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「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日は、イスタールから迷いの森に入る。先導してくれ。」
「了解しました。まずは、転移ゲートを経由してイスタールへと向かいます。こっちです。」
今日からは、迷いの森だ。ラフィのレベル上げ、祈祷術の育成、それから、「森の心」獲得を目指そうと考えている。
なお、今日は公式イベントが始まってゲーム内で4日目だ。情報もずいぶん集まったようだが、やはりちゃんと中でイベントをこなす方が実入りが大きいようだ。
- イベント内フィールドで住民からの依頼や納品依頼をこなすと、1件につき1枚のコインをもらえる。ゲーム内一日につき3件まで可能。
- イベント期間中、何度でも攻略が可能なダンジョンも出現中。ダンジョンは10階層あり、入場者のレベルに対応した難易度が設定される。クリア報酬は、「不思議な種」、「経験値チケット」、「技能経験値チケット」、「イベントコイン5枚」から選択可能。
- 街の外は、レベル10エリア(草原)、レベル20エリア(森)、レベル30エリア(山)、レベル40エリア(地下道) のようになっている。ただし、自身のレベル帯に合わないエリアには入場不可。また、草原エリアの先などには、現時点で侵入できない。
- イベント11日目に、レイドボスが出現する見込み。イベントエリアでの活動に応じてボスの弱体化ギミックがある。レイドボスを倒し切ることができれば豪華報酬があるらしい。
情報通りで、仮に参加するのだとしたら、最速で7日目以降に飛び込むのが良いと思った。ラフィは現在 レベル14… 迷いの森で レベル18 くらいまで育てたら、次はナザ島のダンジョンにて レベル20 まで育成する。その後、イベント会場のレベル20エリア… へと進むのが良さそうだ。ブレイオとラフィにも「森の心」が生えるかもしれない。
「森の安息地 イスタールに入りました。」
「おはよう、ユーさん。時間通りだね。」
転移したら、リーネさんの待ち伏せを受けた。まだ10分くらい前だと思うのだが… まぁいいか。
「おはよう、リーネさん。昨日は席を外すことになってすまなかった。祈祷術の育成プラン検討をしていた。」
「あぁ、問題無いよ。大事な技能だからね。それで、これから森でいいのかな?それとも、教会かな?」
「これから森だな。昨晩、始まりの街の教会に行ってきた。これで問題ないと思う。」
「了解。さすがユーさん、抜け目ないね。」
(ナビー。迷いの森に入る。先導してくれ。)
(イスタール 東出口から迷いの森に入ります。こっちです。)
俺は、ナビーの先導に従い、迷いの森へと向かって行った。
「E3 迷いの森 に入りました。」
「迷いの森か、懐かしいね。」
「俺も久しぶりだな。イスタール自体には、図書館などがあるから何度か来ていたが、こっちはあえて入ること無かったからな。」
「ん。森?」
「主人。ここは、森か?」
「ここは、迷いの森だ。昨日までいたトマの塔よりも西にあった森だな。」
「心得た。ラフィの訓練ということだな。」
「そうなる。あとは、俺たちも修行だ。」
「今日は、ここで戦うよ。ラフィちゃん、がんばろうね。」
「ん。」
それでは、出発しよう。あ、もちろん、おくたんは既に仕事を始めているぞ。
なお、現在、「祈祷術」で俺が習得しているのは、「知の加護」という魔法防御のバフだ。今後レベルを上げていくと、回復や浄化、結界などが使えるそうだ。
「ん?茸と、動物?」
「猿か。だが、山で見たものと違う。」
「ライドモンキーだね。」
「とりあえず、知の加護な。」
俺は、手を合わせて集中… リーネさん、ブレイオ、ラフィへ、加護が降りるようにと祈った。すると…
「お、これが祈祷だね。薄い膜みたいなのが張った気がする。」
「ん。ユーの、新しい魔法?」
「主人。効果が出ているぞ。だが、ばらつきがあるようだ。」
5秒くらいかかったが、効果は出たようだ。俺のMPもちゃんと消費されている。
ただ、ブレイオの話通りなら、効果にばらつきがあるらしい。特に優劣を付けたわけではないので、俺の熟練度不足だろうか?
なお、このバフにはたぶん意味は無いと思っている。ラフィでさえ、受け技能を駆使してダメージを追わないようにしているからな。ブレイオとリーネさんは、レベルの暴力で、やられる前にやれてしまうし。
ということなので、とりあえずはクールタイムが終了したら使うようにしている。本当は、「バフを切らさないように使う」運用が求められるのだが、今はレベル上げ中だし、バフが意味を成しているとは言えないからだ。
「分かれ道だね。交通路が右だから、左へ行こうか?」
「だな。今日はモンスター狩りに全力を注ごう。」
「ん?後ろから、ゴースト来てる?」
「お、まだ距離は離れているけれど、よく見つけたね。」
「ラフィよ。緑色のカラスには気づいているか?ヤツは見て見つけるのが難しいぞ。」
「ん。魔力が動いてる。でも、確かに見えにくい。」
ゴーストとミドリガラスのようだ。ラフィは、まだ視力強化系の技能が生えていないので、保護色になっているヤツを視認するのは難しいだろう。今まで、そういう特殊なモンスターを見てこなかったこともあるだろうし、ブレイオほど魔力にも特化していないからな。
「特定の条件を満たしたため、ラフィは 視力強化(魔力) を習得しました。」
ということを考えながら狩りを続けていたら、勝手に生えてきた。「霊術」の方で「凝視」という、見つめた対象へデバフをかける技を習得した影響だろう。いわゆる「魔眼」が生えたので、無いとおかしい類なんだと思う。
なお、「凝視」は、相手がこっちを見ていなくても効果が及ぶため、俺にも有効ではある。ただ、俺の場合は「凝視を受けている」ことを探知できないため基本的に完全無効だ。以下の実験を通して、条件を整えれば効果が出ることを確認できた。
「ラフィ。俺の正面に立って、凝視を俺に浸かってみてくれ。」
「ん?いいの?動けなくなるよ。」
「実験だから問題ないぞ。」
「ん。やってみる。」
「使っているんだよな?」
「ん。見てる。でも、ユー、効いてない。視線の魔力、弾いてる。」
「なるほど。」
「あ、届いた。不思議。」
「俺は、そういう体質だからな。」
「ん。もう、止めていい?」
「良いぞ。それにしても、これが束縛か。マヒなら耐性はあるが、外から押さえつけられている感じだな。」
「ん。でも、ユー、すぐに解けそう。たぶん、私が弱い。」
「束縛すると、俺に何か絡みついているのが見えるんだったか?」
「見えるけど、違う。輪で包んでる。あ、割れた。」
「解けたか。確か、精神と知性で抵抗だったか。こればっかりは、ラフィの今後の成長に期待だな。」
なお、その後、ブレイオとリーネさんも凝視からの束縛体験をした。
ブレイオの場合・・・
「ぬ。魔力の枷か。だが、ぬるい!」
「わ、ブレイオ、すぐ割れた。それに、かかるの遅い。」
「ラフィよ。もう少し強められるか?」
「無理。今のより大きくならない。」
「もしかしたら、雷の精霊の眷属だからかもしれないぞ。もともとマヒしないし、同種の束縛も、並みのモンスターじゃ御せないんだろう。」
「ふむ。主人の言う通りかもしれん。凝視使いと戦う経験が少ないので、我も実態はわからぬが。」
「そうだな。雪原を先に進むと、未了や凍結の凝視なんかは来るな。」
「ぬ。見られていることが問題だったな。どうするべきか…」
「視界を塞ぐのが早いな。あとは、遠くからの迎撃だ。凝視は、相手が遠いほど効果が弱くなるから、使い手は近づいてくるはずだからな。」
「まさか、砂も使えるか?」
「あぁ、塔のアレな。有効だぞ。」
リーネさんの場合…
「リーネ、見る。」
「ほ~い。それにしても、凝視を正面から受けるなんて久しぶりだね~。」
「ん?なんで?」
「私はユーさんみたいに立ち止まって戦うスタイルじゃないからね。ラフィちゃん、動いている私に凝視できるかな?」
「ん?あ、難しい。リーネ、早過ぎて追いつかない。」
「とりあえず抵抗するから、そのまま見ていてよ。」
「いいの?」
「気を流せば行けるはずだからね。ふん!」
「わ、割れた!」
「やっぱり行けるね。まぁ、ラフィちゃんが成長すると、割るの難しくなっちゃうんだろうけれど。」
そんな実験をしつつ、その日は森の中で一泊… 翌日も狩りに勤しんだのだった。
なお、祈祷術もレベル8まで育った。HPを回復する「癒の祈り」と、防御バフの「守の加護」を習得した。なお、「癒の祈り」は治療系統であるらしく、ラフィには効果が無かった。
それと、効果のばらつき問題も解決した。「対象までの距離により効果が減退する」ことと、「レベルを上げると、100%の効果が及ぶ有効射程が伸びる」ことがわかったからだ。
夕方はソルットに戻ってきた。森での狩りを満喫し、明日はナザ島に行くので、美味しい物や温泉で英気を養っておこう!といった感じだ。
「こっちはブレイオ、こっちはラフィな。まぁ、いっぱいあるから、両方とも食えるけどな。」
「ん?パンよりも甘くて、柔らかい!」
「主人。これはなんだ!レモンで引き締められた肉か!」
ソルットに来たので、料理プレイヤー餃子饅に、「パンケーキ」と「レモンと香草の焼き肉」を作ってもらった。俺も試食したが、どちらも美味しかった。さすが餃子饅だ。
「ブレイオ、ラフィ。どうだ?うまいか?また食いたいか?」
「ん。これは、特別な物。」
「我も同じだ。この肉は、今まで食った物の中で格別だった。」
「そうか。これは料理人の腕も良いからな。俺も食ったが両方とも美味かったぞ。追加もあるから、違う方を食ってみると良いぞ。」
「ん。お肉、すっぱい。でも、柔らかくて、温かい。」
「これは甘いな。ラフィは、このような味が好み化。」
「う~ん、美味しそうだね。」
「ん?リーネさんの分も出したと思うんだが、もしかして、好みではなかったか?」
「あぁ、それは頂いたよ。ブレイオちゃんとラフィちゃんが満足そうに見えるって話ね。」
どうやら、表情の話だったようだ。
「そういえば、リーネさんの好物はあるのか?俺は、まだ探している途中だが、この世界だと串焼きやシチューがうまいと思っているぞ。」
「そうだね~。お肉をマイルドに似たものかな。ソルットは、塩をよく使うから、それに合う焼き料理が多いんだよ。」
もしかして、この世界での「好物」とは「特別な料理」ということなのだろうか?
そうなると、常食とは違う何か… という考え方になってくる。いくら好物でも、毎日食べたら飽きる人は多いからな。