本文
「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日は、始まりの街から謎の塔へ向かうぞ。先導できるか?」
「現在、始まりの街に出現している塔ですね。先導可能です。ただし、塔内の情報が存在していないため、冒険者ギルドでの情報の取得が必要です。」
昨日は、ラフィの進化まで済ませた後、少し実践をしてから地下迷宮を脱出した。ラフィが進化した時点で、時刻が16時を過ぎていたからだ。
その後は、ナザ島にあった教会の神様に触れてきたのだが、ここにはアーレムの像しかなかった。「始まりの街」には全ての像が奉納されているが、その他の地域には、その方角で主に進行されている神のみが像として奉納されているそうだ。「祈祷術を手に入れたら、始まりの街で儀式をせよ」とまとめウィキに書かれていたのはこのためだった。
なお、現在の祈祷術のレベルは 13 だ。回復やバフを連発したおかげで、レベル上げは順調と言える。
新たに、新体状態異常の回復を促す「消毒の祈り」を習得した。武僧をやってきたが、最近、ようやく僧侶らしい道を歩んでいる気がする。
そして、今日からいよいよ公式イベント会場へ向かう。主な目的は、「外周にある森で育成」になるだろう。ただ、冒険者ギルドや武具屋等もあるらしいので、買い物や貢献度稼ぎはしても良いと思う。
ただ、冒頭でナビーが言っていた通り、まずは冒険者ギルドでの情報のアップデートが必要なようだ。イベントエリアは未開の地域なので、ナビーが仕事しないかもしれない。
「始まりの街 に入りました。」
というわけで、始まりの街にやってきた。本当なら「久しぶりに…」と言うべきだったのかもしれないが、先日、教会でお祈りしたからな。
そのまま、ナビーの先導に従い、「謎の塔」へと向かった。今でも、塔の名称は「謎の塔」であるようだ。検証班が、例の真理持ちプレイヤーに鑑定させたので、そういう名前で合っているらしい。
「謎の塔 入口へ到着しました。入口の柱はこっちです。」
そのまま、ナビーの元へと接近し、柱に触れた。その結果、「謎の塔」で合っていた。
謎の塔:
種別: オブジェクト
説明: 始まりの街に突如現れた建造物。その多くは謎に包まれているが、資格ある者のみが中へ入れるようだ。
運営より:
この塔は、第13回公式イベント「新たな始まりを告げる塔の謎」のイベント会場です。イベントへの参加資格のある者が塔の入口に触れることで、イベント参加者として、会場へと転送されます。その他の詳細は、公式ウェブサイトをご覧ください。
では、さっそく入るとしよう。俺は塔の入口に触れた。
すると、扉が開くような音がした。このエフェクトの後、塔の中へ移動するらしいので待った。
「イベント 新たな始まりを告げる塔の謎 へ参加しますか?」
と、アナウンスが聞こえてきた。どうやら、間違って入口に触った人のための防衛機能なのだろう。
「今日から参加したいが、それでも大丈夫か?」
「可能です。ただし、現在のレベル、他プレイヤーの参加状況、及び、イベント進行度に基づいて、転移先となるサーバーが自動的に決定され、以降の転移先はその場所に固定されます。宜しいですか?」
「入りたいサーバーが選べないのと、最後までそのサーバーが続く、ということだな。かまわないぞ。」
「承知しました。適切なサーバーを検索した上で、会場へ転移します。」
その後、いつも転移している時に感じた浮遊感がした。
「第327迷宮都市 に入りました。」
どうやら、イベントエリアに到着したようだ。まとめウィキによると、住民から「迷宮都市」と呼ばれている異世界の街だそうだ。あるいは、ここがダンジョン内だとすると、かつて実在した街なのかもしれない。
そして、サーバーの番号は 327 だそうだ。この番号は「レベル帯 + 200人規模で区切った数」という区分コードらしいので、レベル30代のプレイヤーが、少なくとも5000人くらい参加していることになる。
イベント全体の参加者総数は… あぁ、俺に配布されたIDが 73482 だから、既に7万人もいるのか。まぁ、この辺りはどうでもいいだろう。
「お、ユーさん発見。」」
おや?なんか、知っているNPCの声がするぞ。
ギリギリまでついてきたのは知っていたが、NPCって弾かれるんじゃなかっただろうか?
「ん?えっと?」
「あぁ、ユーさんもわからないよね。私もだよ。どうしたのかな?」
「転移する時に、何か聞かれたりしなかったか?」
「えぇと… 門に至ったため、 新たな始まりを告げる塔の謎 に誘われます って言われたね。」
「よくわからないな。だが、有資格者が入れると言っていたから、リーネさんは何か特別な資格を持っていたんだろう。」
「資格?私、そんなものをもらったかな?」
原理は謎なままだが、「有資格者 = プレイヤー」ということではないようだ。
その後UIを確認した結果、ここではリーネさんがパーティ固定状態になっていた。パーティ自体は、ナザ島のダンジョンに入った時に組んだままだったが、それが影響したのだろうか?
こういう時に何かやらかしそうなのは「真理」だ。だが、それなら、俺に対して何かメッセージが通知されるはずだ。あと、真理持ちプレイヤーが入ったことはカナミー経由で聞いている。彼女なら、きっと検証を済ませているだろう。
「あぁ、もしかして称号かな?私、最近、異界の門の到達者になったんだ。」
「異界の門の到達者?聞いたこと無いな。」
異界の門の到達者:
説明: 異界と現世とを結ぶ門。異界の旅人と絆を深め、その手を取ったあなたは、門に近づくことが許された。それは僅かではあるが、異界への干渉を可能にするだろう。
識別をさせてもらった結果、上記の説明文を確認することができた。「異界の門」というのが、ダンジョン関係ではなく、俺たちプレイヤーの何かを表していて、リーネさんが「プレイヤーにしか入れない」という制限を飛び越えてしまったと考えるのが妥当そうだ。結果、今回飛び越えたのが、まさかの「公式イベントへの参加」ということになるのだろうか?
「正直謎だな。とりあえず、せっかく街にやってきたんだし、一緒に過ごすとしようか。リーネさん、それで良いか?」
「もちろんだよ。というか、お姉さんを置いて勝手に遊びに行くなんて、感心できないな~。」
「ここにあんたが入れるとは思っていなかったからな。それに、あっちで用事もあったんじゃないのか?」
「あぁ、それね。問題無いよ。一人で狩りをするだけだったから。ここがどこかはわからないけれど、狩りはできそうだし。」
「なるほど。ただ、まずは情報収集だな。この街の状況と、周りがどうなっているかは俺もわからないんだ。」
「それもそうだね。冒険者っぽい人が見えるから、この街にも冒険者ギルドがあるのかな?」
「あるらしいぞ。ただ、俺も場所は知らない。悪いが、連れて行ってもらえるか?」
「ユーさんでも知らないことはあるんだね。探してみるよ。」
残念ながら、今はナビーでも道案内できないようなので、リーネさんに引っ張ってもらうこととする。
「それでユーさん。情報収集した後はどうする?街の外で修行かな?」
「6日間の予定か。明確に決まってるものはないが、前半は修行をしたい所だな。」
「6日?」
「おっと、そうか。俺だけが知っていた話だったか。」
一人で参加するものと思っていたので、イベント関連の情報はリーネさんには話していなかった。なので、俺は、移動しながら情報共有を進めた。
「なるほど~。超大型モンスターか大集団が4日後に来る可能性が高いと。それが本当なら、備えが必要だね。」
「異人たちの情報であって、現時点だと噂の類だな。詳細はこっちのギルドなどで聞くなどして調べる必要があるだろう。」
「そっちは私がうまくやってみるよ。この街の人と話が通じるかはわからないけれど、今見えている限りだと雰囲気は良さそうだから、たぶん大丈夫だと思う。」
「場合によっては、今日一日は情報収集やギルド依頼優先が良いかもな。情報無しに外で狩りというわけにはいかないだろうし。」
「さすがユーさんだね。でも、例によって薬草の仕分けなんかをするのかな?」
「畑があるような雰囲気ではないようだから、薬草の仕分けや浄化・洗浄は選択肢になりそうだな。地味だが、俺たちもお世話になっているポーションやダンジョンに影響するのは重要だと思っている。まぁ、専門職が既にやってくれているかもしれないけれど。」
「ふ~ん… あ、ギルド見つけた。入るよ。」
無事に、冒険者ギルドは見つかったようだ。俺は、リーネさんに連れられるがままに中へと入った。
「いらっしゃいませ。こちら、迷宮都市の冒険者ギルドです。」
「俺は冒険者のユーだ。図書室が利用したいんだが、可能か?」
「はい。図書室は利用可能です。ご案内しますので、少しお待ちください。」
とりあえず受付にて図書室の利用手続きを進めた。とにかく、これをしないと身動きが取れないからな。
「ユーさん、私はちょっと聞き込みしてきていいかな?」
「かまわないぞ。たぶん、用事が済んだら俺は依頼確認だから。」
「うん。薬草の仕分けも浄化もあるみたいだよ。」
あるのか。というか、専門職はこのサーバーにいないのだろうか?
まぁ、その辺りの人がいても、ギルドで常時依頼に張り付くとは限らないか。俺だって、「レベル20代の森エリア」という特別な場所を目当てに来ているんだし。
レベル30を超えたプレイヤーの多くは「二次職」を取得する。つまり、二次職に伴って生えた低レベルの技能があり、育成しなければならない。故に、「常時依頼」という平時でもできる作業よりも、イベントエリア限定の要素、例えば専用ダンジョンの集会などを優先したくなるはずだ。
「アップデートが完了しました。迷宮都市、並びに、周辺地域に関する情報へのアクセスが可能になりました。」
その後、図書室に連れて行ってもらい、無事に目的を達成。これで、ナビーが仕事できるようになった。
で、せっかくなので、図書室の本を触鑑定しまくってみた。その結果、まとめウィキのイベント情報ページに掲載されていた情報と一致していることがわかった。つまり、本で得られる情報はしっかり確認されている、ということになるだろう。
なお、珍しく「真理」が反応する本は一つも無かった。これは、「どの地域にも蔵書されている見た目が同じ本が一つも無い」ということを示している。まぁ、そういう本があっても、大半は「それウィキに載ってる」類の話なので、どっちでも良いことだな。