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俺たちは、情報交換をしながらトマの塔を登っていった。いや、だって、戦闘は…
「ライドマウスが上から来てるよ。落としちゃうね。」
「オッケー。こっちはゴーレムと人形だ。」
お付きの4人が勝手に狩るからだ。
皆、第5マップ突破者であり、先日のイベントでも同じサーバーに参加していたそうだ。つまり、レベル30代なので、この塔のモンスターじゃ相手にならない。
あと、近接組には、「真理の守り」で精神異常無効と偽装看破を付けてある。これで、悪戯系妖精による状態異常と、宝箱トラップを解決だ。
「いやぁ、ユーさんの技能、とんでもないね。耐性バフの専門職は泣いていいレベルだよ。」
「いくつかの技能がロックされるけどな。だから、前衛にしか付けられないんだが。」
「裁定者。確かにビルドは選びそうだけど、型にはまればとんでもないことになりそうだね。」
「それなんだけど、検証では、まだ習得条件が判明していないみたいだね。 真理 技能の検証が始まったのが最近という話でもあったけれど、まさか発端だとは…」
当然というか、パーティメンバーには真理と裁定者のことは知られている。簡易鑑定すれば出てくるのだから、気にしても仕方ないことである。
なお、先日、カナミー経由で「真理持ちプレイヤーが二次職ラインまで到達したが、候補に表示されていなかった」という話を聞いている。
職業と技能の関連性から、犯罪者を退治したり、「真理」のレベルを上げたりする必要はあるのだと思う。が、別ダンジョンの転移解放イベントで透明な鍵を見つけたり、トマの塔の最上階でトマと戦ったりしても、レベルが3まで上がっていないらしい。「真理」で抵抗する数なんかも影響しているのかもしれない。
「おーい、引き込み罠発見だ!中身はサディーだ、挑みたいヤツいるか?」
「なんと!宝箱を開ける前に看破できてしまうのですか!」
そんなことを考えながら進んでいたら、悪戯系妖精サディーの入った引き込み罠が発見されたようだ。
アイツの能力は、呼び声によるターゲットの操作、幻聴、それと絶叫攻撃だったはずだ。つまり、戯れていれば、「音波体制」系の技能が生えるかもしれない。
以前、リーネさんと浜辺で決闘した時には、あえて壁を壊させて難聴状態になることで、その後の攻撃を無効化した。しかし、本来のビルドでは、難聴になることは絶対に避けなければならない。あと、大音量、あるいは、広域の音波攻撃を使われると、逆に音源が特定できなくて、一方的にやられる事態もあり得る。
「相談なんだが、俺が挑んで良いか?聴力系の抵抗技能を得たくてな。」
「だそうだよ。皆、かまわないかな?」
「良いと思う。宝箱のギミックが解けたのはユーさんのおかげだし。俺たちは、てきとうに周辺で狩っているよ。」
「やるのはいいけれど、ダンジョンに滞在できる時間もあるから、あまり時間がかかるのだと困るよ。30分くらいが限度かな。」
ということで許可が得られたので突入。久しぶりの閉じ込め罠に立った。
程なくして、俺の腕に何か捕まってきた。そして、絶叫された。
以前、ルーカスと「妖精の広場」で暴れていた時にも聞いたが、衝撃のような物を感じた。まぁ攻撃のための音なのだから当然か。
ただ、あの時に比べると、抵抗するのは簡単そうだ。単純に、レベル差と、俺の知性が上がった影響だろう。
あ、そうだ。耐性のための経験値になるので、ブレイオとラフィも出しておくか。
(主人、これは!なんだ!)
(ん?その子の、絶叫?)
(絶叫に、耐える、修行。今後、危険な、音使いも、出てくる。抵抗を、得るまで、続ける。)
(音使い。ラフィのようなものか?)
(それも、ある。音波で、生物、殺せる。)
(ん。わかった。その子の絶叫に耐える。)
こうして、ブレイオ、ラフィと3人で、サディーの絶叫を堪能するという不思議な状態になった。なお、この間は暇だったので、伝信の育成に費やした。
「技能 伝信 が上限レベルに達したため、 念話 に進化しました。」
「技能 音抵抗 を習得しました。」
「抵抗技能の習得により、一定量以上の戦闘音の音量を削減することが可能になりました。環境設定から、On/Off、感度等の変更が可能です。」
しばらく放置して叫ばせていたら、目的の技能が得られた。
そして、サディーの絶叫が少しマイルドに聞こえるようになった。うるさいことはうるさいが、さっきよりましになったのは確かだ。
その後、ブレイオ、ラフィも音抵抗を得たので習得はおしまい。塔攻略に戻るため2対を送還し、サディーをボッコボコにして倒した。
「お、早かったね。どうだった?」
「助かった。おかげで、欲しかった抵抗が生えたぞ。」
「それは良かったね。こっちは何も問題無かったよ。ユーさんが閉じ込め罠にいても、 真理の守り は残っていたしね。」
「じゃ、先へ進もうか。」
その後、俺たちはトマの塔の3層へ向かった。そして、雷霊鬼戦を開始した。
なお、リョーマの希望により、久しぶりの「接戦の宝玉」が使用された。と言っても、今回は レベル40 の雷霊鬼だったので、戦況は安定していた。
こちらは前衛のリョーマとグレン…
「あっぶな!ユーさんの、転がってでも避けろ、って意味がよくわかった。」
「あぁ。アレは上級技だから、直受けは危険だね。」
「属性複合だろうな。物理、魔法のどちらかが低いと押し負けるみたいだ。」
「あとは霊系統だから、武器に使える技の制限があるのも痛いね。」
「全くだ。イベントで装備更新した時に聖銀から乗り換えたのが、ここで効いてくるとは…」
「そうかも。ユーさんには感謝だよ。まだ使い慣れてはないけれど、今はこれが頼りだ。」
リョーマは、ユーから「聖銀の槍+1」を譲渡されている。正式には、まだ交換が成立していないのだが、「ゴーストに有効だし、試運転も必要だろう」ということで快く譲ってくれた。
「お待たせ。僕も前衛に参加するよ。と言っても、あの棍は受けられないから、遊撃メインになりそうだけど。」
「そりゃうれしいが、ワイドライトニングの結界はどうする?」
「ユーさんに任せてきたよ。技能的には大丈夫だし、アレは付与が無いと厳しいみたいだから。」
「確かに、属性付与が欲しい。まともに攻撃が通らないと厳しいからな。」
一方、こちらは後衛のユー、サン、ココナ。
「ブレイオも準備良いか。」
「うむ。雷壁で守れば良いのだな。問題無い。」
「俺も結界の古祈を使うぞ。」
「えっと、お願いします。」
「ユーさん、気楽な感じで良いですよ。こっちでも回復も復活もできるから。」
「あぁ、助かる。おっと、そろそろ来るぞ。」
雷霊鬼のHPが50%を下回ったらしい。ゴロゴロという音が聞こえてきた。
なので、ブレイオの「雷壁」、そして、「結界の古祈」を転回。対象は、ブレイオを覗くパーティメンバー全員だ。
結果、ドッカーンという雷の音はしたが、ダメージの通知はなし。ブレイオは吸収したというログだったので、問題無く防げているようだ。
「助かった!魔法防御は自信あったけど、ちょっと心配だったんです。」
「う~ん、でもユーさん、ずいぶんMP使ったんじゃないかな?」
「確かに、消費は少なくは無かったな。だが、こいつを倒して報酬をもらったら脱出する予定なんだから、MPを余らせる必要は無いと思っているぞ。技能の経験値的にも、そっちの方がお得だし。」
「あぁ、なるほど。言われてみると、そんな話だったね。」
そこから15分後、問題無く雷霊鬼は討伐されたのだった。さすがに、今回は戦闘職の全員が適正レベルなので、スムーズだった。オニキスが付与魔法で前衛を支援してくれたことも効いているだろう。
ということで、報酬の授与、ドロップの分配が行われた。そして、俺が「聖銀の槍+1」の引き換えにもらったのは、「雷の鉄拳+1」だった。以前、ソルットで購入した「炎の鉄拳」系統を強化した武器になるのだが、属性は雷と炎の複合になっていた。虫や植物にも通るので、「シザーグローブ+1」には攻撃力こそ劣るが、砂漠以外の第5~第6マップでは活躍できそうだ。
「あの、ユーさん。そのモンスターが、幽鬼の召喚石から生まれたって本当ですか?」
「ブレイオか。2段階進化しているが、会っているぞ。」
「あぁ、進化ツリーはウィキで読んだよ。実物を見たのは初めてだけど、ゴーストじゃなく精霊というのが凄いね。」
「そっか。じゃ、これからも同じような子が生まれてくるのかな?」
「ん?ココナさん、幽鬼の召喚石がドロップしたのか?」
「あ、はい。そうなんです。ゴーストが出てくるのかと心配していたんですが、精霊だったら、行けるかな?って。」
「あいにく、見た目についてはわからないな。いや、フレンドに要求された動画が残っていたか。」
俺は、かつてアステリアに渡したことのあった動画を開示した。ブレイオが、幼鬼精、及び、若鬼精だった頃に収録したものだ。
「あ、けっこうかわいい。小鬼って感じなんですね。」
「ユーさん、動画で残しているなんて贅沢だね。でも助かったよ。」
「音声付きの動画にしないと、俺がわからないからな。まぁ、動画はこれくらいしか残していないんだが。」
俺が動画として残しているのは、フレンドへ報告した際に写真を求められたものだけだ。今の所、ブレイオやラフィが生まれたり進化したりした直後の記録、ということになっている。それ以外のものは、その場所に行けばいつでも体験できるか、一期一会で十分だからだ。
なお、動画の撮影は、ナビーの機能に搭載されているものだ。推奨の設定はアステリアに教えてもらった「対象の人物等を主体とした5CHフルオート」だ。5つくらいの地点から撮影した動画を切り替えて視聴できるため、全身がしっかり確認できるから、ということだった。
「雷の鬼精ね。せっかく出たんだし、ココナ、育ててみたらどうかな?」
「やってみる。生産の隙間にはなると思うけれど。」
「あ、ただ俺がやったのは古式召喚だぞ。当てはあるのか?」
「あぁ、そんなことがウィキにあったね。そっちは大丈夫。フレンドに古式召喚やっている人がいるから、その人に聞いてみるよ。」
その後、俺たちはトマの塔を脱出したのだった。