14-12 E6フィールドボス「緑侵の精霊エルアドニ」

改定:

本文

「ん?ここ、何かいる…」

「どう見てもボスが動き回るのに都合の良い広場だね。でも、私にはまだ見えないよ。」

程なくして、俺たちはフィールドボスが出現する場所に突入した。リーネさんの話通りなら、今回のボスは、気配はあれど、突っ立ってはいないようだ。

と、地面がドーンと一回揺れた。そして、正面の方から音がした。

「緑が、集まってくる。」

「いや、違う。姿を現しているのだ。」

森に同化していたのが、俺たちを狩るために実態化したのか、はたまた、光学迷彩の類で隠れていたのか… いずれにしても、今までのモンスターとは違うヤツ、おそらくフィールドボスが出てきているのだろう。

「ん。鑑定…」

「やらせないよ!」

「ん。緑侵の精霊エルアドニ。ユーの言った通り。」

「よし。リーネさん、種を頼む。」

「ユーさん容赦ないね。まぁ当然だけれど!」

どうやら、フィールドボスご本人で合っているようだ。

そして、まとめウィキの情報通り、鑑定に対する反撃として、槍のような根が高速で伸びて来たらしい。即死するような致命的な威力ではないが、クリティカル率が高いため、可能なら防ぐことが推奨されていた。なお、防ぐには「超反応」が必要なので、リーネさんがいなかった場合は、俺が盾になっていただろう。

ラフィたちには、やるべきことを伝えてある。なので、俺はボスへ近づくべく前進を始めた。

このエルアドニは、少なくとも前半はその場から動かないらしい。主な攻撃は、魔法による攻撃や、「樹人形」で召喚した樹木のモンスターによる突撃だ。

と、前方から草の上を駆け抜けてくる何かの音がしてきた。この音は、「茨走」という直線攻撃だったはず。音がしているので俺にも有効だ。

俺は転がるようにして横に避けた。「跳躍」技能が育っていれば飛んで交わせるそうだが、失敗すると足に絡まるなどしてぐっさりと刺さる、とのこと。茨の大きさはわからないが、転がった方がマシだと思う。

起き上がると、前方に雷の音がした。ブレイオの落雷だ。ダメージは微妙だろうが、音が鳴っている所にエルアドニはいるはずだ。そういう指示をしたからな。

近づいていくと、正面からぼふっとした物がぶつかったり、下から何か伸びて来たりした。正面のは「緑弾」で、下からのは「弦縛」だろう。後者は陣気で吹き飛ばす。

さらにバチバチとした音がしている所へ近づくと、触れることができたので攻撃開始。序盤は地面に根付いているため投げ技は効果無しだったはず。なので、炎属性付与からの魔揺拳、腕刃、錬混拳と繋げた。

ん?平らな何か… 木壁か。なら、瓦割も混ぜて行こう。確か、上級からは下手に力押しすると、粉砕時の破片などが突き刺さったりするはずだからな。

一方、こちらはブレイオ。

同じ精霊の眷属との戦いだ。だが、ヤツは樹海だけならず、その外も緑で満たそうとしている。そのくらいの気概を感じる。

だが、それ以上に、この精霊は我らに試練を課しているようにも感じられる。この先の地へ踏み込む資格を試しているのだろうか?

先ほど、主人を送り出した。主人は、地を走る茨を避け、魔法を弾きながら近づいている。あの主人でも避けなければならないほど、あの茨や弦は危険なのだろう。

残念ながら、我の攻撃はほとんど通じていない。だが、雷を与えることで、主人に場所を知らせることができる。

「お?人形来たよ!ブレイオちゃん、お願い!」

「ぬ、承知!木の人形なぞ、砕いてくれる!」

我は、主人に授かった力、広雷を使った。

我の雷は、木の人形がどこにいても逃がさない。そして、主人が教えてくれた通り、容易に砕くことができた。

こちらはラフィ。

私は、最初に鑑定をした後、ずっと波月の歌を歌っている。樹木の精霊であるエルアドニに終わりの夜をもたらす魔歌だ。

ブレイオは精霊の眷属と言っていたが、私にはモンスターにしか見えない。精霊は、私たちを殺し、飲み込み、この森をもっともっと広げようとしている。その森も、良い森じゃない。私たちを誘い、飲み込む森だった。

だから、私は許さない。みんなが悲しくなるから。この精霊は滅ぼさなければならないと思った。

「いやぁ、ラフィちゃん、凄く狙われてるね~。まぁ、歌いながら動くのが難しいからかもしれないけれど。」

「だが、これで良い。あの精霊には確実に効いているぞ。」

「そうだね。ユーさんがボッコボコにしてくれているから、もうちょっと… あ、動き出したね!」

「来たか。我が雷の分身よ。行け!」

私の前で、精霊エルアドニは地面から離れ、移動を始めた。こっちにも来るだろうし、ユーからも逃げようとしているように見える。

あ、ユーに槍が… でも、ちゃんと弾いてる。やっぱりユーは強い。

ん?こっちに飛んできた!それなら、私も戦う。私は剣や魔法だって使えるのだから。

一方、こちらはリーネ。

ついに、イールの樹海を踏破できる所まで来た。私がこの地を超えることは初めてだ。

今早退しているのは、この樹海の支配者「緑侵の精霊エルアドニ」だ。

今まで戦ってきたモンスターとは一味も二味も違った。鑑定したら槍のような弦がラフィを串刺しにしようとしてきた所から違う。

そして、強力な魔法も次々と使ってきた。あちこちから茨や弦が伸びてくるので、私は、さっきからそれを切り払ってばかりだ。

でも、一番の脅威は、その回復力だった。滅び草の種を撒いて、ラフィちゃんが波月の歌で攻撃を続けているのに、何もしないとHPが回復しているように見えるからだ。ダメージは残っていると思うけれど、ユーさんが攻撃して付けた傷は既に塞がっている。

ユーさんが、長い時間をかけて準備をしてきた意味がよくわかった。まぁ、私たち、今は4人で戦っているから、仲間がさらに2人加われば余裕を持って戦えたかもしれない。いや、でも、ソルットで生活していた時の私だったら無理だったと思うので、やはり鍛え直したことには意味があった。

そういえば、ユーさんは、「動き回るようになってからは鑑定しても大丈夫」と言っていた。それなら、今の内に鑑定しておこう。

緑侵の精霊エルアドニ:

種別: モンスター・フィールドボス・精霊

レベル: 43

HP: 49%

状態: 敵対, 真理の枷+13

説明: イールの樹海の一部とも伝えられている精霊の眷属。大いなる自然の力を行使し、自らの力である森を広げ、外にある物を貪欲に取り込み続けている。

識別:

体力: 8600

魔力: 430

筋力: 86

防御: 129

精神: 107

知性: 129

敏捷: 86

器用: 107

属性: 木

弱点: 炎, 月

なるほど。高い体力と防御力、そして回復力を持ち合わせていた。攻撃力は決して低くはないので、ユーさんがいつも通り弾いている魔法を、私たちが直撃したら危険だろう。

私は、ブレイオちゃんとラフィちゃんに殺到している弦を切り裂いた。

戻って、こちらはユー。

エルアドニに張り付いてボッコボコにしている。俺はまだ鑑定をできていないため、実際の与ダメージはわからないが、感覚的にはやはり炎属性がよく効いているように感じる。

俺が鑑定していないのは、冒頭でラフィとリーネさんが対処したカウンターだ。「鑑定すると瞬時に来る反撃」という性質を知っている上に、俺は触鑑定のため密着しなければならない。最悪のケースとして、鑑定した部分から串刺にされ、欠損を折ったり即死したりするかもしれない。

そんなエルアドニは、先ほどHPが50%を下回ったようで、浮遊して動き回るようになった。移動速度は速くないらしいが、俺の敏捷だと、走って追いかける必要がある程度には速かった。そして、やはり浮遊しているためか、足音を聞き取ることはできなかった。

そこで、ブレイオの魔法「雷人形」で作りだした分身体を使って、位置の特定と足止めを狙ってもらった。残念ながら、迎撃のためにエルアドニが立ち止まることは無かったようだが、雷人形の位置から音がするので、追いかけることができている。

いや、遠くに行った場合には追いかけるのはあきらめて、祈祷による補助に切り替えよう。たぶん、ブレイオやラフィ、リーネさんの方にも行くだろう。というか、被弾し始めているので、回復必須か。

そうして戦っていると、エルアドニがいた方向から、動画で聞いたことのある音がした。何かエネルギーが収束していくような音だった。

それは、エルアドニの残りHPが10%以下になった時に突入する強化状態だ。防御力が低下する代わりに、攻撃力が2倍になり、同じ系統の魔法が多段発動するらしい。

「え!いやいや!木弾の数が多すぎ!じゃなかった!ユーさん、ラフィちゃん!」

「だな。溢期法!ラフィ、やれ!」

「ん。恨遷!」

今、ラフィが使用した「恨遷」は、ヘイトを味方に押し付ける霊術だ。これにより、強化状態のエルアドニは高確率で俺の方に向かってくるだろう。

その後、何かが体にぶつかったり刺さったりした。正面から魔法を連射されているため、「正々堂々」による減退効果が普段より弱い。

だが、どこに当たるかは当たってみるまでわからない。それだけで十分だった。

そのまま、飛んでくる方へ近づいて行くと、前から何か重いもので指圧された。たぶん、エルアドニが持っているらしい槍だろう。そして、俺はヤツを捕まえた!

「サボテンバフ最大なんで、トゲトゲしてるぞ!纏炎からの修羅拳!重落!そんでもって、裁定の大枷!」

捕まえたエルアドニを無数の拳で打ち据えた後、重力で押しつぶすような力で投げ、たたきつけた。そして、ここに来るまでに付与した「真理の枷+25」を全て解き放った。それは、今俺が使える技の中で頭一つ飛び抜けた威力だ。

結果、エルアドニは地面に溶けるように消えていき、出現と共に逃げ道を塞ぐように群生していた茨や蔦は枯れ、光へと消えていった… らしい。後から教えてもらった。

なお、攻撃後、HPが残っていたら?と思い、エルアドニをたたきつけた地面にはすぐに触れてみたのだが、ただの地面になっていて、草や葉っぱの類は無かった。地面に溶けていくからと言って、液体のようなものが手に付くことも無いようだ。