12-16 迷宮都市大集団戦、草原を包むラフィの歌

改定:

本文

「迷宮都市に続く草原 に入りました。」

時刻は午前3時…

俺たちは、作戦実行のため草原にやってきた。

迷宮都市の北出口から普通に入ったわけだが、地面が脛の辺りまである草になった。アヤの話によると、交通路は無くて、とにかくこの地面がずっと続いているらしい。

「今は静かだね。普通に弱いモンスターがうろついているみたい。」

「そうか。やはり、月が沈むまでは大人しくしているんだろうな。」

「えっと。リーネさん、大丈夫ですよね?」

「まぁ、この様子なら大丈夫じゃないかな。でもユーさん、私が死んだら復活させてね?」

「リーネさんが死ぬような状況な時点で、逃げ一択だと思うけどな。それより、この石の扱いには注意して欲しい。何しろ音がよく響くからな。」

俺は、今回の作戦のキーアイテムをリーネさんに預けた。

魔力増幅の響音石:

種別: スポットアイテム

説明: 音を遠くまで届けるために用いられる石。特定の方向から発せられた音、及び、それに含まれる力を、減衰させることなく広げることができる。

識別: 特定方向からの音響効果を増幅して伝える。音の減衰効果抑制(大)。

形状は、内部に空洞のある丸みを帯びた石だ。空洞部分が渦巻のようになっており、音を増幅して響かせる力が強いそうだ。

そんな石をアヤに加工してもらったら、上のアイテムになった。音の減衰を抑える効果を「小」から「大」まで増やしちゃった。

「じゃ、行ってくるね。」

「あぁ。時間はあるから、行きはゆっくり、帰りはダッシュで頼む。それと、罠を踏まないようにな。」

リーネさんを送り出した。まぁ、彼女の能力なら、設置作業の方は問題無く進むだろう。

さて。時間までは暇なので、MPを使い過ぎない程度に修行をするとしよう。パーティの都合で、俺は草原から脱出できないからな。

こちらは、リーネ…

ユーから預かった響音石を設置しながら草原を直進。現時点での設置作業は順調だ。1時間もかからずに、7割ほど終わったからだ。

これは、今回の作戦決行に当たり、この草原の正確な地図をもらっていることが大きい。現在、この地域で「参謀」と呼ばれている異人が作成したもので、設置した罠の情報などが記されているものだ。言うまでもなく、今回の作戦における最高機密の一つだろう。

さらに設置を進め、残り20分という所で、予定の場所まで到達できた。草原の北端には近づいているが、まだ2kmくらいは離れている。

しかし、ここまで来たことで、その北端に、大集団特有の気配を感じることができた。これだけ離れているというのに、「危険感知」技能が反応している。

感じられるモンスターの数は、やはり数万の規模だが、まだ増えているような印象だ。それと、それらを束ねる上位のモンスターもいるようだ。私の技能が危険だと教えてくれているのは、おそらくそれらの軍勢が複数存在していることによるのだろう。

個人的に興味を注がれる。しかし、戦いは後から存分にできる。そう言い聞かせ、私は来た道を引き返していった。

来た道を戻っている途中で、南の方から声が聞こえてきた。それは、最近までずっと聞いていたラフィちゃんの歌声だった。

その声は私を冷静にさせた。そして、この作戦が正しく決行された、ということを理解できた。周囲にいたモンスターの殺気が緩慢になっていったからだ。

あと、少しすると、その音がどこから聞こえているのかがわからなくなった。これなら、この草原に入っただけで、歌の効果を受けることになるだろうし、響音石を見つけ出して排除することも難しくなるだろう。1個や2個排除した程度では収まらないように、たくさん置いてきたのだけれど。

しばらくすると、北部から地震のような音と、危険な気配が近づいてきた。あの大集団が動き出したと見て間違いないだろう。

私は、後方を警戒しつつ、合流地点へ戻るべく駆けだした。モンスターの大集団が都市へ向かってきていることはほぼ確定したからだ。あとは、ラフィちゃんの歌が有効に機能することを祈ろう。

道中、冒険者パーティやギルド職員が見られたので、声をかけた。結果、独立して群れに向かった先遣隊、あるいは、斥候のようだったので、現状を共有しておいた。

こういうやり取りをしていると、大集団との戦闘が本格的に始まったということを実感できる。なお、ラフィちゃんの歌について問い合わせがあったので、支援効果の歌であることと、響音石を壊さないようにと伝えておいた。

少し巻き戻って、こちらはユー。

「ユー様。時刻は4時50分です。」

ナビーからのお知らせが聞こえてきた。ぼちぼち作戦決行だ。

なお、既にプレイヤーや住民たちが出撃を始めている。なぜか、俺の所に来て、間に合わなかったアイテムの浄化をさせられたりもしたが、ちゃんとモンスターを駆逐してくれるなら問題無いだろう。

「ラフィ。喉の調子はどうだ?」

「ん?なんで?」

「昨日言った通り、お日様がはっきり見えるくらいまで、歌い続けてもらうからだな。人類の喉は、そんなに万能じゃないんだ。」

「そうなの?人、大変。私は問題無い。」

「それは良かった。お前の歌で、俺たち、それから、この街を助けてくれ。」

一応確認したが、やはりゴースト。人類だと喉がどうにかなりそうな長時間の歌唱でも、平然と続けられるらしい。

と、何かが俺の首の辺りに触れてきた。その手を掴んだら、ラフィの手だった。

「どうした?」

「ユーは、喉、大丈夫?」

「体も含めて万全だ。問題無いぞ。」

「ん。じゃ、歌う。」

どうやら、俺の喉を心配してくれたようだ。まぁ実の所、俺も「効果変換(欠損)」を持っているので、喉がどうにかなることは無い。「死に戻れば回復する」という最終手段もあるからな。

それはともかく、ラフィの歌唱が始まった。今回、歌を届ける対象は無差別だ。誰が聞いても損にならないからな。

そして、作戦開始から30分ほど後、リーネさんが戻ってきた。

「あ!リーネさん戻ってきたよ!」

「ほ~い、ただいま~!」

「お帰りだ。何か飲むか?」

「あぁ、そうだね。今の内に満腹度は戻しておくべきか。」

「食べながらでいいから、北の様子を教えてくれ。ここから参謀に伝えられるんでな。」

「ユーさん、お姉さん使いが荒いな~。まぁ、急ぎだから仕方ないんだけどね。」

その後、リーネさんより状況の報告を受けたので、以下のように要約して、リョーマへフレンドチャットで伝えた。

  1. 直感と危険感知によって、草原の北に、数万を超えるモンスターの群れを確認。確認時点で群れは増殖を続けており、群れを統治する者の反応も見られた。
  2. モンスターの群れは草原を南下中。想定される敏捷の最大値は80程度で、現在は草原の中央部辺りまで到達していると思われる。
  3. 設置済の罠、及び、こちらで設置した響音石は予定通り維持されている。
  4. 響音石を用いた長距離鎮静作戦は機能中。
  5. 北上する数組のプレイヤーパーティ、及びギルド職員を目視で確認。装備等から、斥候、並びに、先行した独立パーティと思われる。

程なくして、リョーマより返信があった。要約すると以下の通り、概ね順調なようだ。

  1. 北エリアの状況を把握。想定通りで何より。
  2. 現在は、南部の山エリアからの情報を待機中。おそらく想定通りに推移していると思われる。
  3. 迷宮都市内は、今の所正常。冒険者ギルド、ダンジョンのある広場などを警戒させつつ、住民の避難を開始している。

俺は、受け取った返信をアヤ、リーネさんに伝えた。

「街は大丈夫なんだね。よかったよ。」

「ところでユーさん。私たちはずっとここでいいのかな?たぶん、さっき出撃していった集団でモンスターは全滅しちゃうと思うよ?」

「ラフィの歌唱を切らすわけにいかないからな。それに、この歌を断つために、どうにかして抜けてくるヤツがいるはずだ。あと空からも来ると思うぞ。」

「え?あ!本当だ!空に何かいる!」

「数が多い。狩りつくして良いのだな?」

「もちろんだ。アヤさん、バフを頼む。俺は、真理の道な。」

「あ、うん。戦いの印!ファイアフォロー!」

やはり、空のモンスターもいるようなので、広雷を発動。結果、そのまま倒したり、マヒして地面に落ちて来たりして、俺たちもちゃんと戦うことになった。

俺は相変わらず祈祷… と思ったら、上から何かぽふってなったり、正面から何かぽふってなったりした。たぶん、上のは、ブレイオの広雷で落ちてきたヤツ、正面のは、普通に突っ込んできたヤツだろう。

悪の魔長:

種別: モンスター・鳥・悪魔

レベル: 30

HP: 86%

状態: 敵対, 真理の枷+4

説明: 悪魔の眷属であり、悪魔と魔鳥との間に生じた混血種。鋭く、闇をまとった翼や、牙で攻撃してくる。また、恐怖をもたらす音波を発することもある。

識別:

体力: 15

魔力: 60

筋力: 90

防御: 15

精神: 30

知性: 150

敏捷: 60

器用: 60

属性: 闇, 風

弱点: 光

上記の鑑定結果は、正面からぽふってなった方のモンスターだ。鳥のくせに、広雷があまり効いていない!と思ったら納得。聖拳一発で簡単に沈んだ。

「リーネさん!魔鳥がラフィに行かないようにしてくれ。あと、精神異常持ちみたいだから、全員に耐性付けるな!」

「オッケー。ラフィちゃんはやらせないよ!それと、幻影無効もお願い!」

言われてみれば、ヌーンアウル… はいないかもしれないが、「陽炎」の魔法を使えるW5のモンスター「サンバード」辺りはいてもおかしくないか。アレは幻影なので、俺以外は耐性が必要だな。

そんな感じで、鳥と、たまに地上からもモンスターが突っ込んできたので、ちゃんと戦うことになった。なお、地上のモンスターは、プレイヤーを無理やり振り切ってきたのか、普通に弱っていたり、毒などを追っていたりした。