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「ユー様、おはようございます。」
「おはよう。ナビー。とりあえず冒険者ギルドで状況の確認をするぞ。先導してくれ。」
「了解しました。冒険者ギルドはこっちです。」
イベントも10日目になった。
一昨日、及び昨日は、森での狩りとレベル上げに充てた。あと、浄化や仕分など、ギルドでの仕事も良い感じにこなした。
おかげで、全員が「森の心」を得ることができた。そして、ラフィも、レベル30まで上がった。
それと、俺のレベルも 35 まで上がった。プレイヤーたちが高レベルの呪われたアイテムを持ち込むので、浄化で少しずつ経験値が積もっていった影響だ。まぁ、プレイヤー側の平均レベルは 37 らしいので、俺たちは弱いわけだが…
今日は、余裕があるならダンジョンを覗いてみよう?と考えている。ただし、明日がレイド本番なので、もっと優先するべきことがあるなら、そちらに対応するべきだろう。このイベントに挑んだ目標は既に達したのだから。
「アレ?ユーさんだ!」
と、一週間近く前にあった人の声がした。どうやら、ちゃんとレベル30代に乗ったようだ。
「アヤさんか。イベントいたんだな。」
「うん。昨日からの途中参加なんだ。」
「俺も途中参加組だな。ラフィの育成が一段落着いた所だ。」
「そっか。あ、もしかしてラフィちゃん進化したの?」
「進化したぞ。そういえば、進化後のラフィは見ていなかったな。」
「うん。後で見せてよ。」
「かまわない、と言いたいが、予定しだいだな。俺はとりあえずギルドに行って、今日をどう過ごすか考える所だ。アヤさんはどうするんだ?」
「私もギルドに行ってみようかな?って考えてるよ。その後のことは決めてないんだ。」
ということで、二人でギルドへ向かうことにした。なお、ナビーによると、リーネさんは既にギルドにいるらしい。
で、道中で情報交換をしたわけだが…
- アヤは、二次職として「造形師」を獲得。雪遊びの影響で、立体的な絵にも興味が出たようだ。なお「造形師」は、アステリアも持っている、何かを加工する生産技能全般に補正のある生産職だ。
- 昨日は、街中と草原エリアのスケッチを楽しんだ。なお、その他の地域にも興味はあるが、モンスターが多いと聞いたので、対応を思案中。
- レイドイベントについては全く知らない。ヒマランであった防衛戦みたいなのが近いのかな?という認識。
「え?ダンジョンと、外周でそんなことになっていたんだ。」
「プレイヤーと街とが一体になって、準備を進めているようだぞ。ちなみに、ダンジョンは明日には入れなくなるらしい。」
「そっか~。じゃ、街の外周に出るのって、危ないかな?」
「その辺りも含めてギルドで確認だろうな。ちなみに、森なら、虫除け薬を使えばエンカウントはだいぶ減らせると思うぞ。一方、山と地下道は、中級虫除けが無いと厳しいと聞いてる。」
「迷宮都市 冒険者ギルドへ到着しました。入口はこっちです。」
そんな話をしつつ、冒険者ギルドへ到着。そのまま、ナビーの先導に従って入った。
「おはよう。おや?カップリングかな?」
「え?リーネさんもいたんだ。あ、おはようございます。」
「宿の食堂で発見されてな。情報交換しながらここまで来た所だ。」
「ユーさんモテモテだね~。女の子ばかり引っかけて。」
「そうかもな。男の友達はいるが、ここでは会えていない。」
俺が、これまでに会ったことのある男性プレイヤーで、名前を知っているのは以下の通りだ。残念ながら、彼らは皆俺よりもレベルが上か、サーバーが違うのだろう。
- トーラス: ソルットの食堂で出会い、中級武道着をくれた。きっと、S8辺りまで進んだか、他地域にいるんじゃないだろうか?
- 餃子饅: お世話になっている料理プレイヤー。初めてソルットで出会った時、既にレベル60オーバーだったと聞いている。
- アステリア: ウィキ住民兼総合生産職。ブレイオ育成時に鑑定させてもらった時が レベル35 だったので、 レベル40 を超えているかもしれない。あるいは、イベント初日から潜っていて、サーバーが違う。
- ノンター: ホムクで、おくたん用の生産具を作ってもらった推定男。街を拠点にしている上級鍛冶師なので、レベル40を超えていると思われる。
- ルーウェン: 特級結界師。ここにいたらバグを疑うレベル帯。
なお、名前を知っている女性プレイヤーについては、アヤとカナミーだけだ。当然、カナミーはレベル帯が違うのでここにはいないだろう。そうでなくてもサーバーが違うはずだ。
ここまで整理すると、俺がゲーム内で一番交流のある人って、リーネさんになる気がする。懐かれた… いや、狼獣人であることを考えると、「マーキングされた」というのが正しいだろうか…
「それはそうと、ユーさんがここに来たのは、明日に向けた現状の確認だよね?ばっちり調べてあるよ。アヤさんも聞く?」
「え?あ、はい。お願いします。」
その後、現状の確認と、まとめウィキ産情報を基にしたすり合わせを行なった。結果、以下の通りとなった。
- モンスターの間引きや、巣の解体作業は順調に進んでいる。また、効力が一日保つ強力な魔除けを設置する作業が進んでおり、たとえモンスターが攻めてきても、侵入経路をある程度制限できる予定。
- 物資の生産は順調。また現在、低レベルの戦闘職を自衛できる程度までレベルアップさせる取り組みが進められている。目標レベルは、森で活動できる レベル20 であり、これは達成できる見込み。
- かつて、この街で発生したスタンフィードの引き金になったとされる大悪魔とその僕たちが仕掛けてくるのではないか?という分析が進められている。実際、「滅び草の種」の件も含め、悪魔系モンスターによる暗躍が見つかっており、プレイヤー、住民による連携で排除している。
- 古い記録によると、件の大悪魔は、禁呪指定の闇属性魔法を使い、街中を闇に飲み込んだそうだ。その闇を取り払うために使われた当時の魔法陣を復元する作業が進んでいるらしい。
「魔法陣… 私、手伝えるかな?」
「かもな。手伝うことが無くても、見に行くのはありだと思うぞ。」
「うん。ユーさんはどうするの?」
「今日は、ギルドで缶詰かもな。ダンジョンから戻ってくる人が多いだろうから、きっと呪われたアイテムで溢れそうだ。それと、薬草の山がまたできているらしい。」
「だねぇ。ユーさん、がんばってね。」
「あ、そちらにいるのは、滅び草の人でしたね。応援に来てもらえますか?」
と、呼ばれたようだ。7日目の滅び草事件のインパクトか、「滅び草の人」という呼ばれ方をするようになってしまった。まぁ、ここもダンジョン扱いだとすれば、あと2日で消えるのだ、放置で良いだろう。
「とりあえず行ってくるな。あと、リーネさん… アヤさんもか。精神異常無効と、幻影無効も付けておくな。」
「あ、助かるよ。」
森でのレベル上げでは、「裁定」技能も育った。「真理の守り2」を得たことで、付与できる効果が2つに増えたのだ。
「暗躍している悪魔」とやらが、今日も何かをするかもしれない。なので、二人にもちゃんと備えておいてもらおう、といった所だ。実際、リーネさんはこの効果を使って、数匹ほど悪魔を倒しているらしいからな。
そして、俺は職員に連れられて、いつもの仕分け室に向かっていったのだが…
「条件を満たしたため、フィールドが変化しました。」
「来たか!裁定者よ。」
確か、カナミー、運営の人、それからトマに呼ばれた気がする。で、フィールドが変わったらしい…
「ククク!安心してもらおう。ここには薬草は1つも無いぞ。」
「どう安心したら良いかわからないな。で、裁定者とやらに用があるあんたは誰だ?」
「我は、この地を統治する者、アンデール様の僕。貴様らの言葉で言うなら悪魔ということだ。」
「ずいぶん親切だな。で、その悪魔が俺に何のようだ?」
「クク!貴様には我々の計画を邪魔されているのでな。ここで葬ることにしたのさ。」
どうやら、まだまだギルドの中には刺客がいたようだ。あるいは、今日出てきたのかもしれない。
「計画か。その、アンデール様とやらを降臨させて、この街を闇に沈める… といった所か?」
「クハハ!賢い者は良い。今宵の月が沈む時、我々は支配者と共に、再びこの地に戻るのだ!」
「戻るのはいいが、真っ暗だと不便じゃないのか?」
「フン、それは貴様らだけのこと。我々は違うのだよ。」
「なるほど。まぁ、戻れるといいな。言っておくが、俺一人をどうこうしても、状況が簡単に変わるとは思わないぞ。」
「知れたことを。貴様らに仲間がいるように、我らにも仲間はいるのだ!」
「その辺はしっかりしているようで何よりだ。それにしても、ずいぶん会話してくるのな。」
「それが貴様の危険性よ。裁定者は虚実を許さない、知っているぞ!」
確かに、俺を相手に虚偽を放つと、真理の枷が返ってくる。その点では、暗躍して事を成したい側からすると、俺は危険人物だろう。
「あとは冥途の土産だ。裁定者とはいえ人族。我が消し去ってくれよう!」