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「アレ?霧がなくなってる?」
「そういえば俺が入るとこうなるんだったな。」
「えっ?何何!雲が集まってきてる!」
「あぁ、それ、たぶん隠しボスな。俺が入ると出てきてしまうらしい。」
「へぇ~?そんなことあるんだ~。」
俺が3層や6層に入ると、霧空間が消えてしまうことを忘れていた。そして、雷霊鬼は登場しているようだ。
「とりあえずアヤさん。アイツ倒そうか。」
「わぁ、ブレイオちゃんに似ているけれど違うヤツだ。」
「ん?」
「あぁ、ユーさん。彼女、スケッチ中みたいだよ。」
そして、こんな状況でもぶれない彼女だった。仕方ないので、こっちで対処しよう。
「行くよ!ソイルシュート!ストーンピラー!」
「捕まえたぞ!纏光 掌波!」
「ギャオァオォォォ!」
3分ほど、てきとうに攻撃していたら、スケッチも終わったらしいアヤも参戦してきて戦闘開始…
ただ、通算4度目の戦闘ということもあり、問題なく討伐。むしろ、前回がレベル70オーバーとのイレギュラーな戦闘だったので、ただの「滝落」で 10% もダメージが入って驚いた。
なお、アヤが得た報酬は、「雷隕石」と「雷鬼角の槍」だった。
槍は初めてのドロップで、雷属性とマヒの効果を持っており、攻撃力も第6マップで通じる性能だった。ただし、雷属性は、モンスターへの通りがあまり安定しない。よって、ルナーの装備は当面「聖銀の槍」で良いと思う。
「ユーさん。ここくらいラフィは出してあげたらいいんじゃないかな?」
「そうか?もう上に行くと思うんだが…」
「難しいかもね。彼女、魔法紙を持って歩き回ってるから。」
「なるほど。スケッチタイムか…」
ということで、凄くピンポイントながらラフィ召喚。
「ここは?」
「ここは、トマの塔というダンジョンの中だな。今は休憩中なんだ。」
「塔?!あ、外だ!」
「窓があったか。見てきて良いぞ。」
「ん。行ってくる。」
どうやら、俺たちがボス戦その他の理由で気にしていなかっただけで、この層にもちゃんと外が見える窓のようなものがあるらしい。
こちらは、アヤ…
今は、トマの塔の3層。
前に来た時は、霧のようなものに覆われていて、足元に注意しながら歩かなければならなかった。一度、踏み外して下に落ちた時は、とても痛かった。
それが、現在は広場のようになっていて、穴もキレイに塞がっている。その代わりに、先ほどまで、雲の上に乗った巨大な鬼の幽霊と戦っていた。
「わぁ、外が見える!」
「ん?あ、アレ?ラフィちゃん、大きくなってる?」
「ん。私、進化した。」
いつの間にか、最近ユーさんが仲間にした召喚モンスター「ラフィ」がいた。この塔の中ではレベルが合わないから召喚しない、と言っていたような気がする。あ、もしかして、今はモンスターがいないから一時的に出しているのだろうか?
それより今、「外が見える」って言ったよね?前は、霧のせいでそんなもの見えなかった。これは、私も見なければ!
「外、私も見ていいかな?」
「ん。」
ラフィちゃんの隣に立って、外の風景を眺める。すると、不思議なことになっていた。
4層から外を見た時には、周りが草原に囲まれていて、遠くに山が見えていた。しかし、今見えている風景は、何かに破壊された荒野に近かった。トマの周りに、そんなものは無かったと思うし、層が変わった程度で景色が変わるのもおかしい。
「ん?アヤ、変な顔…」
「あぁ、うん。なんで、外が荒野になっているんだろうな?って思ってね。」
「私も知らない。でも、ここダンジョンとユーが言ってた。」
「ダンジョン… うん。それはわかるけれど…」
「ダンジョンは別の世界。ユーと他のダンジョンにも入ったけれど、外の景色がいつも変だった」
あぁ、なるほど。ダンジョンの風景は、その場に合わせているだけで、実世界とは関連しないのか。だから、層によって見え方が違うのかもしれない。言われてみると、4層と5層とでは、山の縮尺などが違った気がする。
あとは、ここだけ荒野になっていることか。とりあえず、ユー… は見えないか。リーネさんに聞いてみよう。
「あの、リーネさん。外から見える景色が、破壊された荒野みたいになってるんです。なんでかな?」
「ほ~い、そっち行くから、ちょっと待ってね~。」
「どれどれ?あぁ、確かに破壊された荒野だね。」
「あそことか… 私にはクレーターみたいに見えるんですけど、何があったんだろう?って。」
「う~ん、たぶん、さっき戦った雷霊鬼に関連する話だよ。アヤさんは、この塔ができた歴史について知ってるかな?」
「えぇと。墓地からモンスターがあふれ出して、そこに神の裁きが落ちてきて、塔が生えてきた、っていう話でしたっけ?」
「大筋はそれで合ってるね。その時に、暴れまわっていたのが、雷を纏った鬼だったみたいだよ。ダンジョンは、そうした歴史、あるいは、大地の眠っている当時の記憶から生み出されるという伝承があるんだ。」
あぁ、なるほど。確かに遺跡とか塔のように、誰かが作ったように見えるダンジョンもあった。つまり、材料となる実物が、昔はあったということだろう。ただ、「ダンジョンは異世界」という話もあるので、別世界での記憶かもしれないけれど…
アヤ経由で、3層の風景は、なぜか荒野であることを知ったので、ブレイオにも覗いてもらった。真理によると、ブレイオの素体は、この地で暴れまわり、巨大な雷によって死んだとされている。なので、何か、意味のあるものが見つかるか?と思ったからだ。結局は、風景を眺めただけで終わったようだが…
ただし、それとは別に、アヤにも「記憶に近づく者」称号が生えた、という通知があった。外を観察したことが良かったのかもしれない。ただ、リーネさんには生えていないみたいだ。NPCは、その辺りの条件が違うのだろうか…
その後も塔の探索と試運転は順調だった。リーネさんに聞いた所、アヤが印術で強化したルナーは、プラズマランサーやプラズマスナイパーが相手でも問題なく、突撃から弾き倒していたそうだ。また、槍と盾に聖銀を用いていたため、ウィスプの魔法も受け流せていたらしい。
それと、懐かしの引き込み罠を発見したのだが、中には、なぜかチックシーフが収まっていた。「引き込み罠も見てみたい!」と言っていたアヤに入ってもらうのにちょうど良かった。
「トマの塔 6層に入りました。」
「条件を満たしたため、フィールドが変化します。」
再び変化した空間に遭遇。アヤの「ここもじっくり見たい!」の希望に従いモンスターを殲滅、その後は観賞会をした。もちろん、この時もラフィを召喚した。
アヤによると、6層の風景も、やはり荒野であるようだ。ただ、墓のような石碑も見えたそうだ。例の墓地ダンジョンの面影かもしれないので、スケッチを複製してカイムさんに渡してあげるように言っておいた。
「我は、裁きの執行者トマ。旅人よ。我に打ち勝ち、力を示すが良い!」
そんな塔探索もフィナーレを迎えた。最上層 トマ戦だ。
なのだが、現在、俺がトマを抑えている。リーネさんは避雷針設置、アヤはスケッチで忙しいからだ。
「ん?そういえばあんた、裁定者とあるな。知っているのか?」
「真理の裁定者よ。我の執行を妨げるか!」
「執行とやらは攻撃か?攻撃してきたのはあんただけどな。悪いが、今は俺が彼女の盾だ。あと、5分くらい待ってくれ。」
「ならぬ。そこをどけ!」
「断る。代わりと言ってはアレだが、裁定者について話をしてみたいぞ。」
トマは、律義に向かってきたので、とりあえず耐えている。初期のターゲットはアヤなのだが、アヤ自身がスケッチに興じているのと、俺が隣接で張り付いて掴撃を打ち込んだため、ターゲットが変わってしまっているからだ。
そして、触鑑定したら、トマの真理テキストに「裁定者」があった。今読み返すと、こいつも「裁定者」の一人なのかもしれない。とはいえ、職業なのだから、プレイヤーがなってないだけで、世の中にはいっぱいいるかもしれない…
「お待たせ!ユーさん、そのまま抑えていて。」
「いや、ユーさん、やっちゃっていいと思うよ。」
「だそうだ。トマよ、悪いが、話に乗ってくれないなら、このまま倒させてもらうぞ。」
裁定者について、話をしてくれるか?と期待したのだが、残念ながら話は聞いてもらえなかった。まぁ、人語は話すが、フィールドボスだし、執行とやらが優先される思考でも持っているんだろう。
ということで、その後は溢気法の暴力でボッコボコにして倒した。
「アヤよ。見事なり。未知を切り開き、旅を楽しむが良い。」
肝心のアヤは、前半はスケッチしていたんだけれど。まぁ、それも含めて戦略ということではあるか。別に、彼女一人でもトマは倒せそうだったし。
トマは、こちらが遠距離にいると、遠距離魔法しか使ってこない。故に、アヤなら遠距離に徹して、光壁などを盾に、弱点の土属性魔法を打ちまくれば楽勝だったはずだ。広雷対策の羅針盤もちゃんと用意していたようだし。
そしてお待ちかね、ダンジョンクリア報酬だ。
「ユーさん。裁きの笏杖、雷光の軽衣、祈祷術の技能書、召喚術の技能書だって!」
「マジか。ちょっと待ってくれ。」
候補は、「祈祷術」か「召喚術」だろう。
「祈祷術」は、祈りによって回復やバフができる技能だ。祈祷中隙だらけになりやすいとか、発動に時間かかるとかの欠点はあるが、相手を意識できれば視認する必要が無いため、俺でも味方への補助ができるようになる。また、僧侶から祈祷師に派生できる程度にシナジーがあるため、「武僧」の職業補正が受けられる。
一方の「召喚術」は、テイマー系の技能だ。倒したモンスターとの契約ができれば、召喚して戦わせることが可能になる。また、それ以上に、召喚したモンスターへのバフや回復、復活もできるようになる。ただし、武僧とは性質が離れているため、効果は弱いし、育成も難しい。
幸い、カナミーがログインしていたので、フレンドチャットを送信。相談を投げてみた。その結果…
「2つの理由から祈祷術を推奨します。1つは、召喚術で使える技のいくつかは、相手を視認する必要があるため、盲人との相性が良くないこと。2つめは、祈祷術が中級になる時のルートに、ゴーレムや召喚モンスターの回復や復活が可能なルートがあることです。」
ということだった。俺が欲しいのは、召喚モンスターの回復や復活手段だ。それが「祈祷術」で得られるなら、迷う理由は無い。一択だ。
その後、無事にアヤは「祈祷術の技能書」を入手して、E4の攻略を完了した。加えて、防衛戦イベントを通してヒマランに入ったため、転移ですぐに移動できる状態になった。いや、ヒマラン自体は前から入れたんだけどな。
「えぇぇぇ~~!このお値段、本当なの!」
そして、ゴーレム研究所にてパーツ類の値段を見て悲鳴を挙げるのであった。まぁあの値段だからな、仕方ない。
そうそう。候補外だった報酬の一つ「裁きの笏杖」だが、これはまとめウィキに情報が掲載されている。「魔法触媒」と「短杖」カテゴリーの武器だ。「光、雷属性増幅(大)」が付いているため、魔法使いには喜ばれていたと記憶している。