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「あ、街が消えちゃった!あと、夜になっちゃった!」
「圧迫感を感じるね。これが、例の悪魔の力かな?」
どうやら、周囲の風景が変わっていくようだ。街が壊れることを心配することなくガンガン攻撃できる… というのなら良いが、さてはて…
「おっと、みんなに、闇属性耐性、あと、精神異常無効と、幻影無効を付けておくな。」
「あ、うん。ありがとう。でも、どうしたの?」
「どうやら、生身でいると闇の力に侵食されるようだ。HPが減ったり、精神異常を負ったりするそうだぞ。」
「え?この空気って、そんな危ないの?」
「そのようだ。 古の守り を確認してくれ。そこに書いてある。」
「あぁ、なるほど。それじゃ、あまりもたもたしていられないね。」
「だな。ラフィとブレイオは大丈夫か?」
「我は問題ない。だが、濃い闇だ。」
「ん。ごめん。私、動けない。」
やはり、ラフィには厳しいようだ。闇属性が弱点になっているからだな。
「わかった。ラフィは帰還させる。必要な時に呼ぶから、休んでいてくれ。」
「ん?いいの?」
「大丈夫だ。さっきの歌は助かったからな。今度は、俺たちがラフィの分まで働くとしよう。」
「ん。ユー、みんな。がんばって。」
ラフィの送還もできたことだし、俺たちは移動を始めた。
「あぁ、こっちだね。罠みたいなのが地面に仕掛けられているみたい。」
「なるほど。リーネさんは目視で見つけられるのか?」
「いや、これは幻術で隠されていたね。ユーさんが解除しちゃったんだよ。」
「闇と言えば幻術はありそうだったから使ったわけだが、ちゃんと効果があったようで何よりだ。」
「うん。それにしても、薄暗いね。真っ暗じゃないのは、魔法陣のおかげかな?」
「たぶんね。」
俺は、ブレイオに捕まって移動している。ナビーが「現在のマップに関する情報が存在していないため、案内することができません」と返してきたからだ。
そして、移動中のフィールドだが、基本的にまっすぐ伸びているらしい。ただし、道中に罠があるため、避けて移動するために蛇行しているそうだ。
しばらく進んで行くと、遠くの方から戦闘音が聞こえてきた。人の声もしている。
「ユーさん、アヤさん、そろそろ目標が近いみたいだよ。巨大な何かと、集団が戦っているね。」
「そうか。鑑定は、まだ届かないんだよな。もう少し近づくが、流れ弾注意… か。」
「ユーさん。このまま直進すればいいよ。流れ弾なんて、ユーさんが盾になればいいからね。」
「かまわないが、曲射系は弾くなりしてくれよ。」
「もちろん。こんな所で死にたくはないからね。」
どうやら、俺が前に出て、受け止めながら進むことになりそうだ。まぁ、いつ飛んでくるかわからない弾なら、確かに無効化できるだろうし、そうでなくても、俺なら防御力で受けられる、ということなのだろう。
ということで、ナビーに、ただ直進するように指示して、先導してもらうように移動した。リーネさんの話では、とりあえず罠は見えていないそうなので、大丈夫だろう。
で、進んで行くと、前方から何かぼふってなったり、上から何かぽふってなったりした。流れ弾だろう。フレンドリーファイアな可能性もあるんだけど。
「鑑定届いた!巨大な方が大悪魔アンデール。うわぁ~!これは協力しないと無理だね~。」
「あ、うん、私も見えた。え?硬いよ!とっても硬いよ!」
どうやら、二人はアンデールを鑑定することに成功したようだ。もちろん、俺は触れていないのでまだ鑑定できていない。
と、アヤからチャットで能力を送ってもらった。それによると、以下の通りだった。
大悪魔アンデール:
種別: モンスター・レイドボス・悪魔
レベル: 40
HP: 91%
状態: 敵対
説明: かつて、迷宮都市の支配を目論み、封印された大悪魔。都市を包み込むほどの強固な闇の力を操る。
識別:
体力: 800000
魔力: 300000
筋力: 240
防御: 240
精神: 240
知性: 240
敏捷: 60
器用: 120
属性: 闇
弱点: 光
耐性: 闇
このステータスから、「イベントをしっかりこなす」ことが前提のボスであるようだ。本来の俺の能力だと、「溢気法」に各種強化バフを重ねて、ようやくちょっとダメージが与えられる程度になるだろう。そして、HPは通常ボスの100倍近くある。
ただ幸いなのは、既にHPが10%程度減っていることだ。さすがにこのまま進むとは思えないが、戦闘開始から20分くらいしか経っていないので、ペースとしては順調だろう。
「グォォ!」
と、正面から声がして、ぼふってなった。
闇の呪獣:
種別: モンスター・悪魔・獣
レベル: 30
HP: 100%
状態: 敵対, 真理の枷+4
説明: 大悪魔アンデールの瘴気から生じたモンスター。狼のような体を取り、生者を襲い、呪いによって蝕む。
識別:
体力: 75
魔力: 45
腕力: 60
防御: 30
精神: 60
知性: 30
敏捷: 75
器用: 30
属性: 闇
弱点: 光
とりあえず捕まえたので、聖拳を打ち込んだら一撃で沈んだ。単純に弱かったこともそうだが、「大悪魔の討伐者」の効果も乗っているのだろう。
そのまま進んで行くと、同じモンスターにまた正面からぽふってされたので倒した。普通のパンチでも30%くらいダメージが入るようだ。
さらに近づくと、戦闘音がはっきり聞こえるところまで来た。そして、上から何かぽふってなった。手を伸ばしたが、掴むことはできなかった。
その後、前方から何かぽふぽふとぶつかった。連続攻撃か!と思ったら止まった。連続ではないようだ。それとも、止めちゃったのだろうか?
仕方がないので、さらに進んで行くと、弾力のありそうな何かに触れた。触鑑定の結果は「大悪魔アンデール」だった。巨大らしいので、もしかしてこれが足だろうか?
どうやら、いろんな攻撃を無視して、近くまで来てしまったらしい。「真理の枷+17」になっている。
こちらはアヤ…
ついに、大悪魔アンデールが見える所までやってきた。
その姿は、怪物だった。目測の全長は100メートル以上… 太い触手のような腕が20本以上あって、伸びたり縮んだりしている。足はあるようだが、人に囲まれていて詳細は見えない。あと、怪獣のような顔から、闇っぽい何かを吐き出している。
「アヤさん。スケッチもいいけど、周囲に気を付けて。時より呪獣というモンスターが出てくるし、流れ弾も来るよ。」
「うん。そっちはルナーに任せているから大丈夫だよ。」
「あぁ、うん。そうだね。それにしても、ユーさんは相変わらずだね。」
先ほど、ユーさんが大悪魔の攻撃を全部跳ね除けていった。衝撃波のようなものもあって、周りの人々が吹き飛んでいたのに…
でも、ユーさんが不思議なのは今に始まったことじゃない。むしろ、ちゃんと悪魔の所に行けるかな?途中で迷子にならないかな?といったことが心配になるくらいだ。一応、まっすぐ進んでいるし、アンデールはその場から動いていないので、大丈夫だと思うのだけれど…
「うわぁ~!何あの枷、ビッグサイズだよ!」
と、アンデールの体に、輪っか状の枷が挟まった。とても痛そうだ。
アレは、ユーさんの能力だ。大きなモンスターだと、大きな枷が出てくるのは知っていたけれど、あそこまで大きいとびっくりだ。
そんなことを考えながら集中して、ようやくスケッチができた。この風景は、たぶん一度しか見られないと思うから、いい思い出になると思う。
「ぬ。空に大群か。我が滅しよう!」
と、空を見たら、モンスターの大群ができていた。空からも襲ってくるんだ!
でも、こっちにはユーさんが置いていったブレイオちゃんがいる。ブレイオちゃんの雷は、とっても強いから、きっと大丈夫!
大悪魔アンデールの攻撃は多彩だった。且つ、特定の誰かを狙うものではなく、アンデールの討伐に挑むプレイヤー、住民たちを区別せずに薙ぎ払うようなものばかりだった。
この戦闘の敗北条件には、「人類の死亡回数」が含まれている。このため、近づく者、群れている場所などを重点的に狙っているのだと思われる。
例えば通常攻撃に用いられる触手。複数本あるが、それぞれが個別に襲ってくるものだった。同じ場所に複数の触手が襲来することもあるため、動きを見て、弾くなり交わすなりしなければならない。しかも、人の体くらいの太さがあるため、薙ぎ払われた場合、複数人まとめて吹っ飛ばされそうだ。
また、それ以外にも、アンデールは円状に広がる波動のようなものを放ったり、闇の弾を散布したりもしていた。闇の球は、途中で向きを変えて飛んでいくようにも見えた。空中から降ってくるような感じだったため、プレイヤー等が密集しているこの状況では交わすことも難しそうだ。
あと、ブレスのようなものを浴びると、混乱や恐怖、呪い状態になるようだった。プレイヤーの頭上に状態異常のアイコンが表示されていたのが見えたからだ。ただ、状態異常については、周りから回復魔法が飛んできているようで、すぐに治っていた。
「ケケケケ!ケケッ!」
「え?」
「真横に出てくるなんて感心できないね!」
と、すぐ隣にプチデビルが出現した。リーネさんでも感知できなかったということは、本当に突然出てきたんだろう。
さっきから、モンスターが絶えず出現している。その勢いが増しているようにも見える。
そんな中で、ユーはアンデールをボッコボコにしていた。
不規則な職種… 音もなく放たれる衝撃波… 不定の一から追尾する闇の球… そして、実態の無いブレス…
その全てが、ユーに対して通ることが無かった。
結果、「真理の枷+25」のアンデールが出来上がってしまった。そして、その効果により、攻撃力も防御力も低下した大悪魔アンデールは、周囲のプレイヤーからの総攻撃により、HPを強烈な勢いで失っていった。
「我は古の枷を破り、再臨せしもの。なぜだ!認めんぞ!」
結局、アンデールのHPはそのまま0になった。
すると、アンデールの体に触れることができなくなった。そして、足元から凍り付く… いや、石になるというのが正しいだろうか?そんな感じの音がしていき、最終的に、ドシーン!という音を立てた。なお、実際に倒れる演出があったのかもしれないが、仮に真下にいたとしても大丈夫なようだ。アンデールの体で生き埋め… なんて悲しいからな。
「超巨大ボス 大悪魔アンデール の討伐に成功しました。経験値を20000獲得しました。」
「ユーは、レベル38に上がりました。」
「技能 蝕傷抵抗, 呪い抵抗, 剛魔, 剛精 を獲得しました。」
「称号 超巨大ボスの討伐者 を獲得しました。」
「ブレイオは、レベル36に上がりました。」
「ブレイオは、技能 蝕傷抵抗, 剛魔, 剛精 を獲得しました。」
「ラフィは、レベル32に上がりました。」
「ラフィは、技能 剛魔 を獲得しました。」
「俺たちの、勝利だ!」
「ウオオオォォォー!」