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「あ、ユーさん見~つけた。今日もよろしくね。」
「おはよう。早く来ていたんだな。」
「うん。日の出をメイレンと一緒に見ていたんだよ。」
ログインして、ソルットの転移ゲートに向かったら、アヤに発見された。朝の日の出を眺めているとは、さすがだと思う。俺にとって日の出と言えば「モンスターのポップが変わるきっかけ」だったからだ。
それはそうと、今日は、メイレンのレベルを少し上げる予定だ。能力的に魔法系のモンスターなのと、筋力、防御がかなり低いため、レベルを上げないと技能の訓練がやりずらかったからだ。
ついでと言うとアレだが、西のフィールドボスを倒して、ニノンの村へ行ってしまおう、とも考えている。なお、西のフィールドボスは「バトラーウルフ」という、大型の狼だ。まぁレベル5なので、一瞬で沈むだろうけれど。
そして、今回はリーネさんは不参加だ。さすがに、ただ始まりの草原で経験値を稼ぐだけなので、過剰戦力ということになった。
正直、アヤ一人でも十分だとは思う。が、一緒に絵を描いたりもするっぽいので、露払いとしてブレイオやラフィを呼び出す予定だ。あと、俺がメイレンに懐かれているのと、万が一の死に戻り事故の対策だ。
「W1 始まりの草原 に入りました。」
ということで、アヤと二人で始まりの街へ移動、そこから草原に入った。
このエリアの出現モンスターは、狼、プチラビット、ゴブリン、グリーンスライムだ。唯一、第1マップでスライムが湧く地域、ということになる。まぁ、夕方と夜にしか出ないので、今日出会うことはおそらくないだろう。
「メイレン、出てきて。あと、ルナーも。」
「こっちも、ブレイオとラフィ召喚だ。おくたんも出しておくか。」
草原に入ったら、今回の仲間を召喚だ。というか、だいたいいつものメンバーだな。
「ん?ここは… 来たこと無い。」
「始まりの街の西側にある草原だ。だから、今まで行った場所とはちょっとだけ違う名。」
「主人。何をすればいい?」
「今日は、ラフィの時と同じように、アヤさんのメイレンのレベルを上げる。だから、モンスターを見つけたら狩ってくれ。というより、メイレンを守ってやってくれ。」
「心得た。」
「私は?」
「ラフィは、走り回って狼やゴブリン辺りをこっちへ連れてきて欲しい。メイレンの近くで倒す必要があるから、攻撃はしなくていい。」
「連れてくるだけでいいの?」
「そうだ。あと、逃げるプチラビットや、いないと思うがスライムなんかは無視して良いぞ。」
「ん。スライム、いない。行ってくる。」
ブレイオには近づいて来たモンスターの処理を、ラフィにはモンスターのトレインを頼むことにした。これで、モンスターを効率的に集めて狩ることができるだろう。
正直、ラフィにトレインだけしてもらえば十分ではないか?と思う所だ。だが、結局、ブレイオを呼んで正解だと悟った。
「主人。ラフィが戻ってきた。モンスターは… 30匹はいるぞ!」
「ずいぶんいるな。数を指定すればよかったが、まぁ良いか。アヤさん、準備はどうだ?」
「ん?え?何?あ、モンスターいっぱいだ。なんかラフィちゃん楽しそうだね!」
ここに何をしに来たのかが、すっぽ抜けちゃったのかもしれない。モンスターが弱いので、危険感知等が仕事しなかった!ということにしておこう。というか、第1マップなのに、スケッチするものがまだまだあるのか…
そんな感じで、数度、トレインからの殲滅を行ない、メイレンのレベルを5まで上げた。さすがのアヤも、途中からは本来の仕事をしてくれたので、ただでさえ簡単な狩りは、より早くなった。
名前: メイレン
種族: 光の幼妖精
種別: モンスター・妖精
レベル: 5
体力: 7
魔力: 13
筋力: 4
防御: 7
精神: 9
知性: 13
敏捷: 7
器用: 10
技能:
適性: 描画5, 彫刻4, 魔法(光2, 治療2)
技術: 伝信7, 魔力操作2, 浮遊2
支援: 光の心, 言語(人類), 世界知識
特質: 幼妖精, 幼体
とりあえず、下級の魔法を連発できる程度にはMPも増えたので、狩りはおしまいとした。
それは良いのだが、描画技能がすくすくと育っている。「今は魔法が使えないから」だと良いのだが、アヤと一緒にずっと描いていたみたいなんだよな。
その後は交通路を西へと直進していった。そして…
「始まりの草原 西端に到達しました。」
「ウォォォン!」
「狼が来る。主人、我が相手したい。」
「良いぞ。行って来い。」
西端にて、ブレイオが狼を発見した。始まりの草原で交通路にいるのに襲ってくるのは、フィールドボスだけだ。
しかし、直後に正面からドカンという音がした。
「フィールドボス バトラーウルフ の討伐に成功しました。 W2 のマップが解放されます。」
「称号 第1マップ制覇者 を獲得しました。」
バトラーウルフは、やはり一撃で沈んだようだ。むしろ、このレベル差で一撃じゃない方がおかしいか。
なお、称号「第1マップ制覇者」は、東西南北のフィールドボスを倒したことを記念する称号だ。こちらは、今後、冒険者ランクを上げるために必要になってくるので、西マップをどんどん開拓して行きたい所だ。
「ぬ。我も強くなったのか…」
そういえば、ブレイオと初めて草原を北に縦断した時は、俺がビッグアントを倒したんだったな。あの時のブレイオは、レベル1桁の幼体だった。
「あぁ、強くなったぞ。だが、まだまだ上はいっぱいいる。それに、この先には、前に見せた砂漠もだが、いろいろと見られるはずだ。」
「そうか!旅が尽きぬのは良いこと。進もうぞ。」
「え?何何?ここで思い出とかあったの?」
「ブレイオが幼体だった時にここで実践した時のことを思い出してな。アヤさんも、これからメイレンと存分に楽しむといいぞ。」
「あぁ、思い出だね。うん。一緒に思い出作りするよ。」
その後、俺たちは西へと歩みを進めたのだった。
「E2 ニノンの村 に入りました。」
フィールドボスと戦った地点から3分ほど歩くと、ニノンの村に到着した。
「どうやら、村に入ったようだな。」
「うん、そうかも。それで、ユーさんは、これからどうするの?」
「とりあえず冒険者ギルドの図書室だな。その後は、アヤさんに任せるぞ。メイレンの技能育成をするなら、またビーチになりそうだけれど。」
「え?あ、そっか。メイレンちゃんを育ててから、一緒に見て周ったがいいよね?」
「俺がブレイオやラフィを育てた時は、そんな感じだったからな。まぁ、幼体の内に、必要な下地をしっかり育てておかないと… というのもある。進化先にも影響するだろうからな。」
「そっか。あ、でも、魔法を育てるなら、ビーチじゃなくて、前に遊んだ雪原はダメかな?」
「あそこか。メイレンの寒さ耐性しだいだが、良いと思うぞ。幸い、メイレンは飲食の制約も無いからな。」
そんな話をしながら、ナビーの先導に従い、冒険者ギルドへ向かうと、5分ほどで到着した。
「ニノンの村 冒険者ギルドに到着しました。入口の引き戸は閉まっています。こっちです。」
「あ、ギルド小さい。」
「小さいのか。2階建てではないのか?」
「2階は無さそうに見えるよ。あと、ソルットや始まりの街よりは小さいね。」
「なるほど。畑エリアが別にあるらしいが、村自体は小さいと聞いているな。」
もちろん、このギルドでも、いくつか依頼をこなして貢献度は稼ごうと思っている。納品や常時依頼ということになるだろうか。
そんな話をしつつ、アヤの後について冒険者ギルドへ入った所…
「お、ついに到着か~。けっこう早かったね。」
「え?えっと、リーネさん… でいいのかな?」
「合ってるよ。」
リーネさんが現れた。「ニノンの村まで行く」と言ってあったので、先回りしていたようだ。
「そうか。後で合流するという話はしていたが、こっちにいたのか。」
「そんな所だね。それで、これからどうするのかな?」
「まずはここの図書室に行きたい。その後は、キースノーズ雪原でメイレンの技能訓練だな。」
「ほぉ、雪原ね。思考を変えてみた… って所かな?」
「あ、はい。ビーチもいいけれど、雪原も楽しいと思って。」
「なるほど。じゃ、私も参加させてもらおうかな。技能の訓練なら、こっちも望む所だし。」
その後、俺たちはギルドの図書室を経由して、ホムクへ転移、キースノーズ雪原の「雪積もる広場」へ入った。
「ユー、ここ、前に遊んだ所?」
「そうだ。アヤさんの希望で、今日はここで鍛錬することになったぞ。」
「ふむ。雪の上を走ったり、丸めて投げたりするか?」
「それでもいいが、魔法の訓練もだな。ブレイオは暴風と降雨を得たから、風や水の魔法ももうちょっと育てたが良いだろう。あと付与魔法もか。」
「この地でもできることは無数にあるか。心得た。」
一方、こちらはアヤ…
(ここ、寒い)
「あ、やっぱりか。ちょっと待ってね。えっと、これ食べてよ。」
メイレンを召喚したら、私に抱き着いてきた。とても寒かったようだ。
ユーさんが召喚したブレイオちゃんやラフィちゃんは何ともなかったので、大丈夫かな?と思っていた。だが、メイレンは違うようだ。
とりあえず、さっきホムクのギルドで買ってきた「温かパン」をメイレンにあげた。ユーさんが飲んでいた「冷感耐性薬」の方が効果は大きいのだが、お薬って味気ないと思うので、私はこれを食べることにしている。
(パン、美味しい!温かくなった!)
「あぁ、良かった。今日は、ここで魔法を育てるよ。」
(それは、モンスター、戦うため?)
「それもあるかな。でも、魔法って、戦うだけじゃなくて、いろんなことができるんだよ。」
(ユー、聖水、作ってたみたいなの?)
「うん。アレもそう。えっと… あ、見つけた。」
私は、ある場所へ向かった。そこには、雪から出て来ようとしている小さな植物が見えた。
これは「雪水草」という、この世界の植物だ。発熱する草であり、上に積もった雪を溶かして水分を得つつ、日光を浴びて育つのだそうだ。
(雪の中の草?)
「そう。例えば、これに魔法を使うと、とってもキレイな花が咲くんだよ。」
私は、プラントヒールをかけて成長を促進させつつ、花の上の辺りにクリエイトライトで光源を作った。すると、雪水草はぐんぐんと成長し、開花した。
(凄い。花、咲いた!)
「うん。この花、とってもキレイなんだよ。光が無くなると、引っ込んじゃうんだけどね。」
(魔法、いろんなこと、できる)
「あ、わかってくれた。魔法って、面白いんだよ。だから、一緒に覚えようよ。」
その後、私とメイレンは、魔法をたくさん使った。
メイレンが使う光の魔法はまだ小さいけれど、妖精なんて言われているのだから、これからどんどん立派なものになるんだと思う。
アヤが、そんなことをしている裏側では…
「あちゃ~、見事にカッチンコッチン。」
「ユー、出られる?」
「上側が固まっているから厳しいな。」
雪風呂を試していたら、事故で雪固水がかかって、脱出不能になった。手足が固定されているため、身動きが取れない。
「あぁ、えっと、これどうしたらいいかな?私の炎魔法じゃ微妙だね。」
「おくたんに掘ってもらうのが無難な所か。あとは、衝撃属性の攻撃で破壊だが、俺も死ぬかもな。」
「主人。雪固水は溶けるだろう。そこまで待つことはできぬのか?」
「残念ながら無理だな。雪が溶ける前に、俺が凍傷で死ぬ。凍結抵抗だと、その辺りはどうにもならないからな。」
「ん?あ、掘るね。ユーさん、おくたん出してよ。たぶん、うまくいくと思う。」
結局、名案を思い付いたらしいリーネさんに従いおくたんを召喚。二人で掘ってもらうことになった。そこから15分後…
「助かった。下側を掘るとは考えたな。」
「凍っていたのは上側だったからね。それと、掘れる地面で良かったよ。」
「そうだな。ダメだったら、粉々にしてもらわないといけなかった。」
「地中をくり抜く」に近い作戦が実り、俺は凍った雪から脱出することができたのだった。