本文
「あ、ユーさんだ。おはよう。」
「その声はアヤさんか。」
「うん。ここは相変わらず冷えてるね~。あ、ラフィちゃん、大きくなってる!」
「ん。昨日、進化した。」
「わぁ、ラフィちゃん凄い。僕、早く進化したい。」
「そうだね。でも、冒険は大事だよ。ラフィちゃんも、急に進化したわけじゃないみたいだし。」
「ところで、行きたい場所とかは決めているか?特に無いなら、こっちで決めた所に行く予定だぞ。」
「雪遊びだよね?動画で見てきたよ。場所の名前はメモしてあるから、チャットで送っておくね。」
「お、助かる。」
本日は連休の最終日。
今日は、北の第5マップで雪遊びと温泉を堪能する。ゲーム内で2日ほどかければ、両方をこなせるだろう。
ということで、北の出口へと向かった。リーネさんとは、そこで合流することになっている。
「あ、リーネさんいた。あと、隣に誰かいる!」
どうやら、リーネさんと待ち合わせの場所やタイミングが重なった人がいるようだ。あるいは、彼女のファンだろうか?
「ほ~い、ユーさん、アヤさん、こっちこっち。」
「ユーさん、久しぶりだぜ!」
いや、違った。この声は…
「ルーカスか?」
「そうだぜ。なんかいっぱい連れてるみたいだが、賑やかになってるじゃねぇか。」
ヒッツで知り合い、戦う農家になった男、ルーカスだった。
最後に彼と出会ったのは、ブレイオの元になった「幽鬼の召喚石」について調べてもらうためにナザ島へ上陸した時だった。ゲーム内で言えば3カ月以上も前のことだ。
「いろいろあってな。それで、ルーカスが今ここにいる用件は何だ?」
「おぅ。そっちのサブマスター… は止めたんだったな。とにかく、雪原を散策するって聞いて、同行させて欲しいのさ。雪原で取れる素材を集めたいんだが、混ぜてくれるヤツがいなくてな。」
「彼とは昨晩ここで会ってね。一応、ユーさんとアヤさんの確認が必要だと思うからここに来てもらったんだよ。」
「う~ん。私はいいと思うよ。ユーさんは?」
「要所で雪遊びしながらの移動になるが、それでも良いなら俺もOKだ。ちなみに、本当の意味での雪遊びな。」
「かまわないぜ。時間をかけてくれた方が、こっちも採集が捗るしな。」
どうやら、長期旅行の終わりに、一つ楽しい思い出が増えそうである。
「わかった。それと、鑑定はさせてもらっていいか?」
「必要か?」
「雪原はモンスターも出るからな。ルーカスの現状がわからないままではこっちが困るんだ。」
「そうか。まぁ仕方ないよな。わかったぜ。」
ということで、ルーカスをパーティに加え、触鑑定させてもらった。その結果…
名前: ルーカス
称号: [熟練の戦う農家]
レベル: 25
体力: 101
魔力: 31
筋力: 81
防御: 45
精神: 35
知性: 56
敏捷: 56
器用: 98
技能:
適性: 中級農耕10, 中級木工6, 鎌巧術10, 小槌巧術7, 中級採集8, 中級細工3, 魔法(土28, 水22, 風21, 炎26, 光20, 木22)
技術: 完全解体9, 運搬30, 危険感知27, 魔力制御12, 疾駆11, 鑑定15, 特攻看破3, 高速遊泳1, 安定動作12, 掘削17
支援: 握力強化, 視力強化(暗, 遠), 直感27, 反応強化, 大地の祝福, 山の心, 森の心, 海の心, 滝の心, 植物知識, 鉱物知識, 剛体, 剛力, 繊細
耐性: 空腹耐性, 頑強, 暑気耐性, 毒耐性, マヒ抵抗, 眠り抵抗, 混乱耐性, 恐怖抵抗, 幻影抵抗, 暗闇抵抗
特質: 草木の侵食
装備:
魔鉄の鎌, 銀編の強化布服, 銀編の合革帽子, 水中花の靴下, 剛革の具足, 合革の小手, 魔力の指輪, 魔樹の指輪, 赤石の指輪
ゴーレム:
スパイク(突撃系支援ゴーレム)
「ルーカス。お前、ダンジョン産の草を拾い食いしただろう?」
「あぁ、やっぱりそうだよね~。」
「え?何何?」
ルーカスは成長していた。それは良いのだが、一つ、ヤバい技能が生えてしまっていた。「草木の侵食」である。
草木の侵食:
説明: 驚異的な生命力を持つものの、熱や冷気と言った環境に弱かった植物は、生物の体という苗どころを獲得、侵食を始めた。侵食を受けた者は、植物としての特性を一部成就できるが、同時に植物が持っていた弱点の多くを負うだろう。
識別: マヒ、気絶耐性上昇(小)、土、木属性耐性上昇(小)、炎、氷属性耐性低下(大)、燃焼、凍結耐性低下(大)、毒、精神異常耐性低下(中)。
主に、ダンジョン産の危険な植物を食用、飲用することで生える凶器技能だ。多少の身体異常耐性と引き換えに、精神異常への弱体や炎、冷気に対する耐性低下などが付いてしまう。このままでは、装備やアイテムで補助しても、雪原の寒さに苦しむだろう。
「す すまねぇ。ネズミ罠で食料をやられて、草を飲むしかなくなっちまったんだ。」
「餓死する勇気が無かったか。それで、どれくらい前にやらかしたんだ?」
「1カ月前だ。どうにかならないかといろいろ試したんだが、ダメだった。」
「ねぇ、ユーさん、リーネさん。何の話?」
「ルーカスに生えている技能 草木の侵食 だな。ヤバい草を拾い食いして、体内に寄生されたようだ。」
「え?本で読んだけれど、そんなことあるの!」
「残念ながらマジだぞ。火の無い所に煙は立たない… というやつだな。」
「なるほど~。気をつけるよ。まぁ、草をそのまま食べたいとは思わないけれど。」
「食料をやられた時は、全力で帰るか、あきらめて餓死した方がマシだ。ルーカスが負っている技能は、そういう類の話だからな。」
この世界は、モンスターが湧く世界だ。それも、「規制花」や「トレント」のように、自己意思を持って襲ってくる植物がいるのだから、危険な草が見つかることなんて珍しくないだろう。
なお、危険の草を安全に食用するためには、「料理」や「植物学」などの技能が必要だ。俺が持っている「薬草学」では、「薬草」に分類されているものはOKだが、それ以外の植物がNGである。
「それで、ユーさん、どうする?私の見立てだと、雪原なんて行ったら、苦しいんじゃないかな?」
「もちろん、今すぐ治すぞ。1カ月も耐えたみたいだから、治さない理由も無いからな。」
ということで、俺は先日手に入れたアイテム「技能消去の秘薬」を取り出した。貴重品ではあるが、今が使い時だし、こんなことで旅行に水を差されたくないからだ。
「ルーカス。今こいつを飲んで、 草木の侵食 を消してくれ。」
「な なんだ!そいつは?」
「技能消去の秘薬だね。ルーカスさん、その薬を飲んで念じれば、望んだ技能を消すことができるんだ。」
「マジか。初めて聞いたぜ。貴重なアイテムじゃないのか?」
「そうだ。今度ダンジョンで拾ったら返してくれ。なお、こいつが出始めるのは、ノズトールやイールなんかよりも先のダンジョンからだから、しっかり強くなるんだぞ。」
「あ あぁ。だが、いいのか?ユーさん、必要じゃないのか?」
「今の所、必要にはなってないから問題無いぞ。むしろ、今ルーカスの技能を治してもらわないと、雪原に連れて行けなくて、楽しみが台無しだ。」
「わ わかったぜ。ユーさんには、また借りができちまったな。」
ルーカスは、俺から「技能消去の秘薬」を受け取り、飲み始めた。その結果…
「ルーカスの技能 草木の侵食 が消去されました。」
「ルーカスは、技能 緑の祝福, 冷感抵抗, 燃焼抵抗 を獲得しました。」
「ルーカスは、称号 異界の門の到達者 を獲得しました。」
「ルーカスの技能 植物知識 が 植物学 に進化しました。」
秘薬については、特別なエフェクトの類は無いようだ。ルーカスの体の中ではいろいろ起こっているのかもしれない。だが、外からわかるのは、ただ瓶入りの薬を飲んでいる… といった所だろう。
それはそうと、予想以上にいろいろな変化があったようだ。長期間、「草木の侵食」に抵抗してきた成果や、この技能があったために抑制されていた諸々が解放された結果なのだろう。
あと、公式イベントにリーネさんが入れちゃった原因と考えられる称号「異界の門の到達者」が生えた。ルーカスの好感度が上がった影響なのか、あるいは、「技能消去の秘薬」の影響か…
まぁ、今は何でも良いか。この称号があって損をすることは無いのだ。ただ、今度機会があれば、アインステーフに連れて行けるか試してみよう。
「な なんだ!急に寒さが引いてきたぜ。冷感抵抗ってやつか?」
「熱や冷気に対して脆弱だった体が元に戻った影響だろうな。慣れるまでは大変かもしれないが、安心はしていいと思うぞ。」
「わかったぜ。なんか力も漲る感じがするし、感謝だな。」
「じゃ、さっそく雪原に行こうか。ルーカスは、雪原超えの準備はあるよな?」
「そいつは問題無いぜ。むしろ、治せると思ってなかったからたっぷり準備したぞ。」
こうして、冒頭からイベントはあったが、俺たちはキースノーズ雪原へと歩みを進めた。
なお、パーティ編成は以下の通りとなった。
- ユー(ブレイオ, ラフィ)
- おくたん
- アヤ(フリーン, メイレン, ルナー)
- リーネ
- ルーカス(スパイク)
アヤの印術も上級に至り、召喚枠が1つ増えた。結果、一人で3枠の召喚を扱えるようになったことで、パーティ枠に余裕ができた。
なお、それぞれのポジションは以下の通りだ。
- ユー: ヒーラー、バッファー
- ブレイオ: アヤの護衛、遊撃
- ラフィ: 索敵、バッファー
- おくたん: 採集
- リーネ: 索敵、アタッカー
- ルーカス: アタッカー
- スパイク: アタッカー
- アヤ+フリーン: バッファー、遊撃
- ルナー: アヤの護衛
- メイレン: ヒーラー
「アヤさん、今回はアタッカーを助けて欲しいぞ。少なくともメイレンを含め身を守ってくれ。」
「もちろんだよ。というか、私、護衛要らないと思うよ?」
「そうかな?アヤさん、ウェビンの荒野で…」
「あ、えっと… ごめんなさい。守ってくれるとうれしいです!」
アヤに護衛は必須である。今までの地域だと、モンスターが弱かったから問題が無かったのだ。だが、彼女のステータスだと、第5マップのモンスターに群れられて物理で攻められたら死に戻るだろう。