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「みんな、お疲れ様。」
「おぅ。今回のエクストラも楽しかったぜ。」
リョーマたちのパーティと、トマのギルド内食堂まで戻ってきた。打ち上げをするそうで、俺も呼ばれた。
「ユーさんは、古式祈祷術ですか。珍しいですね。」
「召喚モンスターの回復手段が必要になってな。最初は占星の方を考えていたんだが。」
「おかげで助かりました。あんな分厚い結界は初めて。」
「古式祈祷術」については、先日会った検証班カナミーから追加情報を受け取った。それによると、習得条件は真理とは関係なく、像の前進をしっかりと認識することが必要だったそうだ。このため、俺が像に触ってじっくり調べていたのは、ファインプレイだったことになる。
となると、真理とは違うが、一種の引っかけということになるのだろう。効率を求めるあまり「正面からお祈りして終わり」を繰り返していると、この条件を満たすのが難しくなるわけだ。
「ところでユーさん。イベントの時一緒にいたの、ソルットのサブマスだよね。海上戦で共闘した記憶があるんだ。」
「アレか。検証班に調べてもらっている所だが、どういう原理か、パーティ固定でついて来られてな。」
「住民だよな。けっこう目立ってたから、嫉妬に狂ったPKなんかには気をつけたがいいぜ。」
「やっぱり、そういうのいるのか?」
「ユーさんは見てないか。 悲報ソルットサブマス交代 っていうスレがパート17まで行ってたぞ。」
どうやら、リーネさんのファンクラブというのは存在していたようだ。あの人あちこち出没するから、目立つんだろうな。
なお、俺は基本的に掲示板は閲覧していない。この休暇期間は、ゲーム世界を存分に満喫したい、と考えていたからだ。あと、情報が必要ならまとめウィキを開けば良いし、人に意見を求めたいならフレンドに聞けば良い、とも考えている。
「そうか。だがむしろ、ソルット以外でもあちこち出没するようになって、歓喜しているんじゃないのか?イベント中は街のギルドにずっといたみたいだが。」
「あぁ、もちろん、そういう意見もあるし、イベントスレも、賑わっていたよ。例のPVにもいたしね。」
「そうか。ちなみに当人は、始まりの草原で冒険者のお世話をしているはずだな。」
「マジか。スレに書き込んでみようぜ。面白いことになりそうだ。」
こんな風に楽しめるプレイヤーもいることは良いことだと思う。楽しみ方が豊富であり、一年経つこのゲームでも廃れていないと言えるのだから。
「あ、そうそう。妖精連れてたよね。ここには呼べないのかい?」
「妖精じゃなくて魂体だけどな。枠も大丈夫か。」
俺は、ブレイオとラフィを召喚した。
「ん?食堂?」
「そうだ。この人たちは、今日一緒にトマの塔に登った人だな。先日の悪魔討伐にも協力してくれたぞ。」
そして、ブレイオとラフィも含めて、交流会を続けた。
「おぉ、人霊系って、こういうのありなのか。」
「あの時、草原で歌ってくれた子だよね。すごく助かったよ。」
「そっちもすげぇが、ブレイオも凄かったな。上空のモンスターが根こそぎ狩られてたの、見たぜ。」
「私、ラフィちゃんの装備が気になります。それ、霊布ですよね?」
霊布で思い出したことがある。アインステーフで、ブレイオやラフィの装備をアップグレードしても良いだろう。当時は、資金が足りなかったし、ラフィに至ってはレベル20だったため、装備制限に引っかかっていたのだ。
「ユーさん、すさまじいね。いや、人それぞれだとは言うけれど、よくこんなに特殊な子を揃えたものだよ。」
「そうは言うが、俺はゲームの範囲で動いてるぞ。人霊の召喚石だって、もう入手方法が確立されているからな。」
「え?マジか。ということは、俺も…」
「私も欲しい。シルキーっぽいのとかいたよね?」
ということで、後ほど、彼らにも召喚石を入手してもらうことになった。入手方法や、ラフィが召喚されたレシピ等は、まとめウィキに上がっていることを確認できている。それに、同系統のモンスターを召喚できるプレイヤーが増えてくれると、程よく紛れてくれると思うからだ。
なお、召喚直後の心勝負や、英霊イベントについては注意喚起をしておこう。それについては、本人に語ってもらった。
「心の強さね。さすがゴースト系。そういう設定ガチであるのか。」
「ん。英霊は危険。弱いと負ける。」
「どこの蔵書だったかは覚えていないが、未熟な心身のまま英霊を目指した者が、落ちた英霊になって暴走した、というのを読んだ記憶がある。それも真実だとすると、入手はできるけれど育成は茨の道って感じなんだろうね。」
なるほど、闇落ちルートか。まとめウィキでも、テイマー系のページだと、あえて虐待することで、そういうルートに進化させる戦術も掲載されていた。つまり、ブレイオやラフィの進化にだって、闇落ちルートがあってもおかしくないと言える。
「ラフィは、英霊の道を選んだら、どうなったと思うか?」
「わからない。でも、ユーたち、仲間だと思えなくなる。自分が強くなることでいっぱいだから。」
「強くなるね。間違ってはないのだろうけれど、英雄ってのは、力の強さじゃないんだぜ。リョーマなんか、俺より筋力低いのに参謀なんてなっちまったからな。」
「強くなる方向性がはっきりしていないのが、また危険な感じだよね。なるほど、確かに要注意だ。」
「ん。ユー、教えてくれた。英雄は、認めてもらうもの。今は、修行中。」
「アハハ。そういう意味だと、イベントでの君は、まさしく英雄だったと思うよ。みんな、感謝していたからね。」
「参謀にそう言ってもらえるとは鼻が高いな。良かったな、ラフィ。」
「え?ん。ありがとう。」
一方、こちらはアヤ…
始まりの草原で、メイレンの実践訓練をしていた。
メイレンは、魔法でしか攻撃ができないので、モンスターを見つけたら、どんどん魔法を使ってもらっている。
幸い、メイレンの魔法は強かった。狼やゴブリンなんかは、ライトランスを当てれば倒せるし、それが失敗しても、ライトボールを2回くらい使えば倒せていた。
「あ… アヤ…」
「え?メイレン、声出るようになったの?」
「お?ついに対話可能になったんだね?」
そして、実践を続けていたら、メイレンが声が出るようになったようだ。ユーさんの話では、ブレイオちゃんも、育てている途中で対話ができるようになったそうなので、それと同じようなことなんだと思う。
「うん。教えてくれて、ありがとう。」
「こちらこそだよ。これで、いっぱいお話できるね!」
「ユーさん… いや、正確には、ブレイオ君とラフィちゃんに助けられていたんだね。」
メイレンの声は、子供の声だった。男の子っぽい張りを感じるけれど、女の子でも、声に張りがある子はいるので、今はまだわからない。
「メイレン。どうする?もっと、練習する?」
「練習?魔法、がんばる。モンスター、怖いけれど、アヤが、一緒にいてくれるから。」
「うん、一緒だよ。あ、空見て。ふわふわな雲出てる!」
「ふわふわ?」
「一緒に描こうよ。」
「うん。描く!」
「あぁ、うん。対話できてもできなくても、やることは変わらないんだね。まぁ、この辺りモンスターいないし、メイレンちゃんもMP少ないから、休憩にはちょうどいいのかな?」
そんな風に、夕方まで草原で楽しく過ごした。
一人旅も楽しかったけれど、こうやって、一緒に描く仲間がいるのも、とても楽しいと思えた。やっぱり、メイレンを召喚して正解だったと思う。
戻ってきて、こちらはユーたち…
イールにて、「人霊の召喚石」を人数分獲得してもらった。で、ここには、高所恐怖症というパーティメンバーも参加している。その人、レイミさんは、ちゃんとした召喚士だった。
「ふむ~。人霊って、選択肢が多過ぎ。不死、妖精、亜人… これ、ゴーストに精通した人っぽい外見をしているモンスターなら何にでも繋がりそうだわ。」
「そうか。召喚士だと、石板から自由に出し分けができたりするのか?」
「そういう召喚石も持っているけれど、今回のについては無理。契約できるモンスターは幅広いけれど、一度契約したらその子か、その眷属しか出せない。」
「眷属はありなんだな。」
「モータルゴーストのミニゴーストとか、デュラハンの馬とか、そんな感じね。際限なく部下を出せるわけじゃないから、どちらかと言うと、召喚したモンスターが持つ特殊能力を助ける感じ。」
当然というか、召喚石1個から選べるモンスターなので制約はあるようだ。だが、出し分けのできる召喚石なんてものもあるのか。それはそれで気になる所だ。
「ユーさん、感謝するわ。彼らの召喚モンスターの世話はしっかりこなすし、注意事項も心に止めておく。」
「僕らもだね。種まで使わせてもらっちゃったし。あ、これお礼だよ。」
「これは、SKL10じゃないか!良いのか?」
「これだけしてもらったからね。君のゴーレムを見て、これなら失敗が無いって思ったんだ。」
彼らは、俺が「薬草学」持ちだったことを利用して、塔攻略中に貯め込んだ種を一気に接種していた。ベースが2倍増えるのだから当然のことである。俺だって同じことを考えるだろう。
そんな俺に、お礼としてくれたのは、「ゴーレム用メモリー SKL10」だった。イベントコイン15枚もした超貴重品である。
なお、彼ら6人とは、しっかりフレンド登録をした。今後、共闘することもあるかもしれない。