本文
たっぷりと洗浄を行なった後は、再びウェビンを観光することにした。目的は、掘り出し物探しと、今夜の寝床探しだ。
「この辺りは食材が多いね。野菜やお肉、調味料かな?」
「食材か。となると生産職向けのものか。」
「そういうことになるね。そのまま食べるのは無理かな。」
「料理があれば食べられるんだよね?でも、う~ん。」
俺たち3人は、少なくとも「料理」の技能を持っていない。
俺の場合は、以下の2つの理由がある。アヤやリーネさんもたぶん同じような理由があるのだと思う。いや、アヤは、「料理の飾り付けは好きだけど、料理そのものはやらなくていい」と言っていたか。
- インベントリーがあるので、現地で料理をするよりも、料理済みの食べ物を持ち運んで食べた方が楽である。
- 観光を目的としているので、行った街や村で食べられている物を購入、補充するプレイスタイルを選んでいる。
今歩いているエリアは、商店街のように、左右に露店が並んでいるらしい。あちこちから、商談しているような声も聞こえている。
ただ、どちらかと言うと、生産職や、町民向けの商品が中心だったようだ。木材や革なんかも売られていたので、アヤが少し物色していたらしい。俺は、買うべき物が食べ物くらいしか思い浮かばなかったので、ただ歩くだけになっていた。
続いて行きついたのは、家具屋だった。テーブルや椅子、棚などが売られているが、旅人向けに、アウトドア仕様の家具もあるらしい。
「家具だね。ユーさん、見てみようよ?」
「あのテーブルと椅子だと不安か?」
「ビーチで使っていたヤツだよね?アレも良いけれど、背もたれとか、クッションがあると便利じゃないかな?」
「なるほど。とりあえず触らせてもらうか。ブレイオやラフィの好み探しにもなるかもな。」
俺たちのインベントリーには、テーブルや椅子が入っている。
俺は、主にビーチで休憩する時の用途だ。アヤやルーカスと一緒にソルットを観光した時に購入した大テーブルと、スツールタイプの椅子だ。今はパーティを組んでいるため、椅子の数だけは増やしてある。
アヤは、座って絵を描くためなのか、個人用の小さなテーブルや椅子を持っているらしい。ただ、メイレンの分は持っていないと思われるので、買うならそれが候補だろう。
そして、リーネさんも、4人くらいで利用できるコンパクトなテーブルと椅子を持っているらしい。以前、錬金術師のセラさんと3人で魔生の荒野に挑んだ時に浸かっていたような記憶がある。
「いらっしゃい。皆さん冒険者かな?」
「はい。アウトドア用の… 外で使えそうなテーブルと椅子、あと、敷物やクッションなんかはありますか?」
「あっちにまとめてあるよ。」
「あ、本当だ!ありがとうございます。」
店員があっちと言った場所に連れて行ってもらい、家具を物色… いや、物触した。
「なるほど。温泉にあったのはコレだったか。」
「え?あ、そうだ。確かに露天風呂にこんな形の椅子あったね!」
「水濡れにも強いようだな。ラフィ、持ち上げたり動かしたりしてみてくれ。」
「ん。持てる。でも、なんで?」
「筋力が足りないと動かせないからだな。アヤさんは行けるか?」
「これだよね?えっと… あれ?大きいから動かしにくいけれど、重すぎてダメってことは無かったよ。なんでだろう?」
最初の掘り出し物は、ヒッツなどの温泉にあった物に似たデザインの座椅子だ。全体的に木製だが、ヘッドレストまで付いているので、ゆったりと座ることができる。肘置き部分にカップを置くスペースもあった。
また、重量は10kg程度だったので、ラフィやアヤの筋力でも持ち上げたり動かしたりすることが可能だった。現実だと公園などにある長ベンチくらいの重さがあることになる。だが、ここはステータスのある世界なので、筋力44のアヤでも持ち運びが可能なのである。
なお、メイレンは、まだ持ち上げることもできなかった。単純に椅子が大きいこともあるが、それ以上にメイレンの筋力が低い影響もあるだろう。今のステータスだと、レベル20くらいになれば、少し動かす程度なら可能になるだろうか…
「おぉ。これが例のスライムクッションか。」
「主人。それは生きていないようだが、スライムの素材を使ったクッションか?」
「その通りだな。弾力があるのと、汚れても水で洗い流せるそうだ。」
「そうだね。ここには無いみたいだけれど、特殊な方法で養育した生きたスライムを使ったクッションもあるよ。」
「え?それはスライムに座るってこと?」
「そう。空気中の魔力や水分を食事とするから、私たちが座っても大丈夫だね。生きてるから、震えるような心地よさなんだって。」
次の掘り出し物は、椅子に敷くクッションだった。現実ではメモリーフォームなどと呼ばれる、モチモチとしたクッションだ。スライムの素材を集めているので、弾力性抜群である。
このクッション最大の特徴は、汚れの処理が簡単なことだ。水をかけたり、浸したりすれば、汚れが勝手にはがれる上、クッション自体は水を吸ったりしないそうだ。さすがファンタジーのスライムである。
結局、俺は座椅子とクッションを6つずつ購入した。アヤとメイレン、リーネさんの分も含まれているのは、インベントリー枠の都合だ。それぞれが椅子とクッションを出して設置するより、最初から統合された物を出し入れした方が簡単なのである。
次に向かったのは教会だ。「始まりの街との違いを確かめる」ということで入ってみることになった。
ナビーによると、今回は扉が閉まっていた。近づいていくと取っ手部分に触れることができたので、握って押してみたら開いた。
「こんにちわ。ここは、ウェビン教会です。」
そのまま進んで行くと、入口に受付でもあるのか、横から声をかけられた。
「えぇと、あんたが、ここを管理している人でいいか?」
「はい。この教会に努めております。」
「俺たちは旅の冒険者だ。祈祷の巡礼をしていてな。ここにある神様にも一度挨拶をしたい。」
「なるほど。良い心がけですね。この教会にあるのはドランザス様の像です。自由にご祈祷下さい。」
「わかった。それと、像には触れて良いだろうか?」
「像に触れたいですか。事前に手を清めることと、傷を付けないよう注意して頂ければかまいませんよ。」
「感謝する。」
「あ、像はあっちだね。私が連れて行くよ。」
リーネさんに像の所まで連れて行ってもらった。そして、浄気を使用した上で触れてみた。
「ドランザスか。翼がちょっと違う気がするな。」
「うん。前に描いた時とちょっと違うよ。羽ばたいている途中みたいな感じかな?」
やはり、街によって、設置されている像には少しずつ違いがあるようだ。今回、アヤがスケッチと比べてくれたことで、革新を持つことができたと思う。
なお、他の神については、壁に描かれているらしい。ただ、ゲーム的にはフレイバー要素であるため、鑑定したり、壁の神様に祈ったりすることに意味は無いそうだ。強いて言えば、「お祈りする時には、正面の像に加え、描かれている神にも届くように考えると良いかも?」という噂があった。
一応、神が描かれているという壁にも触れてみたのだが、鑑定結果は以下の通りだった。これは、「真理の守り」を付与したリーネさんに鑑定してもらった時の結果と同じだったので、「梯子を設置するなどして、目線的なものを合わせる」類の作業は不要そうだ。
壁:
種別: オブジェクト
説明: 商業都市ウェビン内の教会を構築している壁。壁には、この世界を創造した4神「アーレム」、「ドランザス」、「ファムラ」、「タラスタ」が描かれている。
その後も、露店で食べ物などを補充していたら夕方になったので解散。アヤとリーネさんは、二人で宿に入るらしいが、俺は宿に行く理由が無かったので、そのままログアウトした。
翌日、アヤから聞いた話では、二人で向かったのは「乙女の憩い邸」という女性専用の宿だったそうだ。大きな浴場を満喫したり、メイレンと一緒にベッドで寝たりしたとのこと。