14-03 アヤとメイレン、洗浄に挑む

改定:

本文

「あ、見えてきたよ。冒険者ギルドだね。」

「わぁ、大きい。」

「物の持ち込みが多いから、敷地が広いんだよ。とにかく入ろうか。」

寄り道はあったが、とりあえず冒険者ギルドに到着したようだ。そして、敷地が広いらしい。

俺は、思考入力で指示し、ナビーの先導に従って直進。扉は中央開きのタイプで、手で押したら押した方向に開いた。

「いらっしゃいませ。えぇと… ご用件は?」

「俺たちは冒険者だな。図書室が利用したい。」

「あ、はい。えぇと、自由に利用して下さい。」

「あれ?図書室って必要だっけ?」

「俺は必要だな。アヤさんはどうする?」

「あ、そっか。行く行く。」

「じゃ、私は依頼確認しとくよ。」

ウェビンの冒険者ギルドに着いたらやるべきこと… それはいつも通り、図書室でのマップ情報収集だ。アヤは印術かな?

その後、俺はアヤと図書室へ向かった。リーネさんは依頼を確認するらしい。

「わぁ。日刊お店ガイドなんかもあるんだ。」

「商業都市だもんな。だが、日刊紙ということは、毎日更新されてるんだな。」

「ユー。荒野には、炎を使うモンスターがいるの?」

「ん?あぁ、いるぞ。炎で焼かれると燃焼することがあるから注意な。」

図書室では、ブレイオやラフィにも本を読んでもらった。この次の街へ通じるマップ「W3 ウェビンの荒野」についての情報である。まぁ第3マップなので、情報なんて無くてもごり押しできると思うけれど。

それと、この街には商店が多いためか、日刊紙としての店舗ガイドがあった。さすがに、内容は薄いようで、いくつかの店舗をピックアップしているだけのようだが、毎日発行していることはさすがだと思う。錬金具や技能を活用しているのだろう。

「ほ~い、調べ物は終わったかな?」

「こっちは終わってるぞ。アヤさんはどうだ?」

「あ、うん。たぶん終わったかな?新しい印とかは無かったんだけれど。」

アヤの話では、印術用の魔法陣はあったが、イスタールの図書館で読んだものと同じだったそうだ。まぁそんなこともあるだろう。

「それじゃ、さっそく二人にはお仕事をしてもらおうかな。ちょうど近くに狩場ダンジョンができていて、大量の武具が出てきたんだ。その洗浄と浄化だってさ。」

「洗浄が必要な武具… ということは、ゴブリン系か?」

「さすがユーさん。亜人の広場だよ。一度洗浄しないと素材に戻すこともできないからね。」

「だそうだ。アヤさん、メイレンと一緒にやるか?」

「うん。洗浄でもいいんだよね?やってみるよ。」

リーネさん、よくピンポイントにそんな依頼を見つけてきたと思う。そして、ダンジョンが「亜人の広場」なのだとすれば、この街は、そのドロップである汚れた武具で溢れるだろう。ミーミのゴブリン祭りのように、「ゴブリンの巣から持ち帰られた一品物」に出会えることが無いのだから…

「了解。で、アヤさんは、臭い対策のマスクと手袋は持っているか?」

「マスクと手袋?あぁ、そっか。汚いって言ってたね。手袋はあるけど、マスクは無いよ。これ、もらっていいかな?あと、メイレンの分も…」

「良いぞ。ちなみに、浄化や洗浄をすれば2~3回は使えるが、基本的に消耗品だな。」

「そっか~。薬草の匂いしているってことは、練り込まれているんだよね。洗ってもそっちが切れちゃうのか。」

図書室でやることも終わったし、準備も整った。なので、俺たちは受付へ移動し、依頼の手続きを進めた。

「はい。洗浄依頼ですね。えぇと、ユー様も大丈夫… でしょうか?」

「この人は武僧だから浄化も洗浄も大丈夫だよ。あと召喚モンスターも洗浄できるんだ。」

「え?あ、なるほど。では、こちらへお願いします。」

受付の男は、俺たちがギルドに来た時から惑っていた印象だ。たぶん俺が盲人なのと、扱いに慣れていないのだろう。

何はともあれ、無事に受注手続きは進み、俺たちは素材が集められた倉庫とやらへ連れて行かれた。以前ゴブリン素材が山になった時特有の臭いがしてきたので、間違いはないだろう。

「え?凄い量!これ、全部やるの?」

「いえ、今回の依頼は時間制となっております。できるだけ数をこなしてもらえれば幸いです。どうせ、まだまだ納品されるでしょうから。」

「まだ増えるんですか?」

「おそらく。件のダンジョンが本日の夜までのため、稼ぎに向かっている冒険者が多いんですよ。」

どうやら、亜人の広場は今日中に消えてしまうらしい。それなら、こうしてたっぷり仕事ができるのは、長くても明後日までだろう。メイレンのレベル上げ… に使うのは相性的に微妙か。

その後、俺たちは素材の洗浄を始めた。もちろん、ブレイオ、ラフィ、メイレンにも参加してもらう。リーネさんは声がしないので、別のお仕事に行ったのだろう。

ゴブリンたちからドロップした各種アイテムは、俺とアヤ、メイレンが集水や浄水、または浄化の魔法で洗浄していった。そうやって水洗いされたものを、ブレイオやラフィが送風の魔法などで乾かしていくこととした。

「あ、呪われた兜だ!メイレン、浄化できる?」

「うん。やってみる。」

「あ、いいよいいよ。その調子。ちゃんと浄化できてる!」

ゴブリンたちのドロップだが、たまに呪われた武具が出てくる。俺は入手したことは無いが、レアドロップに指定されていて、浄化すれば、第4マップくらいで通じる武具になるそうだ。

そんな呪われたアイテム類は、メイレンに任せて浄化してもらうこととした。「聖福」の条件は、ここで洗浄をすれば普通に満たせるだろうが、浄化の経験はしっかり積んで欲しいからだ。

その後3時間ほど浄化を続けた結果、俺たちは、1000個近いアイテムを捌くことができた。

これは、ポーションも含めてMPリソースが潤沢であったことや、魔法のレベルが高いため、少ない消費で手早く洗浄できたことが影響している。またブレイオやラフィ、メイレンなどは、MPの自然回復に補正のある種族でもあるため、補給が楽だったこともある。まぁ、ラフィはポーションが飲めないので、自然回復待ちの間は呪われたアイテムを探してもらっていたのだけれど。

とはいえ、さすがに400個以上も洗浄すると、相応にMPは使う。俺のMPは1200あるが、「集水」の消費MPは現在5、「浄水」の消費MPは現在12だ。だからこそ、MPポーションには普段からお世話になっているわけだ。

「アヤさん、お疲れ様だ。」

「あぁ、大変だったね。でも、山、けっこう減った気がするよ。途中で補充されてたけれど。」

「そりゃ、現在進行形で増えているんだからな。午後もやるか?」

「メイレン、まだやりたい?」

「うん。いっぱいキレイにした。もっとやりたい。」

「そっか。じゃ、一緒にがんばろうね。」

アヤやメイレンも、音を挙げずにやり切っていた。絵を描いている時なんかそうだが、集中作業が苦にならないのだろう。まぁ俺もこの手の作業はゲーム内で慣れてしまったわけだが…

「お?ユーさんたち終わったんだね。お昼ご飯かな?」

「だな。そっちはずっと仕事してたのか?」

「仕事と言えばそうなるのかな?地下訓練場で模擬戦していたんだよ。」

どうやら、俺たちが仕分けをしている間、リーネさんは地下訓練場にいたらしい。

話によると、「冒険者を鍛えて欲しい」なる指名依頼がきたそうだ。OBになると、けっこう頼まれるものらしい。

「えっと… 大丈夫だったんですか?」

「ここにいるということは大丈夫なんだと思うぞ。それに、少なくとも倒されてはいないみたいだからな。」

「アハハ、ばれちゃったか。確か、異人だとパーティを組んでいるとわかるんだったね。とりあえず、しっかり鍛えてきたよ。」

この街は第3マップ内だ。しかも、ソルットと違って、分岐路は無いので、この街を拠点に活動している冒険者は、高くてもレベル20である。そんな冒険者が、今のリーネさんに勝てるわけはないだろう。

いや、リョーマたちから聞いた話では、一定数の追っかけファンもいるという話だったか。他マップから来たプレイヤーが、彼女に挑んだ可能性はあるだろう。

「そうか。ちなみに、レベル30以上の冒険者は来ていたのか?」

「いたよ。レベル50近かったけれど、アレは異人だったみたいだね。さすが、良い腕だった。」

「そうか。剣術の育成になったなら幸いだな。」

「確かに、最近はラフィちゃんと一緒だったから、自分の剣はそんなに育っていなかったね。その点では、やりがいはあったよ。」

「ごめん。私じゃ、相手にならない。」

「ラフィちゃん、早く強くなって、追いついて来なよ。じゃないと、私がユーさんも含めてボッコボコにしちゃうからね。」

その後は昼食を取りMPを回復。午後も2時間ほど作業を続けたのだった。