本文
「浜辺に入りました。プライベートモードに変更しますか?」
(プライベートにしてくれ。)
翌日、俺たちはソルットのプライベートビーチにやってきた。すっかり定番になった技能訓練回である。
「へ~、この子がメイレンちゃんか。最初のラフィちゃんよりも幼い感じだね。」
リーネさんも戻ってきた。どうやら、ちゃんと氷帝は倒せたらしい。
レベル的に格上とはいえ、アレをソロ狩りするとはさすがだと思う。俺もできたとは思うが、結果的にはブレイオと連携していたのだから。
「メイレン。今日は、ここで一緒に遊ぼう。ユーさんたちも遊んでくれるって。」
「だな。ブレイオ、ラフィ、協力してもらえるか?」
「問題無い。」
「ん。」
そうして、昼過ぎまで俺たちは遊んだ。例によって、穴を掘ってみたり、水遊びしたり、一緒にジュースを飲んだりなどをした。
「あれ?ユーさん、何それ?」
「ただの海水だぞ。ソルットに来た当初に浄化を試みたことがあってな。今浄化するとどうなるのか?と思った所だ。」
というわけで、俺は、久しぶりに海水に浄気をかけてみた。その結果、こんなことになった。
浄化塩水:
種別: 素材・水
説明: 若干の塩分を含むものの、限りなく浄化された水。飲用することが可能。
品質: 2/10
以前は、気留術が下級だったこともあり、「澄んだ海水」という、不純物が少ないだけの海水だった。だが、現在は上級まで育ったことで、成分が変質するレベルで浄化がされたようだ。
(キレイな水…)
「お、メイレンもこっち来たか。飲んでも大丈夫な水だぞ。一緒に飲むか?」
(飲む。キレイな水)
そして、飲んでみた結果としては、水道水に近い味だった。確かに浄水筒から出る水と比べると、味が濃い気はするが、意識して飲み比べ無いとわからないかもしれない。
「ま~た変なことしてる。上級の浄化で海水をキレイにして飲む人なんて、初めて見たよ?」
「え?そうですか?海の水でも浄化して飲めるなんて、便利だと思うのだけれど…」
「いやいや、普通の旅人は、浄水筒に海水をくみ出すからね。それだけで美味しく飲める水になるんだよ。」
「あぁ、そっか。私も浄水筒は使ってるんだ!」
確かに飲み水なら浄水筒で十分だ。まぁ、今回は浄化技能がどこまで育ったかを試すのが目的だったので、飲み水と比べることに意味は無いのだが…
だが、「浄化塩水」まで行けるか。この上が「浄化水」だったはずなので、面白いことができそうだ。
「そうは言うが、浄化水とは少し違う味になったぞ。アヤさんもリーネさんも飲んでみるか?」
「あ、うん。ちょっと興味はあるから飲んでみたいな。でも、私もお水持ってくるから、それを浄化してよ。」
「かまわないぞ。というか、浄化した水はもう飲んでしまったから、もう一度汲んで来ないといけない。」
「ふ~ん。ユーさんが浄化した水ね。私も試させてもらおうかな。」
考えてみると、リーネさんの言葉は的を得ている。特に俺の場合、浄化するために水に手を突っ込む必要があるので、アバターから皮膚赤の類は出ないとしても、女性人としては気になるのだろう。
「あ、確かに少し塩っぽい。水道水みたいな感じだね。」
「なるほど。海水らしさはあるけれど、この程度なら、むしろ、適度に塩も補給できる良い水なのかもしれない。」
「海水からこのような水が生まれるか。主人、これは料理に使えるのか?」
「料理か。後で、馴染みの料理人に聞いてみよう。」
とりあえず、浄化塩水の味はそれなりに好評価だった。あと、餃子饅には聞いてみるとしよう。まぁ彼なら自分で作れるかもしれないけれど。
なお、「浄化」を介した素材であるため、ラフィが飲むとダメージを受けてしまう。さっき、試しに少し飲んだのだが、「ん!ちょっと痛い」と言っていた。
その後、俺は、海水に手で触れられる程度の位置まで海に入った。「浄化塩水」ができるくらい力が増したなら、試したいことがあるからだ。
「アヤさん。知性と精神を上げられる印って使えるか?」
「え?うん。使えるよ。でも、どうしたの?」
「じゃ、水縛、炎縛と一緒に準備しておいてくれ。対象は全部俺な。」
「え?う うん。わかったよ。ちょっと待っててね。」
「ん?ユーさん、どうしたのかな?」
「ちょっと、今の全力を海に放ってみようと思ってな。」
今、足が浸かっている海の水は、いつもの海水だ。先ほど作った「浄化塩水」は、ぬめりは取り除かれていたが、やはり柔らかい水という印象だった。残っていた塩の影響だろうか?
「ユーさん、準備できたよ。」
「よし。溢気法!光属性付与!魔重点!アヤさんバフを頼む!」
「え?わ わかった!魔術の印!あと、バブルフォロー、ファイアフォロー!」
「よしっ!送気からの、纏光で浄気だ!」
俺は、海に向かって気を流し込み、今出せる限りの全力の浄気を放った。結果…
「うわぁぁぁ~!海が、真っ白!」
「え?何!アレ、全部浄化なの!」
「わ!真っ白!光、凄い!」
どうやら、見ている範囲の水が真っ白になったらしい。浄化の光は白いらしいから、しっかり広がっている、という理解で良さそうだ。
「条件を満たしたため、技能 聖福 を獲得しました。対応する技能による祝福が可能になりました。」
「来たか!祝福の古祈を全力発動だ!」
皮算用だったが条件をクリアできた。なので、引き続き、浄化した海水に向かって「祝福の古祈」を、残MP全てをコストに発動した。結果…
「何!空から光が下りてくるよ!」
「え?これって、祝福だよね?ユーさん、そんなのできたっけ?」
「主人!海水を全て浄化する気か?」
「ユー、凄い!」
外側でいろいろな反応があるが、聞いている時間が無いので無視。俺は、正面に樽を沈めて水を注ぎこんだ。そして、持ち帰ってから触鑑定をした。
中級聖水:
種別: 素材・水
説明: 浄化の力によって清められると共に、祝福によって力を祝した水。水に触れた物体に光の力で干渉し、浄化する作用がある。
品質: 2/10
どうやら、予定していたものはできたようだ。祈祷術のレベルが足りなかったので中級にはなってしまったが、メイレンに見せられる物にはなっただろう。
なお、足に触れていた部分の水も聖水になったようで、ぬめりの類や塩っぽさがなくなっていた。むしろ、足だけリフレッシュされた気がして、逆に違和感を感じた。
「え?な 何これ!聖水?」
「その通り。一応、俺は武僧だから、これを作る適性はあったようだな。」
「なるほど~。って、いやいや!海水から聖水を作るなんて非常識だから!普通は浄化水から作るんだよ!」
「ちゃんと手順は踏んだぞ。海水を浄化して、その後に聖水にしたからな。ただ、今回が初めてだったし、まだまだ力不足だが。」
「え?力不足?あれで?」
「できたのは中級の聖水だからな。上級僧侶なら、上級の聖水を作れるようにならないと。」
「気にする所違うからね!普通にやれば上級くらいできるエネルギーしていたよ。というか、なんで海であんなことしたのかな?!」
光の幼妖精について調べていた時に、「聖水」系素材について調べた。光の幼妖精が聖者として覚醒する場合には、聖水を自制できるらしいからだ。それに伴い、聖水自体の作り方も確認した。
「聖水」のレシピは、「浄化水に祝福をかける」となっている。ただし、「祝福」を得るためには、僧侶などの適切な職業に就いた上で、技術技能「聖福」が必要だった。これを得るためには、いくつかある特殊条件の内一つをクリアしなければならない。
今回、特殊条件の一つ「広域に対する一定レベルの浄化」を達成した。俺自身は浄化を外に飛ばすことができないので、「海」という浄化対象となる液体で満たされた場所を選択したのである。
あとは、聖水を作るのに使える魔法「光の祝福」、「祝福の古祈」からの選択になった。前者は光属性魔法、後者は祈祷術の領分だ。よって、MPしだいで出力を底上げできる「祝福の古祈」となったのである。
聖福:
説明: 対象に、聖なる祝福を与えることを可能にする技術。
「メイレン。この水が聖水だ。出来立てだぞ。」
(見た。光、水、キレイ。)
「まぁ見ていただろうな。こういう力にあこがれはあるか?」
(ある)
「なら、がんばって強くならないとな。俺もまだまだ修行中だ。」
とりあえず、本命であるメイレンの心には響いたようだ。
その後も、俺たちは夕方まで海での遊びや鍛錬に費やした。
なお、俺一人が海水全部を浄化できるわけは無く、聖水の話をしている間に、海は元の状態に戻っていた。当然、海に再び入った時の鑑定結果も「海水」であった。
それと、リーネさんは「非常識」と言っていたが、これでも「常識破り」称号は生えていない。「常識破り」を生やすなら、例えば、沼地ダンジョンの全ての沼を聖水に変えるようなことが必要だと思う。「特級」技能の上「超級」まで上げればできるだろうか?
そうそう。気を使った技にも「祝福の気」が生えたのだが、残念ながら聖水は作れないそうだ。その代わりに、「気留水」と呼ばれる、飲用者の体力、筋力、防御を一時的に上昇させるバフアイテムを作ることができるぞ。
「ということで作ってみたんだが、飲んでみるか?」
「うわぁ~!これが例のマッスルドリンクか。ついにユーさんも目覚めてしまったんだね!」
「残念ながら、祝福の気を使うと、これにしかならないそうだ。ちなみに上級品だし品質値も高いから、効果自体は優秀だぞ。」
彼女が言った通り、このアイテムの通称は「マッスルドリンク」だ。「マッスルファイター」称号の影響なのか、住民の間でも通じるそうだ。
なお、効果が優秀なのは本当の話だ。「気を留める」に特化した上級技能で作ったため、能力30%上昇が30分も続くらしい。飲用から3時間以内に再度引用すると効果が減退する制限は付いているのだが、それ以外にデメリットが無く、そこら辺の水からお手軽に量産できる凶悪なアイテムだ。
「わ 私は要らないかな。接近戦、しないし?」
「アヤさん、そんなこと言われると、お姉さんが困っちゃうじゃないか~。」
「ん?飲める。」
「え?ラフィちゃん!飲んじゃった!」
「なるほど。浄化じゃないから、ラフィでも飲むことができるか。ちなみにアヤさん、リーネさん、別に断ってもらってかまわないぞ。引き取り先は探せばいくらでもいるからな。」
その後、作ったアイテム類は、全て餃子饅に引き取ってもらった。料理バフの実験他に使うそうだ。なお、原価が海水だったため、代わりに、持っていた肉素材を焼き肉に変えてもらった。