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「E6 草木に飲まれた地 イール に入りました。」
買い物とスパ、その後の回復を終えた俺たちは、ついに目的地、E6に戻ってきた。まぁ、アインステーフから転移してきただけなので、仰々しいものではないのだけれど。
「主人。ついに、この先に挑むのだな。」
「そうだ。とはいえ、レベル上げが目的だから、今日は近場で狩りの予定だぞ。」
イールに到着したのは、ゲーム内で言えば2カ月近く前だった。この間は、ラフィの育成をしたり、イベントに乗り込んだりしたのだが、そのおかげで、育てたかった技能をしっかり育てることができた。
「ユー。この先、行くの?」
「お?ラフィは、何か気になるか?」
「ん。この森、私たちを誘っている気がする。」
「ここは、モンスターに滅ぼされた上に、草木に飲まれた地だ。だが、臆することは無いぞ。この森の先に、人が住んでいる街や村はたくさんあるからな。」
「そうなの?」
「その通りだよ、ラフィちゃん。この森は怖い所かもしれないけれど、それを乗り越えていった人々はたくさんいるんだ。まぁ、私はまだ超えたことが無いんだけどね~。」
ということで俺たちは森の中へと踏み込んだ。
「E6 イールの樹海 に入りました。」
さて、いつも通り、出現するモンスターの整理をしよう。俺とブレイオだけでは厳しいと判断した理由だ。
森渡りす: 保護色になっていて視認しずらい栗鼠系のモンスター。立体起動や特攻看破を持ち、風属性の魔法や投擲、前歯などで攻撃してくる。またHPが減ると、アイテムを盗んで逃げようとする。
ヘビーディア: 足が発達した鹿。突進や踏みつけで攻撃してくる。悪路走破系の技能を持っているため、バインドや足払いがほぼ効かない。
甲殻蟷螂: 硬い甲殻を持つ蟷螂。近接での鎌術で攻撃してくる。役割としてはタンクだが、特攻看破を生かして、防具の隙間などを狙ってくるため、正面から近接戦闘すると消耗が激しくなるらしい。
シードグール: 「寄生系の植物に乗っ取られてさまようようになった」という設定のゾンビ種。ある程度近づくと、恐怖や暗闇効果のある「ゾンビブレス」を吐いてくる。
スリプルバタフライ: 所々にある花畑エリアに出現。眠り粉を連発してくる。またHPが減ると吸血もし出す。周囲のモンスターを引き寄せる場合があるため、睡眠耐性の先生にするには工夫が必要。
水草の性: 水、木属性複合の精霊の眷属。水や木属性の魔法で攻撃してくる。水、風、炎、光、木、氷という6つの属性を無効化するが、残り4属性が特攻になっている極端なモンスター。
トレントウォーカー: 通常は木に擬態しているが、一定範囲まで近づくと動き出す。仲、遠距離では木属性や風属性の魔法を使うが、接近時にはよく撓る幹をたたきつけてくる。
ハンマープラント: ヒマラン大草原にもいた植物。茂みの中から弦を伸ばしてくる。
森妖精: 公式イベント中に通った森で戦ったモンスター。バインド、超回復、ドレイン持ちのため倒すのに時間がかかる。もたついていると複数匹寄ってくる。
停滞の嬢王蜂: 虫の闘技場で戦った危険なモンスターの一種。腐り蜂の群れを放ってくる。また、未了効果のある甘い香りを用い、誘い出した相手のHPを吸ってくる。
「4匹の気配だね。シードグール2匹、ヘビーディア、森妖精かな?」
「ラフィ、吹雪で行けるか?」
「ん。」
「ブレイオは、ディアに魔法な。水弾でびしょぬれにしてから雷だ。」
「承知!」
「それなら、私は森妖精だね。ユーさんは、とりあえず前に行けば誰かしら当たるんじゃないかな?」
「てきとうだな。いや、事実だけれど。」
さっそく、戦闘は始まった。
とはいえ、こちらには秘密兵器とも言えるラフィがいる。「樹木殺し」により、植物の性質を持つモンスターに有利だ。そして、俺たちは能力的にも十分に育っている。
「オーン!ドドドドド!」
「ぬ、させん!」
聞いたことのある鹿野鳴き声が突っ込んできた。そしてブレイオが反応、ズドーンという音がして吹っ飛んだ。落雷の魔法をうまく命中させたようだ。
ヘビーディアの弱点は水属性だ。しっかり踏みしめる足はあるが、ぬかるんだ地面は苦手であるらしい。そして、水をかけた後なら、雷属性でのダメージ増加が狙える。
俺は「雷の鉄拳+1」にパージ、音を聞きながら近づいていった。すると、正面から汚れた水のような臭いがしてきた。さっき聞いた通りのモンスターしかいないなら、きっとシードグールの臭いだろう。
そのまま歩いて行くと、前方から「バー」という音がして、もわっとした何かを感じたが、それだけだった。さらに近づいて行くと、何かに触れた。
シードグール:
種別: モンスター・不死・植物
レベル: 34
HP: 79%
状態: 敵対、真理の枷+5
説明: 人に似た身体を持つゾンビ。しかし、その本体は体内に寄生する植物の種であり、子孫の苗どころとなる体を求めさまよう。
識別:
体力: 153
魔力: 34
筋力: 68
防御: 51
精神: 68
知性: 51
敏捷: 17
器用: 17
属性: 木
弱点: 炎
掴んでいるので、投落で地面にたたきつける。そして、炎属性付与からの連踏を打ち込むと倒すことができた。少々HPは高いが、「雷の鉄拳+1」による炎属性増幅は偉大だな。
すると、斜め右前から、同じようにバーという音がして、もわっとした何かを感じた。その方向へ近づくと、またシードグールだったので、たぶん、さっきのバーという音の正体が暗闇と恐怖のブレスなのだろう。
「モンスターの群れを倒した。経験値を、ユーは405、ブレイオは800、ラフィは1884獲得しました。」
その後、ボッコボコにして倒したら終わった。そして、たった4匹で2000近い経験値を得たラフィだった。現在がレベル34なのだから、当然のことだ。
とりあえず、浄水を浸かって手を洗い、送風を使って悪臭を散らしておく。シードグールの臭いが体に残っているせいで、モンスターを引き寄せても困るし、こっちが臭いをわからなくなることも不便だからだ。
「お疲れ様。予想したよりも順調だね。ラフィちゃんの魔歌が効いてるのかな?」
「俺たちもそれだけ強くなった、というのはあるだろうが、ラフィの力は大きいぞ。樹木殺しの本領発揮、といった所だな。」
「ん。ユーやリーネを襲う植物、私が許さない。」
「おや?次が近づいて来ている?いや、徘徊している感じかな?」
「徘徊しているのは森渡りすや甲殻蟷螂、シードグールだな。ちなみに森妖精や水草の精は探知魔法で向かってくるタイプだ。残りは、近づくまでは持ち場に留まるタイプだったか。」
「あぁ、小さいのがいるからりすだろうね。あとは、気配がわかりにくいから、蟷螂?いや…」
「主人。精霊の眷属の気配だ。」
「水草か。ブレイオ、見えたら落雷で落とせ。あいつが近くにいると炎なんかが消されたりするそうだ。」
「心得た。」
程なくして2戦目が開始した。リーネさんによると、森渡りす2匹、水草の精1匹とのことだ。
「うわ!あのりす避けるのか!でも、立体起動なら私も負けないよ!」
「いや、小さいやつを追いかけるのは効率悪いぞ!ブレイオ、落雷でたたき落とせ!」
「キュ!」
なんて話をしていたら、後ろからそんな声がして、何かギュっとされた。森渡りすだろう。捕まえて滝落をしたら倒せた。
森渡りす:
種別: モンスター・獣
レベル: 35
HP: 53%
状態: 敵対、真理の枷+8
説明: 食料を求めて樹海を駆け回る栗鼠。旅人を見つけると、立体的な動きで翻弄し襲いかかる。
識別:
体力: 35
魔力: 70
筋力: 52
防御: 35
精神: 70
知性: 52
敏捷: 122
器用: 70
属性: 土、風
弱点: 氷
「森渡りす達と水草の精を倒した。経験値を、ユーは461、ブレイオは751、ラフィは1447獲得しました。」
「ユーさん、さっきりすにがぶってされていたように見えたけれど、体は千切れてないかな?」
「あぁ、アレは前歯だったか。とりあえず千切れてはないし、そもそも刺さってもいないな。」
「だよね~。とりあえず、ラフィちゃんがすくすく育ちそうだね。でも、剣術も使わせてあげたいかな?」
「だそうだ。ラフィ、剣術でも戦ってみるか?」
「ん。やってみる。」
その後、俺たちは樹海の浅層で狩りに明け暮れたのだった。
なお、ラフィの装備は「氷銀の剣」なので、単体攻撃に限れば、魔歌よりもモンスターへの通りは良かった。ただ、森渡りすに交わされたり、ハンマープラントに腕を縛られたりもしたため、やはり魔法も必要という結論にはなった。