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ダンジョン攻略を終えた後、俺たちはウェビンのレストランに入り、昼食を囲んだ。
「皆、お疲れ様だ。」
「うん。お疲れ様~。でも、海、とってもキレイだったね!」
「確かにそうだね。海底ダンジョンの最奥まで潜った経験は無かったから、新鮮だったよ。」
「今回は特殊だったからな。モンスターがわんさか出るダンジョンだと、こうはならなかっただろう。」
「少なくとも、別れて魔法陣を探すことはできなかっただろうね。」
今回は、海底に適用できない鳥系モンスターが選択された影響が大きい。もし、ダンジョンボスで出てきたマリーンイーグルなどが襲ってくるような状況だったら、アヤやメイレンでは厳しかっただろう。
なお、通常のマリーンイーグルは、ソルットの海底や、そこから南西にある「ミネール海域」に出現するモンスターだ。格で言えば、第7~第8マップに相当するので、今回戦ったボス等とは、比べ物にならないくらい手ごわいだろう。まぁ、それはだいぶ先の話になるだろうけれど。
そこへ料理が運ばれてきた。俺の満腹度は、まだ80%くらいなので軽食なわけだが、ひとまずいただくとしよう。
「ユーさん。リアルの相談なんだけど、いいかな?明日と明後日はログインできる?」
食事をしていると、アヤが話しかけてきた。どうやら、リアルの事情を踏まえた相談のようだ。
食事時でなくても… とは思うが、大事なことではある。リーネさんもいるけれど、知っていてもらってかまわないだろう。
「こっちは、リアルで1.5日くらいはログインする予定だな。さすがに、最終日の後半は現実に戻らないと厳しいと思っている。」
「だよね。私、明日はダメで、明後日は来られるんだ。でも確かに前半ぐらいで戻った方がいいのかな?」
5月の連休も残り2日になってきた。ここからは、昼間に仕事して夜を遊ぶか、週末にまとめて遊ぶかが必要になるだろう。
ただ、そうした隙間時間でも、単純作業系の依頼をこなしたり、技能の育成を進めたりできるので、うまく付き合いたい所だ。これまでは時間がたくさんあったため、マップの開拓に力を注いできた。その分、薄く広くしか観光できていない場所もあると思っている。
「了解。で、残りの時間はどうしたいんだ?」
「う~ん。できれば、メイレンの進化と、あと、北の温泉と雪遊びだっけ?行ってみたいんだ。」
「メイレンの進化なら、今からホムクの試練洞窟へ入れば、今日中に行けそうだな。それで、次回にキースノーズ雪原でどうだ?」
「いいの?レベルだけずいぶん上がっちゃうかもしれないけれど。」
「メイレンの技能は十分に育っているはずだから、もう進化まで上げて良いと思うぞ。それに、技能の育成なんかは、平日の隙間時間で稼げるからな。」
「あ、そっか。確かに、朝から夜までは無理だけれど、隙間時間で一緒に遊べばいいんだね。」
メイレンは、現在レベル17だ。ホムクの試練洞窟でトレインして狩れば、レベル20までは持っていけるだろう。今のメイレンならついて来られるはずだ。
「予定はまとまったかな?お姉さんにも説明して欲しいのだけれど?」
「もちろん説明するぞ。むしろ、この後の狩りに協力して欲しいからな。」
俺は、今アヤと決めた予定について共有した。
「なるほど。今日中に試練洞窟でメイレンをレベル20にするか。まぁ、できそうだね。」
「あそこは索敵魔法で釣り出せるし、光弱点が多いからな。」
「その後はキースノーズ雪原か。それで、間が4日空くみたいだけれど、どうするのかな?」
「明日から4日間だな。アインステーフで装備を整えて、イールに挑んでみようかと考えている。」
「イール?えっと、ヒマランのさらに東だっけ?」
「だな。アヤさんには悪いが、俺たち自身のレベル上げをしたいと思っているんだ。目標は、ラフィのレベル40だ。」
東の第6マップ「イールの樹海」では、 レベル33~36 までのモンスターが出現するため、普通に狩りをするだけでもレベル40まで上げることができる。そして、レベル40とは、ラフィの種族が3回目の進化に至るレベルなのだ。
「ラフィちゃんの進化か~。うん、がんばってよ。進化したラフィちゃんが見られるの楽しみにしているから。」
「というわけで、メイレンの進化だな。さっそく行くか。」
「うん。私もがんばるよ!」
食後、俺たちはホムクの試練洞窟へ移動し、狩りを始めた。
「ブレイオは雷探知、ラフィは広域索敵魔法を頼む。たぶん、これでモンスターがあっちから来てくれるだろう。」
「心得た。モンスターを引き付ければ良いのだな。」
まずは、索敵系の魔法を使って、モンスターに逆探知させる。その上で、洞窟の中央部付近まで移動しながら、向かってきたモンスターを狩っていく。
「リビングロッドが来るよ。あと、プチデビルも2匹だね。」
「メイレン。光を中心に攻撃魔法だ。近づいてきたら、俺たちの後ろに逃げるといい。」
「うん。がんばる。」
「あ、バインドってしたがいいんだっけ?」
「アヤさんは、バインドと、あとメイレンの補助を頼む。あっちが格上だからな。」
こうして、試練洞窟での狩りは進んでいった。
この辺りのモンスターなら、メイレンは一匹につき100前後の経験値を稼ぐことができる。このため、80匹ほど倒せば、レベル20には至れるだろう。1エンカウントで3匹前後のモンスターが釣れるので、楽勝である。
(ホムクの試練洞窟 1層 中間地点に到着しました。)
「ここが中央部か。ラフィとブレイオは、前後のモンスターを釣ってきてくれ。モンスターは倒さないようにな。」
「ん。行ってくる。」
「ユーさん。私はどうしたらいいかな?」
「今はここで待ち狩りだな。狩り尽くしたら、奥の方から釣ってきて欲しい。」
「了解。」
そうして、狩りを続けること3時間ほど…
無事に、メイレンはレベル20に至った。そこで提示された進化先は以下の通りだった。
描光の妖精
種別: モンスター・妖精
説明: 光を操り、望む形を描く地盤を身に着けた妖精の一種。新たな成長に向けて、日々の鍛錬を重ねる。
聖光描く妖精
種別: モンスター・妖精
説明: 神聖な光を用いて望む形を描く妖精の一種。妖精の描いた絵は、持ち主に細やかな幸福をもたらすとも伝承されている。
前者は順当ルート、後者は聖者ルートだろう。
「わぁ、どうしよう?どっちも凄そうだよ!」
「だな。アヤさんは、どっちがいいとかあるのか?」
「う~ん。聖光描く妖精がいいかな?私とは違う絵が描けるかもしれないんでしょう?それって面白いと思うんだ。」
「聖光」というのが、絵を描くのにおいてどのような意味があるのかはわからない。だが、少なくともアヤが持つ描画技能とは少し毛色が違うのだろう。
「それとね。フレイバーテキストが可愛いと思うんだ。」
「細やかな幸福か?」
「うん。メイレンが描いた絵を見て、みんなが幸せになるんでしょう?それってステキだと思うんだよ。」
このゲーム世界における「聖者」は、「聖なる力を用いて人々を癒したり導いたりする者」だ。なぜならば、この世界には「祝福」や「浄化」といった技能があり、モンスターに溢れた世界の中で、様々な恩恵をもたらしているからだ。
しかし、「聖光描く妖精」は、そこに新たな意見を投じるのかもしれない。描いた絵で、周りの者が少しでも幸福になる、そして、それが聖なる光によるものであれば、それは正しく聖者の営みと言えるのだから。
「ということで、メイレン。私、聖光描く妖精になって欲しいんだ。きっと楽しいよ!」
「聖なる光?うん。面白そう。やってみる。」
メイレンも良いらしい。ということで、さっそく進化を行なった。
名前: メイレン
種族: 聖光描く妖精
種別: モンスター・妖精
レベル: 20
体力: 33
魔力: 66
筋力: 21
防御: 33
精神: 51
知性: 66
敏捷: 30
器用: 78
技能:
適性: 杖術15, 中級描画3, 中級彫刻1, 魔法(光23, 闇17, 土11, 水12, 風10, 木11, 治療20, 付与1)
技術: 念話8, 魔力制御2, 高速浮遊1, 精神統一2, 危険感知17, 索敵魔法17, 観察18, 疾走10, 遊泳12, 安定移動10, 跳躍8, 聖福
支援: 光の心, 言語(人類), 世界知識, 美的感覚, 視力強化(暗, 色), 繊細, 直感6, 魔力感1
耐性: 混乱抵抗, 幻影抵抗, 暗闇抵抗, 封印抵抗, 魔抵抗, 光属性耐性
特質: 召喚体, 妖精
装備:
白木の杖, 精霊銀の彫刻刀, 霊布の胴衣, 木綿の頭飾り, 木綿の靴下, 獣革の靴, 魔力の指輪
進化したメイレンは、種族適性なのか、「聖福」技能を身に着けていた。条件としては、「不死・ゴースト系の討伐」が足りてないはずだからだ。まぁ、習得できたなら、それはそれで良かったと言える。
あとは、「光属性耐性」、「封印抵抗」、「魔抵抗」などが生えていた。フレイバー要素なのだろう。
「アヤ。進化したよ!」
「わぁ、メイレン、男の子になったんだね!よろしく!」
さらに、進化したメイレンは、男性っぽい姿になったようだ。幸い、聞こえてくる声から、アヤはうれしそうなので、性別が原因で亀裂が生じるような心配はしなくて良いと思えた。
その後、俺たちは試練洞窟を脱出し、ホムクのギルドまで戻ってきた。
「今日はありがとう!」
「よかったな。メイレンも立派になったようだし。」
「うん。ユー、ありがとう!」
進化した後、メイレンは俺にも抱き着いてきた。その時にわかったのは、ラフィより背が高そう、ということだった。浮遊しているからかもしれない。
「今度会う時は温泉と雪遊びだね。楽しみだな~。」
「雪原対策の装備は用意しておいてくれ。キースノーズまでの道中は普通に襲われるからな。」
「わかってるよ。おなか空くから、食べ物たくさん持って行かないと。」
キースノーズ雪原は、その寒さが原因で、満腹度の消費がほぼ2倍になることが知られている。これは、厚着をしても、冷感耐性を付けても変わらない。後者は「冷感耐性薬に、満腹度消費を増やす副作用がある」影響なのだが。
幸い、襲ってくるモンスターの対処は容易だ。炎属性魔法の通りが良いのと、けっこうな頻度で使用される凍結攻撃に抵抗できる手段が豊富だからだ。
「それじゃ、ユーさん。また今度ね。」
「おぅ。またな。」
そこまで話をした後、俺たちは解散した。
明日は、アインステーフへ移動、武具調達だ。