13-02 E5 人霊の召喚石再び

改定:

本文

「あ、またハンマープラントだね。ラフィちゃん、行けるかな?」

「ん。倒す。」

ここは「E5 ヒマラン大草原」だ。

話し合って決めた通り、アヤの分の召喚石を手に入れること、及び、ラフィの実践投入を試している所だ。

結論から言うと、かつて俺たちがルーウェンの力を借りて突破した時のように、進行が容易になっている。ラフィもレベル30を超えていることに加え、植物とスライムに氷歌がよく刺さっているからだ。

「主人。アヤ殿。この辺りにはモンスターがいない。先へ進んで良いぞ。」

「あ、うん。ありがとう。」

で、現在、パーティは二手に分かれている。

1つめは、ラフィとリーネさんだ。植物やスライムを中心に、狩りまくっている。と思う。とりあえず近くにはいない。

もう一つは、俺、ブレイオ、それとアヤだ。だが、俺とアヤはほぼ戦っていない。何しろモンスターがこっちまで来ないのだから。

代わりに、こっちでは技能の育成中だ。俺は、祈祷や、手元で使える魔法をてきとうに使用している。同様に、アヤも印術の育成中だ。

なお、現在はアヤに「魔界の黒帯」を貸している。彼女の印術技能の育成が急務と思われるからだ。

「間もなく、ヒマラン大草原 東端に到着します。」

そんな緩い進行を経て、俺たちは大草原の東端までやってきた。

「アヤさん、リーネさん。そろそろ、草原を統べる獣が来るぞ。準備はいいか?」

「あぁ、あれね。私とラフィちゃんで一匹、ユーさんが一匹、アヤさんとブレイオちゃんが一匹だっけ?」

「そんな感じだな。終わったら加勢するということで。」

ということで戦闘開始…

「ギャオォォ!」

さっそく、正面から声がして、腕のようなものが乗ってきたので応戦。溢気法からの暴力と、上級の体術でボッコボコにしたら30秒保たずに終わった。まぁ一匹だとそんなものだ。

「ガーーー!」

で、次は、左から獣の声がしたので近づいていった。すると、正面から何か来てぽふってなった。でも、問題なく掴むことができたので、そのまま持ち上げて滝落!掌波と超聖拳をたたきこんだ。さらに、気送からの気爆でフィニッシュ!

結局、俺が2匹をボッコボコにして、残り一匹をブレイオ、ラフィ、リーネさんが倒した。え?アヤはどうしたかって?残り一匹になったためか、スケッチに興じていたと思うぞ。返事が無かったからな。

「E5 フィールドボス 草原を統べる獣 の討伐に成功しました。」

「ラフィは、レベル34に上がりました。」

そういえば、ここのボスはレベル33だったな。

ラフィは、イベントの大集団戦で経験値を得られたが、アンデール本体の経験値を得ていない。闇フィールドのスリップダメージが弱点で増幅されていたため、戦闘に参加させなかったからだ。

それでも、イベント開始時がレベル20だったのに、もうレベル34まで上がった。短期間でガッツリとレベルを上げたので、今後は技能レベルを育てたい所だ。まぁこれから低レベルエリアを巡るので、勝手に育つだろう。

何はともあれ、目的地に到着した俺たちは、召喚石の回収を行なった。

「これが、人霊の召喚石か。これから、ラフィちゃんが生まれたんだっけ?」

「言いたいことはわかるけれど、そもそも、召喚石に、モンスターが入っているとか、生まれてくる、という表現は正しくないよ。モンスターと繋がる… といった所だね。」

「そうなの?」

「召喚というのは、魔力を用いて、契約したモノを必要な時に呼び出す、あるいは、その力を行使する技能だよ。そして、召喚石は、召喚士でなくても、契約と行使を安定的に行なえるようにするための補助装置。だから、召喚石そのものには、何も封印されていないんだ。」

俺は、持っていた「契約の証」を取り出した。確かに、召喚石はこの石になるのだから、補助装置、という表現になるのだろう。あるいは、「召喚石」というのは「買ってきたばかりのコンピューター」であり、「契約の証」は、俺自身の情報や、召喚したいモンスターを検索、導入した状態を言うのかもしれない。

「まぁ、そうは言うが、生まれてきたという比喩表現はあるんだと思うぞ。呼び出したモンスターは成長も進化もするからな。」

「それは古式召喚の特徴だね。成長も進化もしないけれど、最初から強いモンスターと契約する方法もあるんだよ。」

「あぁ、なるほど。ゴーレムと同じ使い方か。それなら、ゴーレムを作った方が… ってなるか。」

「その通り。私がカイムを紹介したのは、普通の召喚だとゴーレムの劣化になると思ったからだよ。一応、ゴーレムよりも基礎能力の高いモンスターを召喚できるんだけれど、あんなゴーレムを考え着くユーさんだとね。」

リーネさんは、おくたんやフリーンの衝撃が未だに忘れられないらしい。とはいえ、彼女の言うことには理解もできる。

確かに、召喚できるのがボスであったとしても、普通のモンスターを召喚するのと、フルカスタムしたゴーレムを召喚するのとでは、ゴーレムに軍配が挙がると思う。

基本的にソロプレイをしていると、明確な弱点がいくつか出てくる。ゴーレムは、カスタマイズができるので、その弱点をピンポイントに埋めるのに有効なのである。それは、俺のおくたんや、アヤのルナーなどが証明している。

では、テイマー職はゴーレム使いに勝てないのか?というと、そんなことは無い。スペック上はゴーレムよりも強いモンスターを、大量に呼び出したり、必要に応じて出し分けたりできるのだ。そうした、素体のスペックと、数の連携で戦うのがテイマー職の強みである。

なお、俺自身も、ゲームを始める際にテイマー職を検討したことはある。だが、まとめウィキの情報を読んだ結果、以下の理由から、「十分に楽しめないだろう」という結論に至った。

  1. 召喚に関わる技のいくつかは、相手を目視しなければ使用できず、他の感覚で代用できない。これは主に、飛行系モンスターとの兼ね合いから、そうなっていた。
  2. 「戦闘も含めて、自分の手足で直接触れて回りたい」というのがこのゲームを遊ぶ目的だった。このため、被弾しても耐えられる防御力と自己回復能力を含めた近接戦闘能力が必須だった。しかし、そういう自己完結系の能力は、使役職と相反するため、適性が絶無に近い。

話を戻そう。直近の検討事項である、「アヤが召喚したいモンスター」を定めるべきだろう。

「なるほどな。それはそうと、アヤさんは、どんなモンスターを召喚できるようになりたいんだ?」

「人霊ってことは、ゴーストや精霊、妖精みたいなモンスターになるのかな?」

「そうだな。範囲が広いから、方向性を決める必要があるぞ。ゾンビやスケルトンなこともあるし、それこそリビングソードみたいな魂宿るモンスターというのもある。」

「そっか。ブレイオちゃんやラフィちゃんみたいなかわいい子がいいよ。」

ブレイオやラフィみたいな… というのも、まぁわからないではないか。どちらも人型だし知性もあるしで、接しやすいのだろう。

「あとは、何をやらせたいか?だな。俺の場合、ブレイオには近づいてこないモンスターの殲滅を、ラフィには、植物やスライムみたいな相性悪いモンスターへの対応を期待している。そうしないと、この先の旅が厳しくなると思ったからだな。」

「そうなんだ。すごく実用的だね。」

「ユーさん、いったい何と戦うつもりなのかな?正直、今のユーさんなら一人でこの森を突破できると思うよ。」

「残念ながら無理だ。一人だと処理が追い付かなくて死に戻る。それに、俺の目的地は森を抜けることじゃない。もっともっと先があるんだからな。」

少なくとも、第10マップまでの地域はまとめウィキに公開されている。いずれは、行ってみたいと考えているのだ。

「そっか。ブレイオちゃんやラフィちゃんを育てているのは、そんな先まで見据えていたんだね。」

「だな。アヤさんの旅の目的って、確か、あちこち見て回りたい、描いて回りたい、だったか?」

「うん。これまでも見たことのない物がたくさん見られたし、描いていて凄く楽しいんだ。だから、これからも旅は続けたい。」

「そうか。なら、今障碍になっていることを解消するか、または、目的達成を助けてくれる仲間を得るべきだと思うぞ。」

「仲間… そっか。」

「ちなみにユーさんは、何か面白い案は無いのかな?」

「そうだな。一般論だと思うが、ソロを意識するならヒーラー兼アタッカー、戦闘を俺たちに任せるなら一緒に描画や生産をする仲間… といった所じゃないか?その場合、実態があって、回復または器用の補正が強い妖精に寄せるべきだろうな。」

「凄く具体的だね。しかも、一緒に描画や生産って… それ、嫌な予感がするんだけど…」

「お?リーネさんの直感が囁いたのか?嫌な予感というのは気になる所だが、ミラクルが起こるかもしれないな。」

「う~ん。まだ決められていないけれど、私も妖精がいいかな。ゾンビやスケルトン、あとお化けっぽいのも嫌いじゃないけれど、一緒に旅をするのは、ちょっと怖いよ。」

とりあえず、方向性は不明だが、妖精ルートにはしたいようだ。となると…

「次の目的地だけど、ナザ島でどうかな?カイムに話を聞くのもそうだけど、あそこには妖精や天使に関する資料があるから、アヤさんの参考になると思うんだ。」

「なるほど。キースノーズも一考の余地があると思ったが、先にナザ島に行くべきか。」

「ん?キースノーズに、そんな妖精の話なんてあったかな?」

「どちらかと言うと、ノズトール関係だな。あそこ、妖精とゴーストが群れて出るから。」

「あぁ、あそこか~。ラフィちゃんに似た感じのモンスター、いっぱいいたね。でも、その程度だったら、ナザ島でも集められると思うよ。」

「で、アヤさん、どうかな?」

「えっと、ありがとうございます。ユーさんもリーネさんも詳しいので、助かってます。」

「アハハ。それにしても、私にも、もっと砕けた感じでいいんだよ?堅苦しいと疲れちゃうし。」

「え?あ… は はい。えっと…」

「まぁ、しゃべりやすい方でいいんじゃないか?要は、遠慮しなくていいってことだし。」

「え?あっ、そっか。」

ということで、次の目的地はナザ島になった。