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「モンスターの群れを倒した。経験値を、ユーは322、ブレイオ、ラフィは732獲得しました。」
イールの樹海に挑み始めてから3日目… 現在は深層で狩りをしている。
今襲ってきたのは、停滞の嬢王蜂、森渡りす2匹、森妖精3匹だ。ラフィが、消費MPが増す代わりに2つの歌を同時発動できる「複合魔歌」を習得できたため、回復系の能力を封じる「封癒」と、冷気ダメージの「吹雪」を使わせて対処した。
「ふぅ。森妖精の群れは危険だね。ラフィちゃんがいなかったら大変だったよ。」
「複合魔歌のおかげだな。ラフィ、MPは大丈夫か?」
「ん。いっぱい使った。妖精から吸ったけれど、何回も続くと保たない。」
「だろうな。譲魔の古祈…」
「いいの?」
「こっちはポーションで補給すればいいからな。」
今、俺が使った技「譲魔の古祈」は、昨日「古式祈祷術」が進化したことで習得したものだ。
上位古式祈祷術:
説明: 祈祷を通じて、世界に満ちる魔法を行使する上級技能。歴史上から隠された本来の神、あるいは、その化身の力を引き出す。
伝心の古祈: 祈祷対象へ、自身の念話を伝える。「念話」と違い距離の制限は無いが、距離に比例して消費MPが増える。なお「念話」は距離制限がある代わりにMP消費なしで使える。
回生の古祈: 自身の全HP、全MPを消費して、パーティメンバー全員を復活、HP回復させる。ただし、自身が死亡し、その戦闘中は復活を受け付けなくなる。俺の場合、召喚主死亡に伴いブレイオとラフィが強制送還されるためほぼ無意味。
譲魔の古祈: 自身のMPを指定した者へ譲渡する。なお、実際に回復するMP量は、消費MPの70%。
他に習得した技は、今の所、あまり必要とは言いずらい。が、「情魔の古祈」はポーションが効かないラフィに有効なので助かる。一応、ラフィは魔力草を食べることはできるのだが、俺がMPを譲渡してポーションを飲んだ方が回復効率が良かった。
もちろん、進化したのは「古式祈祷術」だけではない。「中位裁定」も、「上位裁定」に進化した。
上位裁定:
説明: 真理に従う者を導き、反する者を裁き、滅する上級技能。
裁定の杭: 「真理の枷」が付いている相手を攻撃した時のクリティカル率が上昇。ただし、自分で攻撃する時にしか適応されない。「真理の枷」の特性により、並みのモンスターだと検証する前に倒れてしまう。
裁定の大枷: 「裁定の枷」の上位技。威力は、「真理の枷+13」の森妖精が一撃で消し飛ぶほどの威力だった。ただし、使用すると、相手にスタックされている全ての「真理の枷」が解放される。なお、「枷の報い」で「裁定の枷」とどちらを発動させるかが選択可能。
俺以外だと、ブレイオの「棍巧術」が「棍聖術」に進化した。具体的にブレイオがどう戦っているのかは知らないが、「力が増し、手に馴染むようになった」と言っていたので、順当に強くなったのだとは思う。
また、「気留術」は、予定通りヨガルートの「気宿術」に進化した。遠距離攻撃は魔法で十分なので、その火力やMPリソースを潤沢にしたかったからだ。
それにしても、さすがに必要経験値が増してきたと思う。
レベル34のラフィが、レベル40に上がるためには、合計約 90000 の経験値が必要だ。しかも、上限レベルのこともあり、モンスターからもらえる経験値は徐々に減っていく。
冒頭のメッセージは、レベル40の俺、レベル39のブレイオとラフィが獲得した経験値だ。つまり、5~6匹くらいのモンスターの群れを、25セットも倒す必要があるわけだ。なお、リーネさんはこのマップでの上限値、レベル41に上がっている。
まぁ、言ってしまえば25セットを狩れば良いのだ。今の俺たちなら、できないことではなかった。
「ラフィのレベルが40に上がりました。」
「ラフィの進化が可能です。進化先を選択して下さい。」
というわけで、夕方前に目標を達成した。では、進化先を確認しよう。
剣舞の成魂:
種族: モンスター・ゴースト
説明: 剣を持つ女性の体を取る思念体。成熟した己を夢見て、舞を磨く。
剣舞姫の魂:
種族: モンスター・ゴースト
説明: 剣を持つ女性の体を取る思念体。舞踊の頂の一つへ向けて、技を磨く。
おそらく「剣舞の成魂」が順当ルート、「剣舞姫の魂」が特殊ルートだろう。
ただ、「剣舞姫」のルートは、けっこう攻撃的になるらしい。識別した所、相手の耐性を貫通する能力が生えたり、攻撃の速度が増したりするそうだ。前線で目立ちながら引っ張っていく感じなのだろう。
一方で、通常ルートには単発の火力や防御力では劣る部分もあるようだ。劣っているからこそ、貫通力や手数で稼ぐのだろう。
とりあえず、進化ルートについて説明して、ラフィの考えを聞くとしよう。その結果…
「ん。私、今のまま大きくなりたい。」
「今のままか。理由を教えてもらえるか?」
「ユーやリーネ、ブレイオみたいに大きくなりたい。技も魔法も使いたい。」
「おや?お姉さんみたいになりたいだなんて、可愛いこと言うじゃないか。まぁでも、私も成魂が良いと思うよ。貫通させてでもラフィで戦わないといけない相手なら、ユーさんかブレイオちゃんがやれば良いと思うから。」
確かにリーネさんの言う通りか。剣舞姫の能力を得なければできないことがあるか?と言われると、当面は無いと思う。それは、今俺たちがこの樹海の奥部でしっかり戦えていることが証明しているからだ。
俺とブレイオでどうしても対処できないモンスターとは、今の所植物とスライムだ。そして、ラフィはその両方によく刺さっている。
あとは、敏捷が高く、雷や氷に耐性のありそうな非実態系のモンスターもいるかもしれない。ただ、そういうモンスターは、ラフィが剣舞姫になったとしても状況は変わらないと思う。
「そうだな。わかった。ただ、言っておいて申し訳ないが、進化は明日まで待ってもらえるだろうか?具体的には、この先にいるボスを倒すまでな。」
「ぬ。主人、どういうことだ?」
「一番大きいのは、ゆっくり進化を堪能できなさそうなことだな。モンスターの密度が濃くて、場所と時間を作るのが難しい。」
「う~ん、確かに慌ただしくなりそうだとは思ったよ。モンスターは進化を待ってくれないだろうし。」
「ん。いい。私も、今の力で挑みたい。そんな気がする。」
現在、俺たちがいるのは、樹海のほぼ東端だ。つまり、この先には、樹海を超えるべく挑む者への最後の試練、E6フィールドボスが待ち構えている。
「というか、今ボスって言ったけれど、やっぱりこの先にいるんだね。正直、今までのモンスターとは全く違う気配を感じているよ。それに、危険感知も。」
「残念ながら素通しはしてくれないだろうな。そして、俺がラフィの力を借りなければ突破できないと考えた原因でもあるぞ。まぁ、単純に体術が上級に至っていなかった影響もあるんだけれど。」
「主人は知っていたのだな。我が感じるのは精霊の眷属だぞ。それも、我よりも上位だ。」
「ん。ちょっと怖い。」
「森を作った張本人かどうかはわからないが、この樹海の頂点であることには違いないからな。だが、大丈夫だ、ラフィ。力を合わせれば勝てると思っているぞ。」
「ユーさん、自信に満ちているね。先人の知識かな?」
「言ってしまえばその通りだ。倒すための準備をしっかりして来たからな。」
その後、ラフィの進化はいったん保留とし、俺たちは休むことにした。
明日は、この樹海の主にして、E6のフィールドボス「緑侵の精霊エルアドニ」を倒し、第7マップに至る。
ラフィの召喚に組み込まれた滅び草の種。それがこの森で使われるものだったのか否かはわからない。
ただ、この地もモンスターに滅ぼされ、森に飲まれた地になった場所であることは歴史上の事実だ。そして、隣のマップに「草原を統べる獣」という先遣隊兼番人を置いている程度には、何かしらの思惑があるのだろう。
まぁ、そんな考察よりも大事なことがある。それは、4月から始めた長期旅行の終着点の一つということだ。全力で挑むとしよう。