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「ユーさん、今日はありがとう。」
「こちらこそ、良い技能が入ったから問題無いぞ。修行がんばらないとな。」
「なんか、ユーさんっていつも修行している印象なんだけど?」
「間違ってないな。世の中にはまだまだ上がいっぱいいるし。」
アヤとの約束に従い、俺は「祈祷術」の技能書を受け取り、習得した。当然、レベル1なので、これから育てなければならない。
幸いというか何というか… ラフィはまだレベル14だ。この後は、迷いの森、それと、ナザ島のダンジョンでの育成を進めたいと考えている。その間、俺もたっぷり祈祷を育てるとしよう。
「それじゃ、アヤさん、リーネさん。俺は用事があるのでここで離れるな。明日は9時にイスタール、迷いの森に向かう予定で良いか。」
「あ、うん。今日はありがとう。」
「オッケーだよ。アレ?まだお昼だよ?今からどうするのかな?」
ただ、育成は明日からの予定だ。というのも、祈祷術の育成プランを練るためには情報が足りないからだ。
俺はさっそくログアウトして、まとめウィキをあさり始めたのだった。
その後、残されたアヤとリーネは…
「あ、ユーさん!行っちゃった。」
「そうだね。まさか置いてかれるとは思わなかったな。」
「あぁ、たぶん、情報収集じゃないかな?祈祷術のこととか…」
「あぁ、なるほど。異人たちの情報網だっけ?」
「たぶんそれですね。今日は戻ってこないと思いますよ。」
「そっか。う~ん、ユーさんのために、こっちでも情報を集めておこうかな?祈祷術は使い手が少ないから、私も詳しくは知らないんだ。」
「私も、巫女さんとかが使えるって聞いたことはあるけれど、それ以上のことはさっぱりです。」
「アヤさんは、これからレベル上げと資金稼ぎかな?」
「はい。メモリー、びっくりするくらい高かったし。」
「よし。じゃ、手伝ってあげよう。ヒマラン大草原のモンスターは手ごわいからね。」
「え?いいんですか!ありがとうございます!」
二人で狩りに出かけるのであった。
「ユー様、こんばんわ。」
「おぅ、ナビー。悪いが、今から始まりの街の教会に行くぞ。先導してくれ。」
「了解しました。始まりの街へ転移、教会へ向かいます。こっちです。」
現在、ゲーム内時刻は19時… 俺は、戻ってきた。
祈祷術について、まとめウィキで情報を集めてきた結果、以下のことがわかった。
- 「祈祷術」による祈りは、対応する神様を介して対象者へ届く。このため、その神様を認識しておかないと効果が発揮されない。
- 対応する神様について知るには、教会での参拝と、依り代とされる神様の像を認識しておくことが必要。
- 教会のある街で、同様のことをしていく必要がある。教会は、規模が「街」と言えるマップや、固定ダンジョンのあるマップにある。
まぁ納得ではある。この世界には魔力も気も呪いも混在している。MPを注いでお祈りしたら、ダイレクトに相手に届くのなら、それは「魔力」か「呪い」だろう。あるいは俺の場合「気」になってしまう。
「始まりの街 に入りました。教会はこっちです。」
そして、俺は転移を経て、始まりの街へやってきた。
夜が遅い影響なのか知らないが、プレイヤーによって塞がれていない道があるようだ。イベント期間中のため、始まりの街の中は超満員だと思っていた。というか、それならナビーが警告してくるか。
後から知ったことだが、現在出現している塔には、イベント期間中、直接転移で入れるようだ。故に、始まりの街に滞留する必要が無かった。よく考えたらサーバー分けされる宣言していたもんな。直接移動できないとおかしくなるだろう。
「始まりの街 教会に到着しました。入口は開いています。こっちです。」
程なくして教会に到着。入口が空いているようなので、ナビーの先導に従い、そのまま進んでいった。
進んでいくと、建物の中に入った。入口は石の床だったが、音が響いて聞こえる。後ろ、開いているのに凄いな。
「おや?こんばんわ。盲人の異人ですね。」
「ん?俺のことで良いか?」
「はい。合っております。」
少し進むと、声をかけられた。おじいさんっぽいが、この教会の関係者だろうか?
「私は、この教会に使えているものです。用件をお伺いできるでしょうか?」
「わかった。俺は、旅の武僧だ。先日、祈祷術を得たんだが、神様に会っていなかったのでな。挨拶に来た。」
「なるほど。祈祷を始める前の儀式ですね。それでは、お連れしましょう。」
どうやら、必須且つ定番のことであるようだ。スムーズなのはこっちとしても助かる。
その後、おじいさんに引っ張られる形で前に進んでいった。
「あなた様は盲人。本来は禁止しておりますが、入り代となっている像へ触れることを許可致します。像は正面にありますので、お確かめください。」
「感謝する。」
そして、いきなり神様の像に触れさせてもらえることになった。
正直、神様の像に触れるなんて罰が当たりそうなものだ。だが、触らなければ理解ができないので、この機会にじっくり触れるとしよう。もし、天罰が来るようなら、アヤにミニチュアを作ってもらおう。
そんなことを思いながら、俺は、「浄水」で手を洗い、「浄気」で乾かした上で、手を伸ばしてみた。すると、石造のようなものに触れた。触鑑定もしてみる。
アーレムの像:
種別: オブジェクト
説明: この世界を創造した4神の入り代を模して制作された像の一つ。この世に命ある生物をもたらした、と伝えられている。
真理: この像は、はるか南に存在する地域にて崇められていた本体像を模して制作されたものである。4神が崇められていた地域を結ぶ中心に、生きとし生けるものの幸福と発展を祈願して奉納された。
最初に触れたのは、「生命神アーレム」の像だった。命の誕生や回復などを司る神だったか…
その体は、植物のように感じられる人型だった。あるいは、像の置いてある台座から体が生えているとも言える。性別は… 男っぽくない髪型をしているので女神だろうか?
なお、この世界の4神に対して、住民は「女神」という表現を用いていない。人によって、見え方が違うからなのか、「神に性別という違いは無い」という考え方があるのかもしれない。
ドランザスの像:
種別: オブジェクト
説明: この世界を創造した4神の入り代を模して制作された像の一つ。己を鍛え育てるための力をもたらした、と伝えられている。
真理: この像は、はるか西に存在する地域にて崇められていた本体像を模して制作されたものである。4神が崇められていた地域を結ぶ中心に、困難に立ち向かう者の幸福と発展を祈願して奉納された。
次に触れたのは「技能神ドランザス」の像だった。この世界に「技能」をもたらし、育てる力を与えたという。また、技能に戦闘技能が含まれているため、「戦神」とも呼ばれているらしい。
像に触れた印象としては、「竜が化身になったもの」だった。牙や爪のようなものは無かったが、服を着ておらず、筋肉や鱗がむき出しになっているようだ。あと、鳥や妖精、虫なんかには無い翼が生えていた。
ファムラの像:
種別: オブジェクト
説明: この世界を創造した4神の入り代を模して制作された像の一つ。物を生み出すための力と知恵をもたらした、と伝えられている。
真理: この像は、はるか東に存在する地域にて崇められていた本体像を模して制作されたものである。4神が崇められていた地域を結ぶ中心に、創造の喜びと発展を祈願して奉納された。
さらに続いて触れたのは、「創造神ファムラ」の像だった。こちらは、「生産神」または「知恵の神」とも呼ばれており、技能だけでは解決できない知恵と、物を作り出す力を与えた神だ。
像に触れた印象は、魔法使いか学者のようで一番「人」らしかった。右手に長杖、左手に本のような物体を持ち、上半身から下半身までをローブのような何かで包んでいるように感じられたからだ。なお、髭は無かったが、「髭を沿った男性」とも言えなくない顔の形状をしていたので、実態はわからない。
タラスタの像:
種別: オブジェクト
説明: この世界を創造した4神の入り代を模して制作された像の一つ。輪廻に基づく循環をもたらした、と伝えられている。
真理: この像は、はるか北に存在する地域にて崇められていた本体像を模して制作されたものである。4神が崇められていた地域を結ぶ中心に、世界の安定的な発展を祈願して奉納された。
最後に触れたのは「運命神タラスタ」だ。「終わりの神」とも呼ばれており、世界に生まれ落ちた者に終わりを与えることで、世界がモノで溢れないようにする役割を担っている。そうしないと、世界がモノだらけになるし、弱肉強食などの連鎖も成立しなくなるからな。
像には、ドランザスの像よりも巨大な翼がいくつもあった。本体は子供のように小さな体であり、台座に翼が固定され、本体は浮いているように感じられた。天使、あるいは悪魔の要素を持っているのだろうか?
アーレム、ドランザス、ファムラ、タラスタ… それが、この世界を創造した4神の名だ。これ自体はまとめウィキにも載っていた。
それにしても、この4つの像は、世界の端からここまで送られてきたのか。始まりの街であるトネブダが、その中心地だったから、ここにあるのだろう。そして、プレイヤーが旅を始めるきっかけとしても十分な理由だと思う。
俺は、4つの像に向けて、「これから世話になる」という思いを込めて祈った。実際に神に会う類のイベントがあるのか、俺がそれを引くのかは知らない。が、少なくとも「祈祷術」を使う過程で世話になるのは事実だからだ。
「条件を満たしたため、祈祷術が使用可能になりました。」
と思ったら、システム通知があった。まぁ、何も無いと判断ができないので助かるのは事実だ。
これから、レベル上げをしつつ、教会巡りもしていかないといけないな。
俺は神父に礼を告げて、教会を後にした。なお、像を触らせてもらったお礼を兼ねて、10000pほど募金しておいた。