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「え?盲人が浄化やってんの?」
「これでも上級になったからな。で、呪われたアイテムは何だ?」
「あぁ、今インベから出すが、3つだ。」
「台に置けるなら置いてくれ。」
今、俺は浄化依頼に対応中だ。そして、たぶん正面にいる男はプレイヤーだろう。
ダンジョン産の呪われたアイテムをインベントリーに入れて持って帰ってきたようだ。ちゃんと手に取らずに済んでいる辺りは関心できる。
「おぉ、浄化の気か!助かった。」
「それにしても、3つも呪われたアイテムが出てくるなんて、ダンジョンはそんなに呪いに溢れているのか?」
「あぁ、違う違う。初日から潜ってたんだが、後回しにして貯まった分だ。本当はイベント終了まで行きたかったが、カースゴーストに武器まで呪われてな。」
「なるほど。パージできなくなるだけでも厄介か。」
この依頼を選んだ理由はいくつかあるが、一番大きいのは情報収集だ。
会話を通して、現状についての生の声を聞くことができる。浄化って、待っている間は暇だしな。
「ここに上級の浄化持ちがいると聞いたが、あんたか?」
「他にいるかは知らないが、上級気留術持ちの部僧だな。」
「特化か。なら問題無いな。呪われたボス素材だ。中級だと御せないと思われる。」
「台に置けるものなら置いてくれ。」
「あぁ。置いたぞ。」
またプレイヤーか。「気流術」を「特化」と呼ぶ辺り、技能にも詳しそうだ。
「これは… 幻獣の素材か。だが、行けそうだな。」
「助かった。」
「喜ぶのは早いぞ。呪いを浄化すると変質したり消えたりもするからな。」
「わかってる。だいたい上級ボスから特級素材が出た時点で、劣化してるんだろうし。」
「ボス素材と言っていたが、ダンジョンか。またずいぶん尖ったものも出るんだな。」
「幻獣」の素材は、第9マップ以降の素材で、ランクとしては「上級」の上「特級」になる。俺が雷霊鬼の素材に手を漬けていないのはこのためだ。
ただし、劣化した素材であれば、格下げされる。当然、そこからできる武具等の効力は落ちるが、それでも第7マップくらいの能力はあるので、このサーバーのプレイヤーなら欲しがるはずだ。
「そういえば、おっさん見ない顔だな。最近来たのか?」
「今朝、こっちに来た所だ。今日は情報収集をメインにして、明日からは森で仲間の育成を予定している。」
「そうか。上級技能持ちが来てくれるのは歓迎だ。レイド、絶対に成功させたいからな。」
「その辺、今情報集めの最中でな。何か新情報ってあったりするか?」
「あぁ、今朝来たんだったか。」
その後、レイドイベントに関する最新情報を教えてもらえた。要約すると以下の通りだった。
- 街の外周で起こる防衛戦と、ダンジョン入口で行われるボス戦の2つが予想されている。
- 街の外周では、モンスターが、何かを企てているようで、現在、斥候系プレイヤーが調査中。合わせて、いくつかのパーティによる間引きが進められている。
- ダンジョンの入口は、200メートル規模の広場になっている。住民の話によると、スタンフィードの可能性が高く、ボスに関する情報の収集と分析が進められている。
- 襲撃が予想されるモンスターの平均レベルは 25~30 程度。ボスは、レベル 50 程度と予想されている。
- 現在、やや物資が不足している。戦闘職が、採集職を護衛することで素材採集を進めている。
話を聞いた結論としては、俺がやることについては、当初の予定通りで良さそうだった。むしろ、ラフィのレベルと、俺の祈祷術のレベル上げが急務であるようだ。
従って、てきとうに依頼をこなしたら、森でのレベル上げも進めよう。
なお、祈祷術は現在進行形で使用中だ。回復やバフなどを自分に使うことを繰り返している。
「あぁ、消えちゃったか。」
「聖銀になれば良かったんだがな。」
「まぁ、呪われてる物だと仕方ないのかな。ところで、君のそれ、祈祷だよね?」
「ん?あぁ、そうだな。最近得たばかりなんで、隙間時間で育成中だ。」
「あぁ、それなら、ここにも教会があるから行っておくと良いよ。私も行った後、効果アップを感じたんだ。」
「教会、あるのか。いや、ダンジョンのある街だから、無い方がおかしいか。感謝する。」
「いいよいいよ。祈祷使いって少ないし。」
どうやら、祈祷師のプレイヤーもいたようだ。教会については、この後で行くとしよう。
その後は、薬草の仕分け依頼を始めた。話によると、山が15個以上もできているらしい。
で、実際に仕分けを始めてみると、ポーション系統の素材になる「薬草」や「魔力草」が多かった。その他の薬草もあったが、ほとんど入っていなかった。「物資が足りない」という話だったので、この2種の薬草を増量したのだろうか?
「いやぁ、助かった。たくさんの薬草が納品されるのは良いけれど、仕分が遅れていてね。あの有様だったよ。」
「異人経由で、ダンジョンや、街の外周部で不穏な動きがあるという話を聞いてな。それと物資が不足しているという話もだ。その辺り、関係があるのか?」
「あぁ、それね。ギルドでも、中位を払っている案件だよ。ポーションの増産も進めようとしているんだ。」
「なるほど。俺は、この後は森に行ってみようかと考えているんだが、何か注意するべきことはあるだろうか?」
「森くらいなら特に無いよ。外周の草原、森、山、それから地下エリアは一通り調査されたけれど異常なしさ。今はその外側を調査中なんだ。モンスターの巣が見つかっているという報告があるね。」
どうやら、ギルドでも認識し、対応に動いているようだ。異人と住民がちゃんと連携できているのなら、それはありがたいことだ。
それにしても、モンスターの巣か。プレイヤーによっていくつかは対処されるだろうが、今後、その影響が森に出ることはあるかもしれない。街にモンスターがやってくるなら、森も通り道になるだろう。
「ユー。この種、変。」
「種か。手に乗せてくれ。」
と、ラフィが何かの種を見つけてきたようだ。手に取ってみたのだが…
「これ、滅び草の種か。薬草の山の中にあってはならない危険物だな。」
「え?ほ 本当だ!なんでこんな所に…」
「この山の感じだと、採取地帯にあったか、後から紛れ込んだのかはわからないな。ただ、3個も出てきたということは、まだまだあるかもしれないか。」
「それは困っちゃうね。この山の中から種、それに、場合によっては芽が出ているかもしれないものも含めて探し出すのは難しいと思うよ。特に種は草の裏側にくっ付いているケースもあるだろうし。」
まぁそうだろう。ラフィが見つけたのは偶然か、はたまた、解放の素材に使ったから記憶があるのか…
そこまで考えて、良い処理方法が見つかったかもしれない。失敗すると薬草の山が消し飛ぶけれど…
「ラフィ、この種と同じ種や草だけを狙って、氷歌… いや、月歌で滅することはできるか?」
「ん?できる。種は、他の草と違う。でも、いいの?。」
「ここにあってはいけない種だから問題無いぞ。あと、この種の影響を受けた薬草も消えるだろうが、それもかまわない。間違って使ったらろくなことにならないだろうし。」
「え?それってどういうことかい?説明が欲しいんだけど。」
「この子は樹木殺しと魔歌を持っていてな。滅び草とその種を死滅させることができると思うんだ。以前、雑草刈りで雑草だけを滅することができていたから、たぶん大丈夫だと思う。」
「なるほど。魔歌なら隅々まで届くということか。一応、鑑定させてもらっていいかい?」
「かまわない。」
今回使用するのは「月歌」で攻撃属性を持つ「波月」だ。「滅び草の種」は氷属性素材なので、「氷歌」よりも確実に効果が出るだろう。
「なるほど。魔力制御もしっかり育っているね。それなら、ぜひお願いするよ。」
「だそうだ。ラフィ、みんなを不幸にする草と種だ。この草の山から滅ぼしてくれ。」
「ん。」
そして、ラフィの魔歌が部屋中に響き渡った。実験のため、1個だけ持っていた種は、溶けるように消えていった。なお、残り2個はインベントリーに格納したので無事だ。
「おぉ!あちこちから消滅の光が出ているね。ちゃんと効いているみたいだよ!」
どうやら、この方法で薬草や種を枯らすと光が出るらしい。そういえば、雑草も光に包まれて消えていったと言っていた気がする。
なおブレイオによると、1山に1つか2つは光が灯っていたようだ。そんなに滅び草が群生しているとは思えないし、それぞれの山に分散しているのも不自然だ。たぶん、仕込んだヤツがいるのだろう。
「ほ~い、薬草と人の追加だよ~。って、何しているのかな?」
「ん?あぁ、リーネさんか。薬草の山に、滅び草が混じっていてな。1山に1つか2つだそうだ。」
「なるほど。それで魔歌か~。となると、受付で受け取ったものだけれど、こっちに出してみよう。」
「主人。リーネ殿の山からも光が出ている。」
「あぁ、これは怪しいね。ちょっと調べてくるよ。」
「それなら幻影無効を付けておくな。偽装は看破で何とかしてくれ。」
「お、さすがユーさん。幻影も上位になると手ごわいから助かるよ。」
その後、俺たちは仕分けを続けた。当初、20個近くあった山も、ブレイオ、ラフィの協力を経てキレイに片付いた。ラフィにも鑑定が生えたので、仕分けの速度が上がったことも大きい。