12-11 迷宮を囲む森

改定:

本文

「ユー様、おはようございます。」

「おはよう、ナビー。今日は外周にある森に向かうぞ。先導してくれ。」

「了解しました。迷宮都市の西出口から森へ向かいます。こっちです。」

今日はイベント開始から8日目だ。ここから2~3日ほどは、レベル上げに取り組みたいと考えている。

それと、イベントの進捗について、まとめウィキも調べてきた。結果としては、今いる327サーバーの攻略状況は順調なようだ。

昨日時点では、素材不足が原因で物資が不足していたそうだ。それで、採集職や生産職を護衛するクエストをこなしたことで、改善の見込みが立ったらしい。

「おはよう、ユーさん。森に行くんだよね?」

「だな。あと3日で、できるだけラフィのレベルは上げたい。それに、祈祷術も進化させたい。復活系が来るのは中級らしいからな。」

「了解。なんだけど、ちょっとギルドには顔を出していいかな?状態の確認はしたいから。」

「なるほどな。ただ、行くとたぶん仕事が降ってくるぞ。」

「まぁ、そうかもね。じゃ、今7時だから、一緒にギルド行くとして、その後は8時30分に西門に集合しよう。」

「了解だ。一緒に動けるとも限らないし。」

結局、ギルドに寄ることになった。そして、リーネさんは状況の確認、俺は、浄化依頼を少しこなすことになった。

「助かったよ。インベ整理ができたから、またダンジョンに通える。」

「あぁ、もうすぐ折り返し、みたいな感じか?」

「そうそう。一週間潜り続けたら、けっこう貯まっちゃってね。」

「潜るのはいいが、3日以内には出てきた方が良いかもしれないぞ。」

「あぁ、レイドだよね。わかってるよ。というか、ダンジョンの残り時間が72時間切ってるから、ちゃんと出てくるよ。」

「なるほど。レイドをダンジョンの中でやり過ごすのは許さない… といった所か。」

「だろうね。問題は、ダンジョンが消える時、または消えた後にどうなるか… かな?」

どうやら、稼ぎ用のダンジョンは、レイドイベントに合わせて消滅してしまうようだ。つまり、ダンジョン内の調査を進めるなら、あと3日で決着させなければならないのか。

まぁ、そういうのはダンジョン通いをするプレイヤーに任せよう。俺は依頼を終えた後、ナビーの先導に従って待ち合わせ場所へ移動、そして、森へと進んでいった。

「西の森 に入りました。」

迷宮都市の西門を出ると、すぐに森になった。木々の匂いもするし、木があちこちにあるという圧迫感も感じる。「ヒッツの森」ほどの密度は感じないが、さてはて…

とりあえず、ここでブレイオとラフィも召喚しておく。今日からはここが狩場になるからな。

「主人。ここは、森か?迷いの森とは雰囲気が違うぞ。」

「ここは、迷宮都市の西側にある森だ。今日からは、ここで修行するぞ。」

「ん。森、モンスターの気配が濃い。」

「狩りつくす勢いでもかまわないと思うぞ。まぁ、狩っても湧いてくるだろうけどな。」

「確かに、ラフィちゃんの言う通り、モンスターの気配が濃いね。」

まとめウィキ情報によると、以下のモンスター出現が確認されているらしい。ギルドにも情報はあったようだが、共有しておく。

メージラビット: N3 でもいた兎。

アルマジロン: 以前「獣と水生の回廊」で出てきたと思う突進してくるアルマジロ。よく木にぶつかって音を立てるので、索敵しなくても見つかるらしい。

フォレストベア: N3に登場した「キトルベア」の親戚らしい。

地を這う茂み: E2 などで倒した植物。レベルアップに伴い、突進したり葉っぱを飛ばしてきたりもするらしい。

寄生花: 地面や木などを伝って移動し、絡みついてからの吸血攻撃をしてくる。ブラッディローズと違い、どこを攻撃してもちゃんとダメージが通る。

トレント: N3 で倒した木。これだけ木があれば、そりゃ一本や二本あるだろう。なお、レベルアップに伴い、縛系や波系も使ってくる。

プチ妖精系: E4 などで戦った系統。森だからか、土、水、木などの属性が多いとのこと。

森妖精: 本来は E6 に出てくる厄介な敵の一種。秒間1%の自然回復、拘束技、ドレイン、おまけに光合成による自己回復を用いて、しぶとく耐えてくる。ただし、本来は「もたついている間にお供が増えてヤバい」系統なので、この森で遭遇する分には、そうでもないと思われる。

では、狩りを始めよう。俺たちは、交通路から外れて、てきとうに散策を始めた。

「ん?根っこが近づいてくる。」

「あぁ、規制花だね。ラフィちゃん、行ける?」

「ん。どこでもいいから切ればいいなら倒せる。」

程なくして第1モンスター、規制花を発見したので、そのまま応戦したようだ。

「寄生花を倒した。ラフィは経験値186を獲得しました。」

ちゃんと、「経験の腕輪」が仕事をしているようだ。経験値が1.5倍くらいに増えている。

と、遠くの方で、何かがぶつかる音が聞こえた。戦闘中だろうか?

「ぬ。アルマジロンとかいうモンスターではないか?丸みのある物が木にぶつかった。」

「おっと。そっちか。見えたら迎撃な。突進には注意だ。」

「ん。それよりも、小さな魔力がこっち来てる。たぶん、妖精。」

「見えてるよ。プチウォーターとプチグリーンが3匹かな?」

「心得た。ラフィよ。緑の妖精を見つけたら氷の魔法を使うのだ。」

「ん。植物、寒さに弱い。」

どうやら、エンカウント率はわりと高いようだ。レベル帯は、第4~第5の中間くらいなようなので、少なくともキトル山の北部か、それ以上はあるんだろう。

とりあえず、索敵からの撃退が回っているようなので、俺にやることが無い。祈祷を繰り返しながら、周辺の木々に触れてみるとしよう。

ナビーの協力も得つつ確認した結果、木々は、密集している所と、斑に生えている所があるようだ。また密集していると言っても、隙間はあるようで、人一人くらいは余裕で通れるようだった。

なお、木を鑑定した結果は「迷宮都市の魔樹」というものだった。一応、ここがダンジョンの中なので、その辺りの影響を受けて変質しているのかもしれない。

当然、木材の方は現在進行形で増えている。俺も含め、みんな完全に放置しているが、おくたんが、どこかで元気に伐採している。

と、体中に何かが絡みついてきた。触れてみると弦だったので、トレントかプチグリーンフェアリー、あるいは、森妖精が近くにいるようだ。

とりあえず、弦は排除しておく。陣気を使うと破壊できるようなので、このまま弦しか出してこないなら待っているのが良さそうだ。

「オォォォォ!」

そのまま弦に対応していると、途中から何かがぽふぽふし出した。そして、前方からトレントの声がした。たぶん、枷の報いでキュってなったはずだ。

と、何かが体に触れた気がした。ぽふってなったけど。なので手を伸ばしたら…

森妖精:

種族: モンスター・妖精

レベル: 23

HP: 100%

状態: 敵対, 真理の枷+13

説明: 森に生息する妖精の一種。森に踏み込んだ外敵を捉え、成長の糧とする。また強靭な回復力を備えているため、一度捉えられると容易には逃げだせない。

正面にいたのが森妖精だった。この距離にいるということは、外側を弦で覆うなどして囲んでいて、あとは俺を養分にするだけ… といった状態だろう。

そして、認識した影響か、束縛と、何か吸われている感覚もし始めた。だが、密着しているならコレだ!

俺は「気送」で気を森妖精に流し込み、そして「気爆」発動!これにより、前方でボン!という爆発が起こり、束縛が解かれた。で、まだ生きているようなので、掴んだ状態から投落!

「森妖精を倒した。ラフィは経験値356を獲得しました。」

一方、こちらはラフィ。

昨日はお風呂の中に森が出て来たり、海が出て来たりして面白かった。それもダンジョンの不思議なのかもしれない。まだ行ったことのない場所もたくさんあることを知って、いつか行ってみたいと思った。

そして、今日からは、みんなで新しい森に来た。見たことが無い木がたくさん生えているが、感じたことのないモンスターもいる。

今日からは、ここで探索と鍛錬をするそうだ。ユーも、最近は祈祷という儀式魔法をずっと使っている。あんなに強いユーでも、鍛錬をしていることには驚いた。

「ねぇ、リーネ。ユーは強いのに、なんで鍛錬をするの?」

「う~ん。アレは、楽しいからじゃないかな。自分が強くなる感覚や、それを使って、新しい所に行ったり、やったことの無いことをしたりするのが楽しいんだと思うよ。」

「鍛錬、楽しいの?」

「我も強くなることには心躍るぞ。ラフィも、歌ったり踊ったりすることは楽しいだろう。それに、雪遊びだって鍛錬だぞ。」

「遊びも鍛錬…」

「まぁ、遊びと鍛錬を両立できているということだよ。ラフィちゃんは、好きなようにすればいいんじゃないかな?」

「ん。私も、鍛錬と遊び、楽しい。」

つまり、ユーは、楽しいから鍛錬をしているんだ。祈祷もきっと楽しいのかな?

「ぬ。ところでリーネ殿。主人はどこだ?」

「そういえば、ユーさんを置いてきちゃったね。まぁ、何ともないんじゃないかな?」

「ユーのお祈り、あっちから来てる。」

「一応、行ってみようか。」

そして、向かったら大変なことになっていた。

ユーが、何か大きな木の中にモンスターと一緒にいた。

「あっ!アレは森妖精だね。しかも、どう見てもドレインされてる!」

「主人は襲われているのか!」

「リーネ。ユー、大丈夫?」

「昔戦ったことはあるけれど、あんな風になると抜け出すのは大変だよ。って、うわぁ~!」

「あ、妖精、爆発した!」

「え!アレ何!もしかして、ユーさんに攻撃すると、あんな風になるようになったの?」

一方、こちらはユー。

「ユー。生きてる?」

「お、ラフィか。森妖精に絡まれてな。それと、トレントがまだ近くにいるから探して狩ってもらえるか?」

森妖精を処理したと思ったら、ラフィが抱き着いてきた。ただ、トレントが残っていると思うので、先にそっちの処理をお願いしたい。

「ん?トレント、いない。」

「いないね。もしかして、勝手に弾け飛んだんじゃないかな?」

「そうか。とりあえず心配かけたようで悪いな。」

どうやら、俺が森妖精に束縛されている所に到着したらしい。こればっかりは、離れていたので仕方ないことだと思う。

「ま まぁ、無事でよかったよ。それに、森のモンスターじゃ、どんなにがんばってもユーさんを殺せないってわかったから。」

「ん。ユーは、やっぱり強い。安心。」

「レベル20代のモンスターには負けていられないな。まぁ、森妖精が3匹くらい群れたらヤバいかもしれないけどな。」

「それ、普通に誰でも死んじゃうやつじゃないかな?」

「リーネさん。残念ながら、イールの深部だと普通に出るらしいぞ。お供付きだそうだ。」

「あぁ、うん。そっか。いずれは挑む気なんだね?」

「あぁ。イールの東には峡谷の街がある。クライミングが楽しめるかもしれないぞ。」

なお、リーネさんが「爆発」と言っていたので話を聞くと、「気送」からの「気爆」を、「裁定」関連の技だと思い込んでいたらしいので正しておいた。結果、「ユーさん、とうとう組み付き攻撃でも倒せなくなったんだね!その内、全攻撃無効になっちゃうのかな!」などと言われた。