本文
「ブレイオ、ラフィ。生まれてきた子との交流を助けて欲しい。」
「もう試みている。いずれ、ラフィ殿と同じ程度には語らえるようになるだろう。」
「ん。伝信は、ブレイオ上手い。行ってくる。」
「メイレン」と名付けられた光の幼妖精は、声を出していなかった。ブレイオとラフィの話によると、伝信の使い方がまだわかっていないのと、ラフィと同様に、アヤを見定めているらしい。
いずれにしても、俺からは状況がわからないし、下手に前に出てぶつかったら、どこかへ飛んでいくかもしれない。なので、声が出せるようになるまでは、ブレイオとラフィに任せることにした。
「あ、ラフィちゃん。」
「ん。アヤは、そのまま話して。メイレン、まだアヤを見てる。」
「うん。そうなんだけど、メイレン、どう思ってるのかな?楽しいのかな?」
「ん?伝わってる。興味ある。一緒に絵を描くといい。」
「そっか。じゃ、メイレン。一緒に何か描いてみよっか。きっと楽しいよ。」
「…」
その後、ブレイオ、ラフィの協力を得ての交流が始まったようだ。
最初に絵を描く辺り、さすがアヤである。「一緒に」と言ったということは、メイレンとやらにも描画技能が生えているのだろうか?
「ユー。メイレン、連れて来た。手、届く。」
「お。ありがとな。」
しばらく待っていたら、ラフィがこっちにもメイレンを連れてきてくれたようだ。なので、俺もしゃがんだ上で、ゆっくり手を伸ばしてみた。
すると、何かが俺の手に乗った。それは、ブレイオやラフィとは違い、確かな熱を持っているようだった。だが、それは心地の良いものにも感じた。
「俺はユー。この子たち、ブレイオとラフィの主人だ。そして、アヤとは友達だ。」
「…」
「手、温かいんだな。にぎにぎしていいぞ。」
少し手をにぎにぎしてみた。すると、あっちからもにぎにぎされた。まぁ、例によってふにふにだったけれど。
あっと。この機会に鑑定はさせてもらおう。
名前: メイレン
種族: 光の幼妖精
種別: モンスター・妖精
レベル: 0
状態: 正常
説明: 聖なる光を子のみ、取り込むことに最適化された精神体。人に似た姿を取っている。
真理: 聖者として期待された幼子は、その道を成すこと叶わず、命脈を断たれた。眠りに着く中で、再誕が適うのならば、光ある世界を歩み、照らすことを望んだ。
光の心:
説明: 光に親しんだことで授かった祝福の一種。光属性増幅(小)、光属性耐性(小)、闇属性耐性(微)、知性・精神上昇(微)。
幼妖精:
説明: 自然に満ちる魔力に敏感な存在。魔法効果増幅(微)、魔法制御能力低下(中)、MP自然回復増幅、HP自然回復縮小
どうやら、「聖なる光の石」や「天使の羽」に引っ張られて、光の聖者に近い妖精と結びついたようだ。しかし、アヤの執念の賜物か、描画と彫刻を備えている。能力値はヒーラータイプなのだが、「器用」がけっこう高い。この子も、アヤに引っ張られて画家ビルドになっちゃうのだろうか?
などと考えていたら、かつてのラフィみたいに抱き着かれた。やはり愛情に飢えているのだろうか?
それでわかったこととしては、「ラフィよりも小さい」ということだった。ラフィの時は、しゃがんだ俺が抱き込まれる感じになったが、メイレンの場合は、同じくらいの高さなようだ。浮遊していることを考えると、新調は50cmも無いだろうか?
「え?メイレン。どうしたの?」
「主人!」
アヤたちが驚いていた。抱き着かれたぐらいで驚く必要なんて無いと思うのだが…
いや、この感じだと、アヤはまだ抱っこしていないのかもしれない。「主人よりも先に抱き着くなんてどういうこと!」といった所だろうか?
(ユー。メイレン、ユーを師匠だと思ってる。)
と、ラフィから念話が届いた。俺も伝信で返す。
(師匠)
(ん。ユー、神様にお祈りできる。浄化できる。それに、ユーの心、強い。)
(理解、聖職者、間違いない)
どうやら、俺が武僧であり、浄化などを育てている部分に感じることがあったようだ。特化はしていないから、すぐに抜かれるとは思うのだが、少なくとも今は「師匠」と言われてもおかしくないほどの力の差はある。
あと、心の強さとやらもあるようだ。聖者的な考え方なら、「真理」の影響かもしれないか。
試しに、「浄気」で手に浄化の力を集めてみる。すると、メイレンは、その手をしっかり握ってきた。
最初、「人霊の召喚石産のモンスターに浄化って大丈夫か?」と思ったのだが、「光の心」を持っていたのでOKと判断し、実際に問題は無かった。というのは、浄化でダメージを受ける種族は、「光の心」や「魔法(光)」を習得できないからだ。
「お前も、これくらいできるようになりたいか?なら、できるぞ。俺たちは仲間だからな。」
「…」
「まずは、一緒に外に出て学ぼう。そうやって育てるものだからな。」
「…」
メイレンは相変わらず言葉は返してくれなかったが、手をにぎにぎすることで返してくれた。
「えっと、ユーさん。私も、抱っこしていいかな?」
「そうか。メイレン。主人とも仲良くするんだぞ。」
「…」
ちゃんと話を聞いてくれたようで、メイレンは俺から離れていった。従順になるのが早い気がするが、その辺りはこれから丸く収まるだろう。あるいは、今セットしている「モンスターと心通わす者」の効果か。
そういえば、アヤはモフモフ称号を持っていなかった。今度、ラフィに協力してもらって取らせるとしよう。本当は、閉じ込め罠で取るのが効率的なのだが、どこにあるかわからないし、中身によってはアヤが死に戻るからだ。
「ユー。ずいぶん気に入られたようだね。」
「カイムさんか。待たせて悪かったな。」
俺はカイムさんと情報交換した。
「なるほど。この草原で失われた魂に繋がるが、少なくとも結びついたモンスターが違えば、その思念も違うということか。」
「そういう判断になりそうだ。それにしても、聖職者ではなく聖者か。」
「聖魚ルトーや光天使の影響はありそうだ。ただ、小さな村の教会で治療や浄化をしている下級僧侶も、その村では聖者と呼ばれる場合がある。だから、特別視するのは早計だ。」
「聖者とは、自分で名乗るのではなく、周りから認められる者、ということか。それくらい気楽な方が良いな。」
「では、私は戻るとするよ。とその前に、ユーにこれを進呈しよう。リーネが迷惑かけている礼だ。」
そう言ったカイムさんは、俺に一つの指輪をくれた。
魂繋ぎの指輪:
種別: 防具・アクセサリー
説明: 魔法のアクセサリーの一つ。装着車が、仲間を現世に召喚することを助ける。
性能: 召喚枠拡張+1
品質: 6/10
それは、直近の問題だった「パーティ枠」を広げてくれるダンジョン産アイテムだった。これを装備しておけば、実質5人パーティとなり、メイレンを召喚しながらアヤは召喚系の印術が使用可能になるだろう。
「これは助かる。パーティ枠の問題には悩んでいた所だからな。」
「役に立つようで良かった。では、失礼する。」
その後、俺たちはイスタールの図書館へ移動し、読書を進めた。狙いは、もちろん、メイレンに「言語(人類)」と「世界知識」を得てもらうことだ。
「アヤ。持ってきた。私も読んだことがあるから、これがいいと思う。」
「あ、ラフィちゃん、ありがとう。じゃ、メイレン、読むね。」
そんなことをしている横で、俺はゲーム内からまとめウィキを眺めていた。「光の幼妖精」の情報を集めるためだ。
結果としては、いつも通り、ビーチで遊んだりして技能を育成した上で、レベルを上げていくのが良さそう、ということがわかった。ようやく、西マップの開拓に移れそうだ。
なお、今の所メイレンの性別は不明だ。中性的… な容姿というやつなのかもしれない。また、まだ声が出せないため、男声なのか女声なのかもわからない。