定移動18, 疾走18, 跳躍18, 危険感知18, 水泳18
支援: 反応強化, 突撃強化
特質: 魔道人形, 魔道吸収, 警戒突撃
メモリー:
FIG1, STR1, AGI1, AGI1, AGI1, AGI1, DEX1, DEX1
装備:
聖銀の槍, 聖銀の盾, 聖銀の鎧, 銀編の革兜, 銀の具足, 銀編の革小手
「凄い凄い!とても強そうだよ!でも、お金なくなっちゃった。」
「モンスターに突撃していくからな。装備が弱いとすぐに大破するぞ。」
「わかってるよ~。それに、ゴーストも攻撃できるんだよね?」
「聖銀の特殊効果だな。魔法防御もけっこうあるから、当面はこれで狩りができると思うぞ。」
とりあえず、アヤの印術による強化を組み合わせれば、十分な戦力になるだろう。
「よし。それでは、今が昼だから、飯を食ったら試運転も兼ねて、トマの塔へ登るとしよう。」
「うん。よろしくね!」
「ほ~い、そこの二人、ちょっと待ってね~。お姉さんも連れて行ってよ?」
「えぇと、いいのか?頂上まで行くと思うから、長くなるぞ。それと、試運転を兼ねているから、狩り過ぎ厳禁な。」
「あぁ、大丈夫大丈夫。」
いつの間にかリーネさんのお仕事も終わっていたようだ。まぁ、狩り要因が増える分には困らないだろう。
なお、今回、ラフィの召喚はなしにしようと思う。彼女には悪いが、トマの塔は適正レベルに見合っていないからだ。
「ダンジョン トマの塔 に入りました。現在1層です。」
「うん。フリーン、ルナー召喚!」
さっそく、アヤはゴーレムを召喚した。なお、今回の名づけに伴い、これまで「マジカルエングレイバー」と呼んでいた彫刻刀ゴーレムに、「フリーン」と名付けたようだ。
ただ、フリーンに関しては、召喚する時にしかその名を呼ばない。基本的に精神と同調してアヤの手足のように動くので、呼ばないし指示もしない。まぁ、そういう放置が効くのがゴーレムの利点でもある。
「おぉ、ルナーのデザインが秀逸だね。これ、アヤさんが考えたのかな?」
「うん。スケッチ通りに作ってもらったんだ。それで、どう指示すればいいかな?」
「基本は同伴させて放置で良いぞ。モンスターが近づいてくれば、勝手に突撃していくはずだ。」
「わかった。じゃ、さっそく行ってみよう。」
その後俺たちは、ゴーレムの試運転をしながら塔を進んでいった。
「チューッ!」
「え?上からだったの?すご~い!」
「なるほどね。上からの襲撃にも危険感知と跳躍でたたき落とせるように、小盾にしたんだね。」
どうやら、天井から忍び寄るライドマウスを、ルナーがたたき落としたようだ。跳躍も持たせているわけだが、なかなかアクロバティックなゴーレムだと思う。
そんなことを考えていたら、遠くから重量感のある足音が聞こえてきた。俺も聞いたことのある、それは野生のゴーレムの足音だ。
「えぇと、ルナーってゴーレム行けるかな?」
「ん?盾で殴れば行けると思うぞ。不安なら魔法で支援な。」
「え?うん、わかった。ルナー、盾突撃!」
アヤは、さすがに巨体であるゴーレムを想像して不安になったらしい。ただ、実際にはその不安は杞憂で終わった。
彼女が指示をした少し後、遠くの方で「ドーン」という金属がぶつかる音がして、「バッターン」と何かが倒れた。そして…
「あ、本当だ!ルナー凄い!」
「凄いけど、まだ倒してないよ?」
「あ、本当だ。えっと、ウィンドピラー!」
どうやら、ルナーの盾突撃の威力が強かったため、ゴーレムがひっくり返ったようだ。まぁ、それができるように、強い装備を与えているわけだしな。
その後も、試運転は順調に進んでいった。のだが、俺は一つ大事なことを忘れていた。
「トマの塔 3層に入りました。」
「条件を満たしたため、フィールドが変化します。」
「あ…」