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戦闘開始から2時間…
すっかり、こっちに来るモンスターがいなくなった。空のモンスターも来なくなったようなので、ちゃんと対空攻撃のできるプレイヤーが揃ったか、さっきので種切れになったと思われる。
ひとまず、リーネさんに草原の様子を見に行ってもらっている。
「あ!街の方、なんか黒い雲みたいなの降ってきてる!」
「黒い雲が降ってくる?」
「うん。なんか、だんだん大きくなりながら降ってきているよ。どれくらい大きくなるのかな?」
街の方でも動きがあったようだ。確か、今日の朝7時で、稼ぎ用のダンジョンが消えたはずだ。それと関係があるのだろうか?
「アヤは、見に行くか?こっちは、今の様子なら問題無さそうだからな。」
「あぁ、大丈夫だよ。ここからもよく見えているから。あ!魔法陣から光が出てる!」
「魔法陣の光というのは、例の、闇を取り払う魔法陣でいいか?」
「たぶん。今光が出ている所、一緒に治した所にあったんだ。」
「つまり、大悪魔アンデールが街中に出てきた… のかもしれないか。あるいは、空から降りてきているのかもな。」
「う~ん、どうだろう?今は雲しか見えないよ。」
とりあえず、外の様子をリョーマへ報告しつつ、情報を求めてみよう。それどころじゃないかもしれないけれど。
「おぉ!なんか、都市が凄いことになってるね。」
「あ、リーネさん!草原の方、どうでした?」
「予想通り、モンスターの方は落ち着いてきたよ。今は、あちこちで掃討中。それと、鎮静の歌はまだ続けて欲しいってさ。」
「そうか。なら仕方ない。現状維持だな。」
「そうだね。とりあえず、近場のモンスターを狩ってくるよ。ブレイオちゃんも行く?私の見立てでは、土魔法の使い手はいなかったよ。」
「主人。行ってきても良いだろうか?」
「そうだな。アヤさん、ラフィを守ってもらえるか?」
「ん?いいよ。ここから街を見ていたいから。」
鎮静の歌は、予想以上に活躍しているようだ。なので、俺はラフィと待機。代わりに、ブレイオとリーネさんを解き放ち、相当してもらうことにした。
そうして待っていると、リョーマから返信があった。要約すると、以下の通りだった。
- 現在、都市内に「アンデールの僕兵」というモンスターが複数出現しており、リョーマ自身も含めて戦闘中。
- 僕兵たちの出現場所から、その狙いは、魔法陣や司令部の無力化と考えられる。
- 上空にある雲の内側に巨大な悪魔が見えており、ダンジョンのあった広場に向かってゆっくりと降下中。まだ鑑定はできていないが、アンデール本体の可能性あり。
- 挟撃を割けるために、草原、及び山に入ってきたモンスターは殲滅して欲しい。
と、横から何かぽふってなった。流れ弾でも飛んできたのだろうか?
「見つけたぞ!貴様の眷属だったか!」
「え?いきなり何か出てきた!」
「我はアンデール様の僕兵。魔歌を操る者を従えるとは、人の子にして驚嘆に値する!だが、ここで消えてもらう!」
うん。どうやら、昨日戦ったのとは違うアンデールの僕兵が、こっちに来たようだ。そして、ターゲットはほぼ俺であるようだ。まぁラフィを召喚している以上、俺をどうにかしないと復活できちゃうしな。
あと、アヤの話だと、この近くに潜伏していたか、空をフラフラしていて、ようやく見つけた!といった所だろう。
で、戦いが始まったのだが…
「グッ!な なんだ!貴様!なぜ通らない!」
戦闘開始直後、あっちこっちから何かが飛んできてぽふぽふされた。魔法の弾幕に晒されたのだろうか?と思っている間に、ヤツに最初の「枷の報い」が発動した。
で、捕まえて、連気拳、超聖拳と繋げた所だ。なお、アヤから、「戦いの印」と「熱縛」をかけてもらっている。
アンデールの僕兵:
種別: モンスター、悪魔
レベル: 35
HP: 37%
状態: 敵対, 真理の枷+10
説明: かつて、この地を闇に沈めんとした大悪魔アンデールの僕兵。主の再臨に向けて暗躍を続けてきた。
識別:
体力: 105
魔力: 140
筋力: 87
防御: 52
精神: 87
知性: 52
敏捷: 70
器用: 70
属性: 闇
弱点: 光
野生のモンスターより強いのは確かだが、いわゆる下っ端なのだろう。昨日戦った「アンデールの僕」より弱かった。あと、裁定者に対する認識が無いようだった。
「ククク!貴様、やるではないか!だが、これは破れまい!魔力の逆壁!」
と、奥の手が出てきた。確か、第8か第9マップ辺りの要注意モンスターが使っていたヤツだ。魔力のある攻撃を90%くらいシャットアウトする上に、吸収した魔力を打ち出せるんだったか。
対策は、魔力を用いない武器を用いた物理攻撃だ。それで言うと、今装備している「シザーグローブ+1」はNGだ。魔力を含むダンジョン産武器だからな。
あぁ、なるほど。ここで「魔弾鋼」を使えば良いのか。俺は、トマで購入して、特効目当てに残していた武器「魔弾鋼のナックル」にパージした。これなら、あの壁は対処可能だ。
とはいえ、壁があると何かの事故があっても困るので、きっちり壊しておこう。というわけで、瓦割からの連拳、最後にアッパーだ!
「ぬっ!ぬぉぉぉぉぉ!」
壁破壊適性の高い「瓦割」の一発で、「魔力の逆壁」はパキーンと割れてしまった。そして、壁を張った耐性で固まっていた僕兵を、連拳でボッコボコにし、最後に殴り上げた。
「アンデールの僕兵を倒した。経験値630を獲得しました。」
あっさり倒せた。別に「魔弾鋼のナックル」は悪魔への特効は持っていなかったと思うので、こいつが弱かった、という認識で良いだろう。経験値も、アヤと分けたにしては低い。
「わぁ、ユーさんさすが!よくわからないけど、とにかく凄いよ!」
「わからないけど凄いって反応に困るな。まぁいいか。アヤさんは大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ルナーがちょっと大変そうだけど。」
「あぁ。回復できるぞ。出しておいてくれ。」
どうやら、あの弾幕に巻き込まれたのか、アヤのゴーレムであるルナーが危険息まで削られたようだ。なので、武器を戻した上で、「癒の古祈」で回復させた。
「ありがとう。ゴーレムのHPって、魔法で回復できるんだ!」
「いや、ちょっと特殊な魔法だな。一般的な治療魔法だと治せない。」
「あぁ、そういうのあるんだ。あの、インスタントキットだっけ?」
「普通はそうだな。振りかけるだけで回復するから、持っておくと良いぞ。」
「うん。お店で探してみるよ。」
ゴーレムの回復手段は、ラフィなどとは違う意味で特殊だ。
「生物」ではないため、「治療」系統の魔法は効かず、加えて「飲食」も不可能だ。ただし、「薬品」はOKなので、ポーションを振りかけて回復させることが可能だ。
これに対し、ラフィのような系統であるゴースト、アンデッド系は、「治療」に当たる回復手段、及び、ポーションを含む「薬品」カテゴリーがNGだ。ただし、飲食は可能なので、「魔力草」を飲んでmPを回復することは可能だったりする。
「ほ~い、ユーさん、アヤさん、足は付いてるかな?あぁ、でも、ラフィちゃんにも足が付いていたか。」
「あ、お帰りなさい。」
「主人。戻った。」
「戻ってきたということは、掃討も終わって撤収が始まった… という理解で良いのか?」
「さすがユーさん。もう、ラフィちゃんの歌も止めて大丈夫だよ。」
アンデールの僕兵戦からさらに1時間ほど経過した所で、ブレイオとリーネさんが帰ってきた。そして、もう掃討は終わったようだ。
「こっちにも、一対、アンデールの僕兵が襲ってきたが、撃退した所だ。強くは無かったが、対処を間違えるとやられる難敵ではあったな。」
「あぁ、そっちにも来たか。こっちでも近くの人と共闘で一対倒してきた所だよ。正確な数を数えたわけではないけれど、あと何対か抗戦したみたいだね。」
どうやら、あちこちにアンデールの僕兵が現れたようだ。「強くはないが放置はできない難敵」があちこちに現れた…
そこまで考えた所で、声が聞こえてきた。その声は、トマやホムクなどで聞いたのと同じ、耳に直接響くような声だ。
我は、この地に再臨せし者、アンデール!
深き枷から解き放たれ、今ここに舞い戻った。
む。懐かしいぞ、それは古の呪縛か!
だが、やはり人は愚かだ。今の陣は不完全。この程度では足りぬ!
さぁ、人どもよ。抗え!我を楽しませよ!
この闇を破り、我に届き得る刃があるならな!
「超大型ボス 大悪魔アンデール が出現しました。レイドクエストへと移行します。」
「条件を満たしたため、全参加者に対し、一時効果 古の守り4 が付与されます。」
「条件を満たしたため、全参加者に対し、一時効果 途切れぬ物資 が付与されます。」
「条件を満たしたため、全参加者に対し、一時効果 途切れぬ支援 が付与されます。」
「条件を満たしたため、パーティメンバーに対し、一時効果 草木の寵愛 が付与されます。」
「条件を満たしたため、パーティメンバーに対し、一時効果 呪い無効 が付与されます。」
「条件を満たしたため、技能 真理 が成長しました。」
超大型ボス 大悪魔アンデール:
種別: レイドクエスト
勝利条件: 迷宮都市に出現したボス「大悪魔アンデール」の討伐
敗北条件: 戦闘フィールドからの人類の死滅、または、一定数の人類の死亡、または、指定時間の経過。
中位: 戦闘フィールド内で死亡した人類は、5分後に戦闘フィールド外に復活する。デスペナルティとして、復帰後に恐怖状態を受ける。
ついに、大悪魔アンデールが出現し、レイド戦に突入した。
重要な点としては、死んでも比較的容易に復帰はできるが、死亡回数も敗北条件になっていることだ。また制限時間もあるので、プレイヤーには、死亡しないように中位しながら、アンデールのHPを削っていくことが求められる。
それはそうと、なんかヤバそうないろいろも付いてきた。
古の守り4:
説明: イベント限定効果。古の魔法陣4つの復元に成功した。特殊フィールドの影響を削減。
識別: 視界制限緩和(小), 闇属性スリップダメージ軽減(中), 精神異常削減(小), 光属性弱体の緩和(中)
途切れぬ物資:
説明: イベント限定効果。物資の供給を充実させることに成功した。アイテムの耐久度が自然回復する。「迷宮都市」で購入可能なポーション類、及び投擲アイテムに限り、使用から一定時間系か後に補充される。
途切れぬ支援:
説明: イベント限定効果。多くの現地住民、及び冒険者を助け、導いた。筋力、防御、精神、知性、敏捷、器用が上昇(小)。
草木の寵愛:
説明: イベント限定効果。多くの草木に触れ、使いこなした。薬草系統アイテムの効果増幅(極大)。木属性魔法の効果増幅(極大)。木属性耐性上昇(極大)。
呪い無効:
説明: イベント限定効果。数多くの呪いに触れ、浄化した。あらゆる呪いを無効にする。
なかなかの大盤振る舞いだな。まぁ過去のイベントのレイドボスの数値を読んだ限り、「イベントをしっかりこなさないと全く勝負にならない」というバランスなのだろう。「開始直後に耐性貫通付の必中全体石化攻撃が降り注いだ」という伝説もあったらしいからな。
そして、ついでみたいな乗りで「真理」まで成長していた。「裁定」の技能をたくさん使った影響だと思うが、一時効果じゃなくて永続効果となっている。いいのだろうか?